第63話
ジョージは2ヶ月ちょっとを掛けて西の山から南側を探索した。山裾から少しだけ中に入ってそのまま南下する。野営は森の木の中でし、朝から夕方までひたすらに歩いては自分の目で周囲を探しながら木彫りの女神像の反応を見ていた。
結局2ヶ月以上もの間、木彫りの女神像が反応することはなかった。山の奥に入ったら反応があったかもしれないとは考えないことにしている。自分が決めたやり方を貫くだけだ。
「久しぶりだな」
久しぶりのホテル、シャワーを浴び仮眠をした彼が夕刻にレストランに降りると彼の姿を見たジャンセンが声をかけてきた。彼と同じテーブルに座ると料理をオーダーする。久しぶりのまともな食事だ。
「ここのレストランの味を毎晩思い出していたよ」
「俺も山に入るとそうだ。このレストランの飯を思い出しながら毎日まずい干しパンや果実を齧ってるよ」
2人は食事をし終えるとメーラルに顔をだした。店の中にはマスターのニールセンしかおらず、他に客はいない。
「ジョージ、久しぶりだな。遠出してたのか」
「その通り、今朝帰ってきたよ。明日は休養する」
休むタイミングも自分で決める。無理をするか、しないか。全て自己判断だ。休んでいる間に他の奴がゲートを見つけるかもしれない、休んだことで探索をしなかったエリアにゲートがあったらどうしよう。
皆それぞれ悩みながら体調管理をする。この川の街にまでやって来られる迷い人は体調管理についても自分なりのルールをしっかりと持っている者が多い。なのでジョージが明日休みにすると言っても「そうか」で終わる。
ジョージが不在の間も川の街には大きな変化はなかったそうだ。大きな変化というのは犯罪や殺人を指すことが多いが、もともと悪落ちしている迷い人がほとんどいないこの街ではニュースになる様な事件は滅多に起きない。
人の動きは若干の入りと出があったそうだ。新しく街にやってきた迷い人の中にはアイクとキキも入っているだろう。
「街を出て行った連中もいるってことか」
「そうだ。5名で街を出ていったみたいだぞ」
飲み屋には情報が集まる。ゲートの情報ではなくてこうした迷い人の動向に関する情報は集まりやすい。
「街を出た連中は2チーム合同で1つのチームを組んだ。2名のチームと3名のチームだ。普段からあまり活動をしてない連中だったよ。たいてい街の中にいた」
ニールセンが言うとジャンセンとジョージが同時に顔を上げてニールセンを見た。
「そんな奴らが山裾の街に?物見雄山で南に向かったのだとしたら辿り着くのすら簡単じゃないぞ」
ジャンゼンが言うと首を左右に振るニールセン。
「俺は彼らが山裾の街に出向いたと俺は言ってない。奴らは南の街、滝の上の台地に戻っていったんだよ」
そう言う事かと納得するジャンセンとジョージ。
この街で稼げない、そして歳をとってきた。となると迷い人をやめた後の事を考えて北の台地の上に戻って行ったのだろう。それも各自の判断だ。
「10年近く強い気持ちを持ち続けることは簡単じゃない。肉体的、精神的に疲れてくる。弱気にもなるし、達観もする。かく言う俺もその口だ」
ニールセンが自嘲気味に言った。ジャンセンもジョージを南の街に戻った連中を負け組とは思わない。簡単じゃない決断をしたのだろうということは実際ゲートを探し始めると分かる。ただ自分はまだ4年目だ。今後街の東の南側を同じ様に調べて何も変化がなければ次は山裾の街を目指していくつもりだ。
それにしてもゲート探しという試練、ミッションはいかに多くの迷い人の心をへし折ってきたのだろう。最初は俺が見つけてやると意気込んでこの地に降りたものの、動けば動く程この大陸の広大さ、そしてその中にある1つのゲートを探すことの難しさを身をもって知ることになる。
砂の中で針を探す。本当にそんな作業だ。普通に考えたら不可能な試練と言える。だからこそスモーキーが言っていた”ヒント”を見つける事が大事になると考えている。
自分は装備も良い、その上2番目の街では薬屋のミーシャから木彫りの女神像を手に入れている。まだ他にもヒントがあるはずだ。
