第49話
1週間も過ぎると自分を見る視線が少なくなったと感じるジョージ。全く無くなった訳ではないが、以前ほどでは無くなっていた。
この日ジョージは早めに外から戻ってきて換金屋で魔石を現金化し、ホテルに戻って少し休んでから飯でも食うかと市内を歩いてホテルに近づいたところで自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。その方角に顔を向けると女性が4人固まって立っている。そのうち2人の女性は顔見知りだ。
東の街で何度も一緒に夜を過ごしたアデリーナとメアリーがそこにいた。ジョージは彼らに近づいた。
「昨日この街に着いたのよ」
そう言ってジョージが知らない2人を彼に紹介する。1人はリンダというアメリカ人でもう1人はアリーチェというイタリア人だ。イタリア人2人、アメリカ人2名の4人で山を越えて南の街にやってきたと言っている。
「どこに宿を取ったんだい?」
「グラスランド、ジョージと一緒じゃない?」
「ああ、同じだ。一番治安がいいからな」
彼女達は2人部屋を2つ押さえたらしい。
彼女達がこの街の様子を聞きたいというので5人はホテルに入るとレストランに足を向けた。時間が早いせいかレストランはガラガラだった。
料理を注文するとジョージがこの街の様子を2人に話する。街の中の事、そして街の外の事、話をしていると4人から質問が出るとそれに答える。
大体の話が終わったところでアデリーナが言った。
「今のジョージの話を聞いていると、まずは東西の草原と森でこのエリアの敵に慣れた方がいいかもね」
「そうだね、北の山に行くとなると野営前提でしょ?それはもう少し時間が経ってからだね」
どこで狩りをするのかは各自の自由だ。自分の実力と敵の強さを見極めて決めればいい。目の前の彼女達は4人のチームだ、大抵の敵には対処できるだろう。山を越えてきた時点で実力があることの証明になる。多くの迷い人は山を越えられない、いや越える勇気がない。実力があり、気持ちが強くない迷い人は山を越えられない、結果的に東や西の街で燻ることになる。
「ジョージに聞いている限り街の中の治安も東の街よりは良いみたいね」
「そうなるかな。ただマシだというだけだ。そこは気をつけた方がいい。特に東の街から見るとここは天国に見えるかもしれないが、クズがいるのは間違いないからな」
東の街で暮らしていた迷い人がこの街でくると治安が良いと考えてガードを下げる事があるが、絶対にそれはするなとジョージが念を押す。女性は特に気をつけた方が良いと4人に言った。彼女達もこの世界では7年目にはいったベテランだ。ジョージが言っている言葉の意味を十分に理解していた。
「ジョージはどこで鍛錬しているの?」
「俺は南の森でやってる」
「ソロでしょ?」
メアリーの言葉に頷くジョージ。
それまで黙ってやりとりを聞いていたアリーチェがジョージに言った。
「ジョージは東の街にある洞窟で5人の盗賊を返り討ちにしたのよね」
その通りだと頷く。彼女達によればあの時は街の中で話題になったそうだ。相手が以前から悪い意味で有名だったグループで、何名もの迷い人が洞窟の中で殺されていたそうで彼らだとわかっていても証拠がなかったらしい。それをジョージが1人で壊滅させたということで話題になったのだと教えてくれた。
ただジョージにしてみれば襲いかかってきたから返り討ちにしただけであり、しかも襲ってきた連中の腕が大した事がなかったと思っている。
「そっちは4人でチームを組んで動くのだろう?それなら外に出ても安心だろう。ただ南の森の中にいる魔獣はここらで一番ランクが高い。それは覚えておいた方がいい」
自分達の生き死にに関わる情報には真剣に耳を傾ける4人。
「ジョージはその南の森を越えてさらに南に向かうつもりなんでしょう?」
「そのつもりだ。ただすぐじゃない。もう少し鍛錬をして自分の力をつけてからになるだろうな」
