第43話
南の街の常宿にしているグラスランドホテルに戻り、部屋でシャワーを浴びたジョージはレストランで夕食を摂るために部屋を出て1階に降りる階段に向かったところでちょうど上からレイモンドが階段を降りてきた。
「今から食事なら一緒にどうだ?」
「ぜひ」
レストランのテーブルに座って料理をオーダーするとレイモンドが聞いてきた。
「最近見なかったな」
「南の森の入り口をずっと探索してた。1週間かけて出向いてこっちに戻って2、3日休むとまた出向く。1ヶ月ちょっとそれを繰り返していたんだよ」
「森の中には入ったのかい?」
「草原から日帰りで行ける範囲は行った。結構深い森だな」
淡々と話をしているジョージの言葉を聞きながらやっぱりこいつは普通じゃないとレイモンドは感じていた。2年目でソロの迷い人がこの街にやってきたかと思ったらソロで南の森に出向いて戦闘をするというのは普通じゃありえない。
多くの迷い人は苦労してなんとかこの南の街にやってくるとまず金策をし、それから比較的安全、つまり強い魔獣が生息していない街の東西の草原、そしてその先にある森に出向いてゲートを探しつつ金策をする。余裕が出てくると今度は北の山に出向いて草原にいる魔獣よりも強いゴリラらを相手に金策しながらゲートを探す。これだけで普通に1年近くかかる。
そこまでして次はどうする?南に行くかもう少しここでやるか。を考える。これが南の街にやってくる多くの迷い人の考え方だ。自分もそうだしギャツビーも同じだ。
南の街に長くいる迷い人や、飲み屋やレストランをやっている元迷い人から南の森の話を聞くことで、南に行くことを躊躇う人が多い。黒豹に狙われたら生きていられない。昼も夜も常に四方八方に注意を払いつつ、それらの魔獣を倒して1週間から10日もの間森の中を進んで行かなければ森を抜けられない。
あちこちからそんな話を聞いて悩んでいる間に、そういえばまだこの街のあのエリアは探していなかったなと結局ズルズルとこの街で時間を過ごすことになる。
目の前にいるこの若い日本人は違う。最初からこのエリアにはゲートはないという決め打ちをし、ゲートがある場所に行くには何が必要かと考えて東西の森や北の山には見向きもせずに南の森を攻略するための鍛錬をする。こんな奴は本当に初めてだ。
こいつならソロであの森を抜けてその先の街まで行くだろう。いや、その先の街が終点じゃない、ゲートを探してもっと先の街まで普通に行くだろう。
「レイモンドは最近どうしていたんだい?」
レイモンドがジョージのことを考えていると彼から質問される。2人の目の前には料理が置かれていて、それを食べながらの会話だ。
「ソロで10日間山にこもっていたよ。ゴリラを倒して金策しながらあちこちウロウロしていた」
ジョージはフォークで料理を口に運びながら頷いている。
「南の森には行ったことあるのかい?」
「もちろん。ジョージと一緒でソロで草原で野営をして森の中を探索したよ。昼間だけだけどな。虎や水牛はサイズアップしている。そして木々が深くてなかなか好きに剣が振れない。そんなことを経験したのでその技量を上げるために山に行って山の中の木々の間や斜面で鍛錬をしているんだ」
「なるほど。その方法もありだ」
ジョージは自分の装備が良いのでいきなり森に行っているが、普通の装備なら南の森での活動はかなり苦労するだろうというのはわかる。レイモンドが今の自分の実力ならまだ早いと考えて山の中で鍛錬をするというのは自然な流れだろうと思うと同時に彼は南の森を越えて次の街を目指す強い意志があると感じた。おそらくギャツビーも同じだろう。
「なので俺もお前もしばらくはこの街で鍛錬を続けることになるな」
レイモンドの言葉に頷くジョージ。
話をしていると食事が終わった。
「この街でどこか飲み屋には顔を出しているのか?」
「”ハナミズキ”という日本人の元迷い人がやっているバーにはたまに顔を出している。飲み屋はその1軒だけだよ」
「時間があるのなら別の飲みに行かないか?俺がたまに行く店だが客筋がいい。紹介するよ」
「それなら是非お願いする。こっちは1軒しか知らないんでね」
食事を済ませた2人はその足でホテルを出て夜の街に繰り出した。夕食時ということもあり地元民に混じって多くの迷い人達が通りを歩いている。
「タチの悪いのはいなさそうだな」
