第52話
この日の夜、ジョージはアデリーナとメアリーの部屋にいた。3人とも身体にバスタオルを巻いている。
「もうジョージに抱いてもらえないのね」
「そうそう。硬いしタフから気に入ってたのに」
「次の街に来ればいいだけの話だよ」
ジョージが言うと2人が顔を見合わせてからマリアが言った。
「まだ南の街に来たばかりだから決定じゃないけど、私たちの実力じゃこの街までが限界かななんて話をアデリーナとの間ではしているのよ」
彼女達は東の街から山を越えてこの南の街にやってきたが、山の中では結構ギリギリの戦闘だったらしい。結果的に倒せてはいるが、何度も危ない場面があったと言っている。
「ゴリラの魔獣は私たち4人でやっと倒せるくらい。幸いにリンクしなかったけど、もしリンクしていたら多分全滅してた。その程度の実力なのよ。なので南の森を越えていくのは厳しいかなって」
今考えてもよく山を越えられたものだと思っているのだと言うメアリー。
「そうは言っても山を越えることさえ出来ない迷い人が多い中、越えてきたという事実は変わらない。そこは自信を持っていいんじゃないか。それから先のことについてだけど、まずはここでしっかりと鍛錬したらどうかな。鍛錬はすればするほど自分の身につくからね。それでどうするかを考えたら良いと思う。あとは気持ちをしっかり持ち続けることかな」
「「気持ち?」」
2人は声を揃えて聞いてきた。その言葉に大きく頷くジョージ。
「俺は絶対にゲートを見つけてやろうと思ってる。そのためにはこの世界にいる魔獣に負けられない。そう思って敵をやっつけている。強い気持ちを持ち続けるのが一番だよ」
この世界にやってきた頃は皆自分が見つけてやるという気持ちを持って迷い人として活動をする。それが1年もすればこの世界のことが分かってくる。以前から多くの迷い人がこの世界にやってきているがまだ見つかっていないこと、何よりエリアが広大すぎてどう考えても死ぬまでに全てのエリアを自分の目で調べることができないこと。つまりゲートを探すという目的を達成するのが極めて困難であるということが分かってくる。
メアリーとアデリーナらは今この状態だ。ただジョージはそれも迷い人の生き方の1つだろうと思っているので彼女達の考え方を否定はしない。否定はしないが自分の考えを言うことはできる。
「ゲートは逃げない。まずは自分たちが強くなることだよ。俺はそう思う」
「そうね。新しい街に来てすぐに慌てて結論を出す話じゃないしね」
「その通りだよ」
「でももう抱いてもらえないのよね」
アデリーナは最後までそう言っていた。
翌日。出発を明日に控えた昼過ぎ、ジョージは草原で軽く体を動かして魔獣を倒して街に戻ってくると、換金屋を出たその足でアイテム屋に顔を出した。声をかけると奥からハロルドが出てきた。
「やあ、ジョージ、いよいよ出発かい?」
「そうなんですよ。明日の朝、南に向かいます」
その言葉にハロルドがうんうんと頷いている。
「ハロルドから良い腕輪を買ったんでなんとかなりそうな気がしているんですよ」
「それは嬉しいね。そうか、明日出発か」
そう言ったハロルドがちょっと待ってくれと言って奥に引っ込んだ。しばらくして戻ってきた彼の手には小さな箱がある。
「餞別にこれをあげよう。まだ試作品なので値段がつけられないんだ。あ、もちろん効果があるのは実証済みだよ」
箱を開けると中に指輪が入っている。
「名前もまだつけてないんだけどあえて言うのなら「フクロウの指輪」かな」
箱の中の指輪を見ているとハロルドが言った。
「フクロウの指輪?」
「そう、この指輪の効果はね、暗い場所で視界が少し良くなるという効果がある。夜とか薄暗い洞窟の中とかね。そう言う場所に来ると指輪が効果を発揮するんだ」
すごい指輪だ。森の中での野営や薄暗い洞窟で視界が良くなると言う事は今よりも遠い場所で敵を見つける事ができる。生き残る確率が上がる。
