第44話
レイモンドとギャツビーの話を感心した表情で聞いている女性2人。
「ところでジョージ、聞くのを忘れていたが、東の街ではクズ連中に絡まれたたのかい?」
レイモンドが聞いてきた。ギャツビーと女性2人もジョージに顔を向ける。
「2度絡まれたよ。森の中と洞窟の中でね」
ジョージは聞かれるままにその時の話をする。黙って聞いている4人。女性2人は目を見開いているが、レイモンドとギャツビーは表情を変えない。
「洞窟の中で前後から挟み撃ちされながら返り討ちか」
「お前にかかりゃ5、6名で襲われても問題ないってことだな」
レイモンドとギャツビーが顔をジョージに向けた。
ジョージは少し間を置いてから口を開いた。
「どうだろう。ただ言えることはあいつら個人個人は大したことないってことだ。だからこっちが落ち着いていれば恐れる事はないだろう。数が多けりゃ勝てると思って普段鍛錬をしていないのが丸分かりだったよ」
カウンターの中にいるアンとドリスは2人とも口にはしないが椅子に座ってレイモンドやギャツビーを話をしている黒髪のジャパニーズを見ていた。彼は話をするときもほとんど表情を変えない。強盗を返り討ちにした話にしてもそうだ。淡々を話をする。普通なら1人で強盗を返り討ち、それも5人や6人を相手に返り討ちしたとなれば自慢したくもなるだろうし、実際自慢できる話でもある。ソロでそれができる迷い人なんて2人とも聞いたことがない。
でも彼はそうしない。それまでの会話と同じ様にゆっくりと話をしながら時折ビールの入っているグラスを口に運んでいる。この世界に来て2年目とは思えないほどに落ち着いている。相当の実力者でないとこうはならない。元迷い人だった自分たちには分かる。
レイモンドもギャツビーもそうだ。この2人もいつも落ち着いていて滅多に感情を顔に表さない。彼らはベテランというかこの世界に慣れているが、目の前に座っているジャパニーズの彼もこの世界で5、6年上になるこの2人と同じ雰囲気を醸し出していた。
ベテラン2人が腕が立つと言っているが話を聞いている限りその通りだ。聞いたらこの世界に来てからずっとソロで動いているという。普段から相当鍛錬を積んでいるのだろう。街から街へ何十日も移動するこの世界で移動すらソロだという迷い人は多くはいない。そして多くいない彼らは皆優秀だ。
レイモンドもギャツビーもバーで酔うほどお酒を飲まない。これはジョージもそうだ。ゆっくりしたペースで飲んでいる。酔うためというよりもこう言う場所でリラックスするのが目的になっている。本当の迷い人達がここにいた。
「装備はどうだ?」
「いいね。実感できる。討伐時間が少し早くなったよ」
聞いてきたギャツビーが頷いている。
「装備は積み重ねだからな。小さな積み重ねが結果を生む」
「その通りだな。ケチってると碌なことにならない。生き延びるための必要な投資だと思ってる」
2人のやりとりを聞いているレイモンドも頷いている。金貨5枚という結構な金額だが、それをケチる奴は苦労する。ここにいる3人はそう信じている。
1時間ほどハリウッドで酒を飲んだ3人は椅子から立ち上がった。
「また来てもいいかな?」
帰り際にジョージが2人の女性に聞いた。
「もちろん。1人でも来てね」
ドリスの声に片手をあげて応えるジョージ。店を出ると3人で夜の街中をゆっくりと歩く。遅めの時間だが飲み屋やレストランが固まっているこのエリアは賑やかだ。
「この店は気を付けろ。客筋が悪いんだ」
1軒の飲み屋の前でギャツビーが言った。そちらに顔を向けると”ナポレオン”という看板がある。外見から見ると大きそうな店だ。
「大層な名前をつけてるだろう?」
レイモンドが言った。確かになとジョージがニヤリとした。
「店はでかい。飯も食えるってのがあの店の売りだ。ただあそこは中東系、アフリカ系の溜まり場になっている。彼ら全てが悪い奴らとは言わないが、あの店に出入りしている連中はもう何年もこの南の街を拠点にしている。南に行く根性もなければ本気でゲートを探す気もない。そんな奴らと付き合っていい事はない」
ギャツビーが続けて言った。
