第55話
翌日、ジョージは1日かけて川の街の市内を歩き、市内の地図を頭の中にインプットした。川の街は川沿いにあるだけではなく、街の中に水路が張り巡らされている。おかげで街の雰囲気がいい。ゲートを探すというミッションがなければここに住んでのんびりと過ごすのも悪くないと思える街だ。
彼は歩いている途中で見つけた武器屋と防具屋に顔を出して値段と性能をチェックしていた。
武器(攻撃力+30)金貨2枚
攻撃用セット(攻撃力+20) 金貨2枚
回避用セット(素早さ+20) 金貨2枚
武器は短剣、片手剣、片手斧と種類は増えていない。付帯効果は上がっているがそれでもジョージが持っている武器と防具よりは性能が落ちる。この街では武器、防具を買う必要がないことが確認できた。
2軒ある薬屋にも顔を出したがどちらも同じ価格だった。東の街でジュジュからもらったハイポーションは売っていない。やっぱりこれは特別な薬だ。本当の最後の最後まで持っておいた方が良いだろう。
街の東側を流れている川には橋がかかっていて、それを渡ると東の草原から森、更に奥にある山に出向くことができる。西側は川がないだけで草原、森、そして山と配置は東側と同じだ。南方向にも草原、森、山がある。ただ南の山やずっと先にあり移動するのには2、3週間、下手したらそれ以上かかりそうな程の距離がある。
ジョージはまずは街の西側で鍛錬をする。相手にする魔獣は台地を降りてからこの街に来る途中で出会った二足歩行の恐竜と四足の恐竜に似た魔獣だ。川の街にいる迷い人達は二足歩行の魔獣をティラノ、四足歩行の魔獣をマイプと呼んでいる。恐竜の名前から取ったそうだ。
ティラノもマイプもそれなりに強いがジョージはソロで問題なく倒す。魔石1つが銀貨2枚になる。朝から夕方近くまで外で狩りをすると20体以上は倒せるので金貨2枚以上になる。まずは金策をしながら徐々に活動範囲を広げる予定だ。
この日ジョージは外から帰るとアイテム屋に顔を出した。広い通りから入った通りの一角に店がある。
「こんにちは」
声をかけて店の中を見ていると奥から50代に見える金髪の男性が出てきた。
「迷い人さんか」
「こんにちは。その通り。ジョージと言います」
「私はウマル。この店を初めてもう30年以上になる」
「なるほど。店の中を見させてもらってもいいですか?」
「もちろんだよ。好きに見てくれ」
店の中は聞いていた通りに野営用のテントや魔道具のライトなどが売られている。パッと見た限りではジョージに必要なアイテムは見つからない。
「面白い指輪をしているね。剣も装備もこの街じゃ手に入らないものだ。誰かにもらったのかな」
彼が陳列物を見ていると背後からウマルの声がした。装備の内容を当てられたのは初めてだ。緊張が全身を走った。腕輪は魔法袋の中だ。
「分かるんですか?」
「ああ、鑑定スキルがあるからね」
「鑑定スキル?」
ジョージが聞くと教えてくれた。鑑定スキルとはその言葉通り。品物を見ただけでその効果を鑑定することができるスキル。ただ遠くにあるものは鑑定できない。
「1メートルも離れると鑑定できない。また鑑定スキルを持っている地元民は多くいない、むしろ非常に少ないと言ったほうが良いだろう」
「ウマルさんはその数少ない鑑定スキルを持っている人なんですね」
「そう、迷い人に教えたのはジョージが初めてだよ。装備は見たことがあるからいいとして、その指輪を見せてくれるかな?」
指輪に興味を持ったので教えてくれたのか。そう思いながらジョージは指輪を彼に渡した。それを手に取ってじっと見ている。相手が地元民で助かった。ジョージの緊張が解けた。
「どこで手に入れたのかな?」
指輪から目を上げて聞いてきた。
「上の台地にある南の街の彫金師さんが試作品だと言って安く売ってくれたんですよ」
「なるほど。それにしても夜間の視界が広がる指輪か。これは面白い」
しばらく見ていたウマルが指輪をジョージに戻した。
「アイテム屋ってことは仕入れの時に鑑定できるので間違いがありませんね」