「指輪は付けっぱなしで大丈夫なの?」
「常時付けっぱなしで問題ないよ。周囲が暗くなったら勝手に効果を発揮するから」
「これ、絶対に売れますよ」
迷い人には必須のアイテムになるのは間違いない。
「そうだろうね。でもまだ品質というか効果が安定しないんだ」
ハロルドは指輪を試作すると夜の街でその効果を検証しているそうだ。ただ今はまだ十分な効果が得られていないのだと言っている。
「その中で2つだけ効果があったんだよ。1つは自分が研究用として店に置いてあるんだけどもう1つのこれはジョージに差し上げるよ」
自分でもどうしてこの2つだけがきちんと効果を発揮したのか分からないのだと言っている。これは引き続き自分の研究のテーマになると呟いている。
「ありがとうございます。ただで貰うって訳にはいかないのでお金を払います」
そう言ってジョージは金貨10枚を差し出したがそれは多すぎると言われた。何回かやりとりがあって金貨5枚をハロルドに渡した。
「試作品を無理やり売りつけたみたいで申し訳ないね」
恐縮そうに言うハロルド。
「全然。こっちは金貨5枚でこれが手に入ったのなら万々歳ですよ」
「これがあれば夜の森でも楽になると思うよ、気をつけてね」
「分かりました。ありがとうございます」
ジョージは何度もお礼を言って店を出た。左手の中指に指輪を嵌めている。それにしてもこの世界にいる地元民は本当に謎だ。この指輪もそうだしハイポーションもそうだ。もっと言えば武器や防具、装備に付帯性能をつけることも普通じゃない。全て女神の意思で動いているんじゃないかと思うほどだ。突然とんでもない性能のアイテムや薬が出てくる。
一旦ホテルに戻って最終の荷物を確認した彼は、日が暮れてからホテルから街の中に出た。フクロウの指輪の効果は彼の想像以上だった。市内を歩いた彼は街から外に出て草原を見わたしてみる。昼間と同じだと言うのは言い過ぎにしても昨日までよりもずっと通くまではっきりと見える。これなら夜の森の中を移動するのに困らないレベルだ。
「旅立つ前にこの指輪を手に入れることができてよかった」
ジョージはそう呟くと踵を返して街の中に戻っていった。
この日アデリーナ達4人は昼間に草原で魔獣を倒してジョージに紹介を受けたハリウッドに顔を出してお酒を飲みながらマリアとドリスらと話をしていた。ジョージに紹介を受けてからもう何度も顔を出していて馴染みになっている。女性二人でやっているというのがアデリーナらから見ても安心だし、迷い人の先輩として様々な知見がある。相手が同性なので、男性には聞けない質問をすることもできる。
「男性からの誘いには気を付けるのよ。4人のチームで動いているとまず大丈夫だとは思うけどね。1年以上前になるかな、軽く体を動かそうと女性が1人で街の外に出て、そこで複数の男性に一緒にやろうと声をかけられて街から離れたところでレイプされるという事件があったの。相手は今でも見つかっていない。見つかったのはレイプされて殺され、放置された女性の死体だけ」
ドリスの話を顔を顰めながら聞いている4人。
「彼女は東の街からやってきていたの。この街に来て東の街と比べて治安が全然良いからつい気を抜いちゃったみたいなのよね。確かに東の街と比べたら良いかもしれない。それは東に比べてマシっていう程度だと思っていた方がいいわ」
ドリスに続いてアンが言った。
「男がみんなジョージみたいな男じゃないってことよ」
アデリーナが言った。すぐにマリアがそうなんだよねと言っている。
「彼は異質よ。彼と仲が良い男性の迷い人も言ってるわ。あいつは本物だって」
ドリスが言った。
「本物、でもその意味がわかる気がする。芯が強いのよね、ブレない。そして当たり前だけど腕もたつ」
「そう言うこと。彼を基準にして考えたらだめよ。周りの男が皆頼りなく見えちゃうから」
「確かにそうね」




