第57話
ジョージが川の街に来て2ヶ月以上が過ぎた。そして彼は3年目の迷い人になっていた。東と西の森はどちらも何度か野営をし完全にそのエリアを理解している。と同時に森の中にはゲートがないだろうということも彼の中では確信になっていた。どちらの森にもほとんど岩場がない。平らな場所に木々が密集して森になっているだけだ。何十年も見つかっていないゲートがそんな見つかりやすい場所にはない。
次は東西の山の探索だ。野営も1週間ではなくもっと長い期間になるだろう。
ジョージは日々の金策をしながら少しずつ長期の野営の準備をしていた。そんな中、南の街で一緒だったレイモンドとギャツビーが川の街にやってきた。
外の草原で活動をして夕刻に街に戻ったジョージが部屋でシャワーを浴びてレストランにいると後から2人がレストランに入ってきた。ジョージが手を挙げると彼のテーブルに近づいてきて座った。
「いつ来たんだい?」
「昨日だ」
「俺が出てから2ヶ月とちょっとか。予定通りじゃない」
「本当はもう少し早く着けたんだけどな。ギャツビーがもうちょっと待ってくれと言って遅れたんだよ」
ジョージはギャツビーを見る。彼がもうちょっと待ってくれと言った理由も分かる。
「モテる男は大変だな」
「うるせぇ」
ジョージが言うと笑いながらギャツビーが返してきた。
「どんな感じだ?差し支えない範囲で教えてくれるか?」
レイモンドが真面目な顔をして聞いてくる。ジョージは2ヶ月の間で見たり聞いたりしたことを2人に話する。街の中のこと、外のこと。料理を食べながら話し、料理が終わるとコーヒーを飲みながら話をする。
「この街に来るまではチームだったがここからはお互いにソロになる。とりあえずは西か東の草原で慣れた方が良さそうだな」
ギャツビーの言葉にジョージは頷いた。
「それで移動中森の中で黒豹にあったのかい?」
ジョージが聞くと2人とも首を左右に振る。
「運があるってことだ。良かったじゃない」
「ジョージはどうだったんだよ?」
「俺は運がなかった。黒豹が襲ってきたので返り討ちにしたよ」
「また倒したのか。半端ない奴だな」
感心した声を出しているギャツビー。レイモンドも2度あって2度とも返り討ちにしたのはお前くらいだろうと言った。
「そうそう、マッケインと会ったよ。彼もこのホテルに部屋を取っている」
ジョージが言うとじゃあそのうちに会えるなとギャツビーが言った。
「それでジョージはどんな感じなんだ?」
「俺は近々西の森を抜けて山に籠る予定だ。1ヶ月ほど山の中を動いてゲートを探してみようと思っている」
「いよいよ本格的にゲート探しに参加するということか」
レイモンドが言うとその通りだとジョージが頷いた。
翌日の夕刻、ジョージはアイテムショップに顔を出した。ウマルには明日から1ヶ月ちょっと街を出ることを言っておくためだ。
「なるほど、迷い人は大変だね。山には強い魔獣がいると聞いている。でもそのフクロウの指輪があれば夜も楽になるんじゃないのかな」
「俺もそう思っています。こう言うアイテムは少しの効果であってもその少しの差が生死を分けることがあると思うので」
彼の言葉に頷いているウマル。彼はジョージが不在の間に良いアイテムが入荷したら店に置かずに取っておいてあげようと言った。
「ありがとうございます」
「いやいや、取っておくだけでタダであげる訳じゃないからね。その時はしっかりとお金をいただくよ」
「もちろんです」
山に行くためには草原を抜けて森を抜ける必要がある。森を抜けるまで1週間から10日、そこから山に入って1ヶ月近く探索するとなると往復で2ヶ月近く街を出ていることになる。魔法袋にたっぷりと水と食料を入れ、それをリュックに入れた。ポーチにはすぐに取り出せるポーションと木彫りの女神像を入れて遠出の準備が完了した。
ジョージが山の麓についたのは街を出てから8日目の午後だった。周囲を見る限り人影はない。間違いなくこの山の中を探索している迷い人がいる。彼らはもっと山の奥まで行っているのだろう。