「しばらくはまだこの街にいるのか?」
2人の前に酒のおかわりを置いたニールセンが言った。
「俺はまだいる。怪しい場所がいくらでもあるからな」
「ジョージはどうなんだ?」
「気になる場所がある。そこを探索して何もなかったら、山裾の街へ移動する準備を始めようと思っている」
「この街に何年いる?」
ジョージが答えるとニールセンが聞いてきた。
「1年半ちょっと。あと半年ほどで移動する感じかな」
「ソロで移動するのだろう?」
隣からジャンセンが聞き、そのつもりだと答えたジョージ。ジャンセンもニールセンもそれ以上何も言ってこない。
「この川の街から山裾の街までは結構距離がある。途中の魔獣もサイズが大きくなって強いのが出てくる。簡単じゃないぞ」
「覚悟の上だよ」
ニールセンが山裾の街のおおよその場所を教えてくれた。一番行きやすい方法はこの街からひたすらに南を目指し、高い山に着いたらそれから東に向かう。山の裾まで1ヶ月半から2ヶ月、そこから山裾の街まで1ヶ月。合計で3ヶ月弱の旅になる。
「途中の森の中には川もあり果実もある。飢えは凌げるだろう」
「それは良い情報だな。でかい荷物を持って移動するのは疲れるんだよ」
魔法袋の事は言えない。
翌日を完全休養日にしたジョージはその次の日は街の郊外の草原で身体を軽く動かし、夜にキリシマに顔を出した。カウンターの隅にはジュンもいる。
「久しぶりだな」「やあ久しぶり」
店に入ると2人から声を掛けられる。ジョージはジュンと椅子を1つ空けた隣に座った。
「遠出をしていたみたいだね」
「2ヶ月ちょっと東の山から南方面を探索していたんですよ」
ジュンはホテルのオーナーだ。宿泊客の動向を知っていてもおかしくない。そして泊まっているオーナーであることを知ったのでジョージの口調が少し丁寧になる。
「その表情だと良い成果は得られなかった様だね」
今日はジュンが積極的に話しかけてくる。ケンゾーは黙ってグラスに酒を継ぎ足していた。
「簡単じゃないのは分かってるんでね。もちろん残念だけどあの場所には無いと自分の中で割り切れたのでそういう意味では成果がゼロではないと思ってる」
ジョージがそういうとその通りだとそれまで黙っていたケンゾーが言った。
「そうやってポジティブな発想ができるってのは大事だ」
ジュンもその通りだと言っている。
「狙いをつけて探した場所に何もなかった。悔しい、なぜだ。とか貴重な時間をロスしたとかネガティブな発想をする奴は結局最後は気持ちがもたなくなってギブアップするんだ」
「それでこれからどうするんだね?」
「東の山の南側を同じ様に探索する予定。最初はそれが終わったら一旦この街に戻り、再び遠出の準備をして南の山裾の街を目指す予定ですよ」
2ヶ月ちょっとの山の探索、南方面に行くのでそのまま山裾の街を目指そうかと思ったが、そうなるとかなり長期間の遠出になる。食料は無論、長期間の野営に耐えられるのか。集中力が少しでも切れたらやられる。そう考えると一度街に戻って気持ちをリセットしてから南に出向いた方がいいだろうというのがジョージの考え方だ。ここにきて数ヶ月急いだところで意味がないと彼は思っている。
「私としては長期間泊まっていただけるので今のジョージの考えに賛成だよ」
ジュンが笑いながら言ってから真面目な顔になった。
「今のは冗談だけど、それを抜きにしてもジョージの考え方が正解だと思う。焦って事故にあったら即終わりだ。長期の移動は本当にきつい。気分のリセットは大事だと思うよ」
ケンゾーも同じ意見だった。
「ここから山裾の街までは3ヶ月程かかる。道中の魔獣は基本ここと同じ種類だがサイズアップしているのもいる。特に草原の野営がきついんだ。森の方が木の枝で寝られるので襲われる心配がないからな」
「なるほど」
草原の方が大変だというのも理解できる。隠れられる場所がほとんどない。
「草原の野営の時は気を付けろ」
「分かった」