ハロルドが言っていた新しいアイテムがいつできるのかは分からない。それまでの間はソロで鍛錬と金策を続けるつもりだ。
食事が終わって4人とジョージが席を立った。聞くとリンダとアリーチェの部屋は3階で、アデリーナとメアリーの部屋は2階、ジョージと同じフロアだ。
階段で別れて2階の廊下を歩いているとアデリーナがジョージを見た。
「私たちの部屋に寄ってってよ」
「いいのかな?」
すると隣のメアリーがもちろんと言う。
「いろいろと溜まっているのよ」
「そう言われたら寄らない訳にはいかないな」
3時間後、ジョージは彼女達の部屋の中で話をしていた。3人とも身体にバスタオルを巻いている。
「私たちが行ける飲み屋さんって知ってる?」
アデリーナが聞いてきた。
「俺が顔を出しているのは2軒。1軒はアメリカ人の女性2人がやっている店で”ハリウッド”という。もう1軒は日本人がやってる店で”ハナミズキ”。まずハリウッドに行ったらいいだろう。女性2人でやっている店で色々と教えてくれると思う。4人で行くのなら事前に店に言っておくよ」
そう言うと2人からお願いと頼まれた。自分もそうやって紹介を受けてきた。目の前にいる2人は性格的にも問題がない。紹介しても大丈夫だろうと判断する。
「”ハナミズキ”はマスターがジャパニーズだ。行くか行かないかは街に慣れてから決めてもいいんじゃないかな」
そう言うと2人で話をしていて、そうしようか、と言っている。
「レストランについては俺は知らない。ほとんどここで食っている。たまに屋台で何か買うくらいだ。1階のレストランは宿泊者専用になっていることもあって迷い人同士の情報交換の場になっている。男性はもちろんだが女性の迷い人も多くここに泊まっている。レストランに顔を出すことで彼女達と知り合いになればもっと色々な情報が手に入るだろう」
「確かにね。旅行で来ている訳じゃないし。ゲートの情報は取れないにしても周辺の情報ややばい連中の情報なんかも聞けるかも」
「そうだよね、色々な情報の仕入れルートがあった方がいいわよ。女性同士だからと教えてくれる情報もあるかもしれない」
2人で話をしているのを黙って聞いているジョージ。
自分は最初の一歩を踏み出すための情報を提供するだけだ、後は自分たちで考えて判断すればいい。一から十まで周囲に頼る様ではこの世界では生きていけない。もちろんゲートを見つけることもできないだろう。
数日後、”ハリウッド”に顔を出したジョージは東の街からやってきた4人の女性のチームの話をカウンターの中にいるアンとドリスの2人にする。この日はギャツビーは店にいない。遅い時間帯だったせいなのか客はジョージ1人だ。
「いいわよ。ジョージの紹介なら間違いないだろうし」
「お店の売上に貢献してくれてありがとう」
2人からOKを得た。
「それでジョージの準備の方は進んでいるの?」
アンが聞いてきた。
「だいたいね。ギャツビーから聞いていると思うけど、彫金屋のハロルドが今作っている新しい腕輪ができるのを待っているところでね、こいつを手に入れたら出発しようかと思ってる」
カウンターの中にいる2人はジョージがいない時にギャツビー、そしてレイモンドから彼の話を聞いている。2人とも表現は違えどジョージは別格の迷い人だという意味のことを言っていた。
この世界に来てからずっとソロで活動をして全てのエリアを訪れてからこの南の街にやって来ている。移動も全てソロだ。しかも治安が悪いと言われている東の街でも1人で悪落ちした連中を返り討ちにし、山を越えてここまで来ている。さらにこの街の南の森では黒豹を倒している。
「なぜそこまでソロに拘っているのかは分からない。ただ奴は今まで自分で決めたことをやり通している。大したもんだ。奴は本物だ」
ギャツビーはドリスにはそう言っている。自分たちとは全く違う迷い人、本物が2人の女性の目の前にいた。