隣を歩いているレイモンドが言った。
「顔を知っているのかい?」
「数名はな。ただ他にもいるはずだが目つきの悪いのがいない」
人様のモノに手を出そうと考えている連中は常にカモを探している。それが目つきや態度に現れる。ジョージもある程度はわかる様にはなっているがこれはやはりこの世界に長く住んでいろんなクズを見てきたレイモンドの方が見る目がある。経験値の差だ。
レイモンドが足を向けたのは”ハナミズキ”がある一角だった。扉の前に”ハリウッド”と書いてある。
扉を開けるといつものカウンターのバーだが、そのカウンターの中に金髪の女性が2人いた。どちらも30代前半に見える。客が1人いた。ギャツビーだった。彼はレイモンドとジョージを見つけると手を挙げた。彼の隣に並んで座る。中央にレイモンド、その左右にギャツビー、ジョージという座りになる。
「レイモンド、久しぶりね。そっちの人は初めてかな?」
金髪ショートの女性が話かけて来た。もう1人の金髪女性は長めの髪を後ろでまとめて背中に垂らせている。
「初めてになるね。俺はジョージ、2年目の迷い人。ジャパニーズだよ。1ヶ月半ほど前にこの街に来たところ」
ショートヘアの方がアン、ロングヘアの方がドリスといい2人とも元迷い人だと言った。2人ともアメリカ出身だという。
「ホテルのレストランで一緒になったのかい?」
先に来ていたギャツビーが言った。その通りだとレイモンドが答えて水割りを頼んだ。ジョージはビールだ。
ビールをぐいっと飲んだところでアンがジョージに顔を向けた。
「2年目って言ったわよね。この街に何人でやってきたの?」
「1人。ソロで来た」
ジョージとカウンターにいる2人の女性とのやりとりをレイモンドとギャツビーは黙って聞いている。
「信じられないわね。2年目でソロでこの街に来た迷い人って初めてじゃないかしら。ここにくる迷い人は大抵チームを組んできてるわよ。私たちもそうだったし、ギャツビーとレイモンドも2人でチームを組んで来たって言ってたわよね」
「そうだ。ただジョージは違う。こいつは本当にソロ、1人で東の街から山を越えてやってきている」
「と言うことは」
ドリスがそこまで言うとその後をギャツビーが続けた。
「そう、腕が立つってことだ。それもかなりな」
今度はジョージが4人のやりとりを聞きながらビールを飲んでいる。
「ジョージ、南の森は見てきたのかい?」
ギャツビーが話題を振ってきた。
「ああ、さっきレイモンドにも言ったけど森の入り口付近を探索してきたよ。というかそこで鍛錬をしている」
ジョージはそうか。と短く言ったが今のやりとりを聞いてまた女性2人が驚いた表情になる。
「ソロで南の森に行ってるの?」
「草原で野営をし、翌朝から夕方まで南の森を歩いて魔獣を倒して金策しながら鍛錬をしている。流石に夜は黒豹が出るという話なので草原で大人しくしてるけどね」
ギャツビーはレイモンドと同じで北の山に出向いているそうだ。金策とゲート探しを兼ねているが当然ながらゲートは見つかっていない。
「2年目の連中も結構ここに来てるのかい?」
「どうかな。結構って程じゃないんじゃないかな。むしろほとんどいなと思う。正直この街に来ることができるレベルの迷い人って皆平均以上の実力者ばかりじゃない。よっぽど金魚の糞みたいに誰か強い人たちのチームに紛れ込んでやってきた人以外はパッと見た感じじゃ分からないのよね。だから見ない顔が増えたなとか、そう言う基準で判断しているの」
ドリスが自分達の見方を教えてくれた。
東の街、西の街なら新人は目立つが、山を越えてここまでやってくる連中は強い魔獣を倒しまくっている。強い敵を倒せば倒すほど強者の雰囲気が出てくる。なのでこの街にくれば皆雰囲気を醸し出している強者ということになり、相対的にクズが減っているそうだ。
「2年目で南の街に来てすぐにグラスランドホテルに泊まれるって相当じゃない」
「だから俺がさっき言っただろう?かなり腕が立つって」
「ギャツビーもレイモンドもジョージのことは知っているんだ」
アンが2人を見て言った。
「西の街で知り合ったんだよ。そこでクズを返り討ちにもしている。俺たちは西の街からここにやってきたが、ジョージはソロで西の街から東の街に移動し、そこからこの南の街にやってきた。俺達からみりゃそれだけでこいつはできるって判断する」