「そうだね。ただ最近はいいアイテムが入ってこないんだよ」
仕入れルートは聞いても教えてくれないだろうし、ジョージもそこまで聞く気はない。
「これからもこのお店に顔をだすので面白そうなアイテムが入ったら教えてください」
「いいよ。いい品物が入ったらジョージの為に取っておこう。人が持っていない装備を持っている。そんな人とは違うユニークな人にはお手伝いをしたくなるんだ」
「ありがとうございます」
彼に限らずこの世界の地元民のほとんどは迷い人のプライベートについて突っ込んできてこない。装備の件も普通ならどこで手に入れたか聞いてくるはずだが興味がなさそうな口調だった。
このアイテム屋、マッケイン達は大した物がないと言っているが、魔法袋に匹敵する何かが入ってくるかもしれない。入ってこなくても構わない。あちこちにアンテナを伸ばしておく事が重要だ。
1週間程で川の街の西側の草原の探索が終わった。次はその先の森だ。ジョージは野営の準備を整えてから森の中に入った。ここにもティラノ、マイプが徘徊しているが、それ以外に以前から相手をしている虎の魔獣の姿もある。ただし体型が大きくなっていた。彼らは木に登ってこないので野営をしても問題ない。
3日森の中で野営をしてから街に戻り、換金すると虎の魔獣は魔石1個に付き銀貨2枚、銅貨2枚になった。ティラノとマイプは銀貨2枚で同じだ。
ゲートがあるとすれば街から離れた場所、山の中だと考えるのが普通だ。ただジョージはその前にしっかりとこのエリアでの戦闘に慣れる必要があると考えている。焦る必要はない、しっかり鍛錬をして強くなることが結果的に広範囲を探索できることにつながると信じている。
ジョージが川の街に来て1ヶ月が過ぎた。
この日街の西の森を野営をして5日間ほど探索をして街に戻ってきたジョージは部屋でシャワーを浴びるとレストランに降りていった。レストランに入るとジャンセンが一人で食事をしているのが目に入ってきた。
「いいかな?」
「もちろんだ。俺も今レストランに入ってきたお前を誘おうと思ってたんだよ」
料理を注文すると久しぶりだなとジャンセンが言った。
「5日程西の森の中にいたんだ。野営をしながら敵を倒し、一応ゲートを探す」
その言い方でジョージが森の中にゲートがあるとは思っていないと知ったジャンセン。
「俺も森にはないと思っている。東西の山の中かあるいは南の山か」
ジャンセンは2週間かけて西の山に行っていて、この街に戻ってきたのが昨日だったと言った。
「ジャンセンは南方面は探索したのかい?」
「森の入り口までだな。南の森は広大だ。抜けるのに3週間かかると言われている。黒豹はいないがここらにいる魔獣よりもずっと強い魔獣が徘徊している。どうしても慎重になる。なのでまずは東西の山を探索してから行くつもりだ」
ジャンセンは8年目の迷い人だが、この川の街にやってきたのは2年とちょっと前だそうだ。
「上の台地にある南の街で結構時間をかけて周辺を探索したんだ。もちろん森の中も見た。そしてあちこち歩き回った結果。ここにある可能性は低いと思って森を抜けてここにやってきたのさ」
ゲートがどこにあるか。その当たりをつけるのは迷い人それぞれだ。ジョージの様に東、西、南の街があるエリアには無いと決めつける人もいれば、南はありそうだとそこで腰を据えて探索をする人もいる。それぞれが自分の信念に基づいて行動をしている。
「俺は21歳でこの世界にやってきた。20代の若者を集めたと女神の代理が言っていたが、29歳もいれば俺みたいに21歳もいる。若い分時間をかけることができたと思ってるんだよ」
「確かにその通りだな」
29歳でやってきて8年目となれば37歳だ。体力、気力ともに限界に近づいてくる。一方で21歳で8年目ならまだ29歳、十分時間はある。
ジョージは25歳でこの世界に来ている。8年後なら33歳だ。その時自分は今の様な体力、気力があるだろうか。そう考えると少しでも若い方が長時間ゲートを探す時間があるということになる。




