第59話
街を出てから2ヶ月後、彼は2度目の山の探索を終えて川の街に戻ってきた。ゲートは見つからなかったが白金貨6枚程度を稼いでいた。もしこの街で魔法袋が売っていたら即金で大と小の2つを同時に買えるほどの所持金になる。ただここでは売っていない。
ホテルの部屋に戻ると自家製の地図を見て探索を終えたエリアにX印をつける。西の山の探索が少しずつだが進んでいるが依然として空白のエリアが多い。東の山はまだ手付かずだ。ジョージは帰ってきてX印をつけたエリアは頭の中から忘れる事にする。
限られた時間で広大なエリアを探すこのミッション。割り切りも必要だろう。
彼がそうやって割り切れる最大の理由は持参している木彫りの女神像が反応しないことだ。黒豹の一件以来。ジョージは木彫りの女神像が何かあれば反応すると信じている。今のところ西の山の中で女神像は反応していない。
どれくらいの距離で反応するかは分からないにしてもこの女神像は自分に迫っている危機を知らせる以外に、自分にとっての道標、羅針盤であるのは間違いないと信じている。
山の中を歩いていればいずれ何か反応してくるはずだ。
山から帰ってきた翌日、街の郊外で軽く体を動かした彼は夕刻にレストランで1人で食事を済ませると夕涼みに夜の街に繰り出した。この街は川のそばにあり街の中にも水路が張り巡らされているので夕涼みには丁度いい。
”キリシマ”や”メーラル”の看板を横目に見ながら通りを歩いたジョージは水路の脇にあるベンチに腰を下ろした。日が暮れて涼しい風が吹いている。この世界は最初の街から南に降りて来ているが気候はほとんど変わらない。日本で言うと常春の気候だ。暑くもなければ寒くもない。なので迷い人は年中同じ格好をしている。
ベンチに座って涼んでいると2人の女性の迷い人が自分に近づいてくるのが目に入った。泊まっているホテルのレストランで数度見たことがある2人組だ。
「こんばんは。何度かホテルのレストランで会ってるわね。何をしているの?」
女性は黒髪と金髪の2人で金髪の女性が聞いてきた。
「夕涼み。昨日山から帰ってきて、今日は街の外で軽く体を動かしてたんでね。久しぶりに川の街に帰ってきてリラックスしているところさ」
隣に座っていい?と黒髪が言ってきた。OKするとジョージの横に2人が並んで座った。
彼女達は6年目の迷い人で金髪がシンディでシカゴ出身、黒髪の方はナオミというオレゴン出身の女性だ2人ともアメリカ人でこの世界に来た時から2人で組んで活動をしているのだと言った。この街には1年半前に他の女性達と移動のチームを組んでやってきたらしい。
「俺はジョージ、3年目の日本人だよ。ソロで活動している」
「黒豹を2匹倒しているジョージは有名よ」
ナオミは母親が日本人だそうでポートランドに住んでいたと言った。
「そのせいか迷い人で日本人と聞くと親密感が湧くわね」
「この川の街じゃ少ないのかな?」
ジョージが聞くとシンディが彼に顔を向けた。澄んだブルーの目をしている。
「キリシマしってる?あのマスターが日本人、あとは現役の迷い人じゃ日本人ってのは聞かないわね」
「キリシマは飲みに行ってるから知ってる。そうだよな。それ以外では俺もきかない」
ジョージ自身、同じ年にこの世界にやってきた日本人で知っているのはアヤネの店で会ったルリとミサキくらいだ。彼女達は結局どうしたのだろう。台地の下に降りたのか。それとも諦めたのか。ジョージがそんなことを考えているとシンディの声がした。
「ねえ、ホテルの部屋で飲まない?私たち2人で広めの部屋を1部屋借りてるのよ」
ここでも個別に2部屋借りるよりはその方が安いらしい。ジョージは頷くとベンチから立ち上がった。
2人の部屋はジョージが借りている部屋よりも広かった。
3人は今はソファに座って水を飲みながら話をしている。2人とも身体にバスタオルを巻いている。ジョージも腰にタオルを巻いた格好のままだ。
「山は探索してるの?」
水の入っているグラスをテーブルの上に置いたナオミがジョージに顔を向けて聞いた。
