第60話
ジョージはその後も西の山の探索を続ける。今回の遠出でようやく自作の彼の地図で西の山の地区全てがX印になった。ただ残念ながらゲートはまだ見つかっていない。それらしい建造物やゲートに見える様な自然のものも見つからなかった。
山から帰ってきた翌日、ジョージはアイテムショップに顔を出した。
「やあ、ジョージ、久しぶりだね。山はどうだった?」
店の奥から出てきたウマルが彼の顔を見ると開口一番そう言った。
「ゲートはなかったですね。しばらく休んでから次は東の山に出向く予定です」
「そこでもなかったら東西の山のもっと南側の探索かい?」
ジョージがそのつもりだと言うとウマルが迷い人は大変だねと言った。
「そうそう、ちょっと面白い物が入荷したんだよ。最初にジョージに見せようと思って店には置いていないんだ。ジョージが要らないと言ったら店で売り物に出すつもりなんだよ」
「面白いもの?」
「そう。ちょっと待ってね、持ってくるから」
一旦店の奥に引っ込んだウマルはすぐに手に箱を持って戻ってくると、それをテーブルの上に置いた。箱を開けるとそこにはランプの様な魔道具が入っている。
「これは警戒のランプという魔道具だよ」
「警戒のランプ?」
「そう。ここにスイッチがあるだろう?このスイッチを入れるとこの道具を中心にして半径10メートル程度の中で動く生物が入れば音が鳴るんだ。ランプという名前が付いているけど光るんじゃない。鳴るんだ」
魔石が動くと反応して音が出るというのでジョージがポーチにある魔石を取り出すとその瞬間にピピピと小さな音が鳴った。
「なるほど、魔石の動きに反応して音が鳴るのか」
「そういうこと。問題は自分が持っている魔石が動いても反応しちゃうところなんだけど」
それでも野営の時に役立ちそうなアイテムだ。ジョージは魔法袋を持っているのでその中に魔石を入れれば動いても大丈夫だ。
「ジョージは魔法袋って知ってるかい?」
ウマルから魔法袋という言葉が出てきてびっくりする。
「元迷い人から名前は聞いていますよ。中に沢山入る容量が大きな袋でしょう?ただ生ものは腐っちゃうらしいけど」
「そうそう、知ってるんだ。もしそれが手に入れば魔石をその中に入れておけば大丈夫だよね」
ジョージが思っていることと同じことをウマルが言っている。
「その魔法袋ってどこで手に入るんですか?」
「この街のずっと南にある山裾の街ってところでたまに売り物が出るって聞いてるよ。噂だけどその街に住んでいる職人さんが気が向いたら作るらしいんだけど、滅多に気が向かないらしくてなかなか売り物がないんだって」
職人が作っているのか。南の街のアイテム屋に入荷する訳ではない。新しい情報を手に入れたジョージ。
「でももしそれが手に入れば便利だろうけど、それがなくてもこの警戒のランプは十分に効果がありますよ。野営が楽になりそうだ。いくらですか?買います」
「そう言ってくれるとジョージに紹介した甲斐があるよ。えっとね白金貨1枚。いいかな?」
「もちろん」
白金貨数枚はするだろうと思っていたので予想の範囲内だ。ジョージは白金貨1枚を渡して警戒のランプを手に入れた。ジョージは女神の木彫り像を持っているのが、あれは人前では見せられない。市販されているこのランプを持っていれば何か言われた時も説明がつく。彼は女神像とこのランプの両方で自分の身を守る事にする。迷い人は一度襲われただけでその後活動ができなくなることもある。自分守る手段は多い方が良い。
「このランプの中には魔石が入っている。空気中にある魔素を勝手に吸い込んでいるから充電は不要だよ」
「魔素?」
初めて聞く言葉だ。
ウマルが説明をしてくれた。この世界には魔素が存在している。そのせいで魔獣は魔石を体内に持っている。人間に魔石がないのはどうしてなのかは誰も知らないが、魔獣は体内に魔石を持っている。魔石を使っている魔道具のランプなども基本は同じで空気中の魔素を取り込んでいるそうだ。魔石自体は寿命があり、小さな魔石は1年、大きなのになると3年は持つらしい。その間は勝手に魔素を取り込んでくれる。魔石が劣化すれば、新しい魔石を入れることで再び使える様になる。