翌日から山の中に入った。入って30分程で大きな虎が木々の間からジョージに襲いかかってきた。事前に来ている山の虎だ。森の虎よりも一回り大きいが森の虎を相手にしっかりと鍛錬を続けてきたジョージにとっては倒せない相手ではない。少し時間はかかったものの倒して魔石を取り出すと背中のリュックに入れた。山の魔獣はサイズが大きい事もあり魔石1つで銀貨3枚になる。
ジョージは山を自分の中でいくつかのエリアに分けている。今回は南北に伸びている山の北の地区を探索する。山に入ると基本西方面に進みながらゲートを探している。
探索3日目になった。山に入ってから2つ山を超えて今は3つ目の山の中を歩いているが、今のところゲートらしきものは見つかっていない。ポーチに入っている木彫りの女神像も何も変化がない。毎晩野営の時は木の枝の上で女神像を取り出しているが特に変わった動きはしない。毎日魔獣を倒しているので結構な数の魔石が溜まっている。重くなるので毎日リュックから魔法袋に移し替えていた。
西に1週間進んだジョージ。超えた山は4つだ。5つ目の山は絶壁になっているので上に登る場所が見当たらない。流石にあの上にはゲートはないだろう。彼はそこから南に移動して再び別の山を今度は東に進んでいく。魔獣を倒し、野営を繰り返して山を降りたのは山に入ってから28日後だった。4週間いたことになる。
川の街を出てから1ヶ月と3週間が過ぎた頃、彼は街に戻ってきた。今回の探索では多くの魔石は手に入れたがゲートは見つからなかった。
街に戻って換金屋で精算をすると白金貨8枚と金貨が10数枚になった。山の中で毎日20体前後の魔獣を倒しているとそれくらいになる。ゲートは見つからなかったが十分な金策にはなった。スモーキーが魔法袋の大と小を持っていたのも頷ける。しっかりと金策をすれば白金貨を貯めることは難しくない。問題は滅多に売り物がないということだ。
ホテルに戻って宿泊代を先払いして部屋を押さえると久しぶりにシャワーを浴びてすっきりする。
レストランに降りて行くとレイモンドとギャツビー、それにマッケインとチャンの4人が同じテーブルで食事をしていた。彼らはジョージを見つけると手を上げてきた。
「久しぶりだな。遠出してたのか?」
チャンが聞いてきた。
「2ヶ月近く山に籠っていたよ」
「なるほど。稼げただろう」
続けて聞いてくる。
「白金貨8枚と金貨数枚になったよ」
白金貨8枚と聞いてレイモンドとギャツビーの表情が変わった。他のメンバーは表情を変えず、結構倒したなと言っている。
「山で毎日20体ほど倒して1ヶ月いたらそれくらいになる」
「そうだな。ただそれでも多い方だぞ」
「まあな、片っ端から倒していたからな」
テーブルは4人掛けでジョージの座る席はない。ジョージはまたな。と言うと彼らから少し離れたテーブルが空いていたのでそこに座って料理とビールを注文した。
ジャンセンがレストランに入ってきた。彼はジョージが1人なのを見ると近づいてきた。
「いいか?」
「どうぞ」
料理とビールを頼んだジャンセン。
「山に行ってたのか」
「そう。西の山にね。今日の昼過ぎに戻ってきた。そっちは?」
「東の森だ。俺もそろそろ東の山に行くつもりだ」
各自がそれぞれ自分でプランを立てて行動している。この街ではソロで動いている迷い人の比率が高い。女性はチームを組んでいるらしいが男性ではなかなか聞かない。一騎当千の連中が集まっているのが川の街だ。ソロで活動できる技量持ちが多い。
「しばらくは近所で体を動かしてまた山に籠るのだな」
「ああ、今回2ヶ月ほど山に籠って大体の事情がわかったからな」
ジャンセンは前に座っているジョージを見ながら話を聞いている。最初の山の探索でいきなり4週間以上もそこに篭れる奴は多くいない。大抵は慣らしの意味も込めて数日からスタートする。山にいる魔獣は強いし野営場所にも気を遣う。ただそんな中でいきなり長期の山籠りをして帰ってきて涼しい顔をしている。
森で黒豹に2度襲われたが、どちらも返り討ちにしていることも知っている。年齢に騙されてはいけない。こいつはマジで相当できる。ジャンセンはそう思っていた。