「西の山の探索を始めたところ。東はまだ手付かずだよ」
彼女達も2人で西の山は数度探索したらしい。2人で山の中の魔獣を倒して探索するのだから腕は立つのだろう。
「ずっと2人で活動をしているのかい?」
「そう。移動だけは女性同士でチームを組んで一緒に動くけどね」
南の街からこの川の街への移動は女性5名で黒豹がいる森の中を踏破してきたが、幸いにも黒豹に出会うことはなかったらしい。
「運が良かったと思ってるの。南の街でのルールは皆知っていた。誰かが襲われたらその人を犠牲にして他のメンバーは逃げるってね。言葉ではわかっていても実際そうなったらいやだなと思ってたんだけど、何もなくて良かったわ」
ナオミが言っている。ルールとして存在はしているが実際その場になって生き延びたら生き延びたで罪悪感に苛まれただろうと。シンディも同じだと言う。
「一緒に来た3人だっけ?彼女達もこの街で活動しているのかい?」
「そう。ホテルは別だけどね。彼女達はスターホテルを常宿にしてるわ」
スターホテルはこの街で2番目に良いとされているホテルだ。ジョージは知らないが目の前にいる2人によるとセキュリティは悪くなく、部屋代もここよりも安いが、古いホテルなので上の階の水の出が悪いのとレストランの料理が美味しくないらしい。
2人も最初はスターホテルに1ヶ月住んだが、色々とホテルに不満があったのでその後このリバーサイドホテルに移ってきたそうだ。
「レストランは美味しいし、ホテルも向こうよりこぢんまりとして宿泊客の数が少ないから皆顔見知りになる。部屋代は高いけどそれに見合うファシリティとサービス。宿泊代は2、3日真面目に金策すれば補える差だしね」
「それにこっちの方がずっと静かなのよ。壁も厚そうだし」
リラックスできるのはこっちだと言っている。しっかりと休んで疲れを取ることで日々の活動の効率が上がるという考え方なのだろう。理解できる話だ。
彼女達は今は東の山を探索していると言う。1回の攻略は街から出て街に戻るまで3週間から4週間の日程を組んでいるらしい。
「西の山の方がいやらしいかも。東の山は崖が多いのよ。そこは探さなくてもいいでしょう?」
「なるほど」
無視できるエリアがあるのか。これは1つの情報だな。
「西は一通り見たってこと?」
「山の入り口付近はね。とりあえず両方見てから気になるところを2人で集中的に探す作戦よ」
全体像を掴んでから絞り込むのか。ジョージは聞いていてそう言う方法もありだなと感心する。彼は自分で区割りした場所を順に探っている。
2人ともあるとすれば東西どちらかの山の中だろうと言っているし、その意見にはジョージも賛成だ。草原はもちろんだが、森の中にあるとは思えない。ただその山の中を全て攻略するのは簡単ではない。ただジョージは山の中でも手前側ではなくて奥側が怪しいと思っている。何十年もの間見つかっていないことから見て探しやすいエリアはもう探し尽くされているだろうというのがその理由だ。移動は楽ではないがそれをやるしかない。ただもちろんこのエリアには無いという可能性もある。木彫りの女神像はあるにしても動きまわらなければならない事に変わりはない。
「どこで飲んでるの?」
ナオミが聞いてきたので、さっき言った”キリシマ”とそれ以外ではジャンセンの紹介で”メーラル”に行っているの2つの店の名前をだした。
彼女達はスペイン人の元迷い人の女性がやっている”ヴァレンシア”という飲み屋に行っているそうだ。ジョージもその店の看板は飲み屋街で見た事がある。女性がやっているということでこの街にいる数少ない女性の現役の迷い人がよく行くらしい。
「女性専用って訳じゃ無いの。男性の迷い人も来ているわよ。ルシアと言うママなんだけど姉御肌でね、色々相談に乗ってくれるのよ」
「なるほど」
「ねえ、ジョージ、またお願いしてもいい?」
ジョージの帰り際にシンディが言った。
「この街にいるときであればいつでも」
「約束よ」