半永久機関だ。これもこの世界の不思議の1つだとジョージはウマルの話を聞きながら思っていた。
原理は全く分からないが、ともかく森の中や山の中で野営をする際には強い味方になりそうな魔道具を手に入れた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。また何かいい品物が入荷したら教えてあげるよ」
「是非お願いします」
ジョージは早速西の森の中で警戒のランプを使ってみる。森の中の太い木のそばに立ってその木から伸びている枝にスイッチを入れたランプを吊るした。しばらくするとピピピと小さな音がなり、立っている左側に虎の姿が見えた。確かに10メートルの距離だ。襲ってきた虎を倒して魔石を取り出してから再びその場で立っていると今度は正面からティラノがやってきた。昼間なので視界が10メートル以上あり、ジョージはランプが鳴る前に魔獣を確認していたが、10メートルに近づくとランプが鳴った。
10メートルの距離は短いかもしれない。ただ昼間は必要ないが夜の野営ではこのランプは効果があるだろう。昼間と違って夜は極端に視界が悪くなる。音が小さいのも周囲に聞こえにくい。フクロウの指輪は持っているがそれとは別に360度常にチェックできるランプは使い道がある。
夕方まで森の中にいて十分使えると判断して街に戻ってきた。白金貨1枚だが命が助かる確率がそれで上がるのなら惜しくない。
夕刻にレストランに顔を出すとレイモンドとジャンセンが2人で食事をしていた。このホテルに長くいるとたいていの場合迷い人同士が知り合いになる。
「久しぶりだな」
「お互いにな」
そんな挨拶を交わし、料理を注文したジョージ。3人で食事をしながら情報交換をする。お互いに詳しい話をしないという不文律はあるがどこを探索しているかという程度であれば問題ない。レイモンドは西の山に3週間こもっていたと言い、ジャンセンは東から南の山を探索していたそうだ。
「ジョージはどうなんだ?」
「西の山のめぼしいところは探し終えたところ、次は東の山に行く予定だよ」
めぼしいところ。それは迷い人によって違う。もちろんその場所を聞くのはマナー違反になる。
「それにしてもゲートは見つからないが山に入ると金は貯まるな」
レイモンドが言った。
「それだけ強いのがいるってことだ。まあ、このホテルに泊まっている連中ならそいつを倒すのは難しいことじゃない。金は確かに貯まる」
ジャンセンによるとこの川の街にいる迷い人の中でもソロで動けない、実力がない奴もそれなりにいるそうだ。
「男だけで3名以上で組んで動いている奴らは大抵そうだ。年は食ってるが昔からずっとチームで動いている。そいつらは稼ぐのが厳しいだろうな」
山に籠る勇気もなく、せいぜい森の中をウロウロしている程度じゃ金はたまらない。しかもチームを組んでいれば余計に貯まらない。
「まあ色々とやり方はあるからな」
「そういうことだ」
こうやって一緒に食事をしているが皆ライバルだ。人より先にゲートを見つけてやろうと思っている。ただこの街に来られるくらいの技量がある迷い人だと仕事とプライベート、つまりオンとオフとの切り替えが上手い。そしてオフの時には迷い人全体にとってメリット、デメリットがある情報は共有しようという流れになっている。
やばい連中の話は皆で共有し、必要があれば対策を取る。魔獣にやられたという情報も共有される。この川の街にいる連中のほとんどがここからがゲート探しの本番だと考えている。そして同時にここまでやって来て、この一番高いホテルに長期間泊まれる者同士、厳しいルートを超えてやって来た腕が立つ仲間意識というものもできる。ライバルであり仲間だ。