「よく知ってるな」
「こう見えて俺は社交的なんだよ」
そう言ったギャツビー。彼は彼で独自のルートで情報を集めているのだろう。ジョージがそう思っているとレイモンドがジョージに顔を向けた。
「ジョージ、さっきの店のドリスには手を出さない方がいいぞ」
「そう言うことか、なるほど。よく分かったよ」
「だからと言って俺は南に行くことを諦めた訳じゃないからな」
ギャツビーの言葉にレイモンドとジョージが笑った。
グラスランドホテルの中に入った時にレイモンドが時間があるのならコーヒーでもどうだと言い、そのまま部屋に戻らずにそのままレストランに移動した。酒場では話せない何かがあるのだろうとジョージが思っているとテーブルに座ってコーヒーを注文するとレイモンドがギャツビーと俺に顔を向けた。
「南に行こうとしていた男3人のチームが森の中で野営中に2頭の黒豹に同時に襲われて2人死んだ。残った1人は森からこの街まで逃げてきている」
「いつの話だ?」
ギャツビーが聞いた。彼も初耳の様だ。
「今朝だ。俺が南門から外に出たところで会って話をきいた。そいつは俺が知っている奴でな。いつも3人でチームを組んで活動しているのは知っていた。それが1人で、しかも森の方から走ってきたから一体どうしたんだ?と聞いたら今の話をした」
「数が少ないと言われている黒豹が2体で襲ってきたって言うのか」
ジョージが言うとその通りだと頷くレイモンド。
「2体同時か。きついな」
「店で話するのはまだ早いと判断したんだよ。生き残った当人が周りに言うのか、それとも言わないのか。言わないのに俺が飲み屋で話をする訳にはいかない。そこから迷い人の間に広がるのは間違いないからな。ここにいる2人なら問題ないだろうと判断してこうして話ている」
ギャツビーが店の女性とそういう関係にあるとか関係なく、飲み屋をやっている連中は新しい情報が入ればそれを客に言うのは当然だ。店に来る客は情報を欲しがっている、そして新しい情報を流せばあの店は情報が集まるという評価になり客が増える。
黙っておいてくれよと言って店で話すのが最も愚策だ。黙っていてもらいたいのならそこで話すべきではない。ギャツビーもこの南の街にずっといる訳じゃない。付き合っている女性が店の女だとしてもそれは一時的なものだ。彼も分かっている。
「その2頭同時に襲ってきたってのがたまたまなのか、それとも黒豹の数が増えたのか」
「確認するのは難しいぞ」
元々の数がわからないのだから確認のしようがない。もっと言えば黒豹の数が少ないという情報の真偽から調べる必要がある。
「不幸にも2体の黒豹に襲われた奴らもいれば、幸運にも黒豹に合わずに森を抜けたのもいる。運任せの部分はあるだろうけど、最悪の場面を想定して個人の技量を上げて強くなるしかないな」
レイモンドが話を締める様に言った。全くその通りだ。自分が強ければ対応できる可能性が高くなる。
元々それほど飲んでいた訳ではないが、レストランで話している間に酔いは醒めていた。
彼らと別れて部屋に戻ったジョージ。いつもの通り部屋の中をチェックして変わったことがないと確認すると魔法袋から木彫りの女神像を取り出して机の上に置き、自分はベッドに腰を下ろす。
ゲートは南の森を抜けた、台地の下に広がるエリアのどこかだろう。ただ南の森を抜けるのが相当難易度が高そうだ。どうやって森を抜けるか。
運任せで突撃するのは最後の手段だ。準備できることがあればしっかり準備をしたい。ただ準備と言っても何をすれば良いのか。鍛錬を重ねることで自分が強くなることはできる。ただそれだけじゃまだ不十分だ。
「俺に何ができる?何をしなければいけない?」
ジョージはベッドに腰掛けて自問自答する。
「一度森の中で夜を過ごしてみるか。一晩くらいなら寝なくてもいけるだろう。夜の森を知ることで何をしなければならないかに気がつくかもしれない」
そう呟いたジョージは机の上に置いてある木彫りの女神像を見る。
「あんたが道標となるのなら、そろそろ仕事をしてくれるんだろ?期待してるぜ」
木彫りの女神像はじっと机の上に置かれたままだった。




