第42話
1人で5、6人倒せる実力者ならソロで山越えをしてここまでやってきたのも頷ける。ユウキはジョージの話を聞いてそう感じた。こいつは普通の迷い人じゃない。強い意志、そしてそれに見合う実力を持っている迷い人だ。
「この南の街は北にある東や西の街よりも治安が良いと聞いている。実際街の中を歩いていても雰囲気が北の2つの街とは全然違う。悪落ちしたクズはいないってことでいいのかな?」
「いることはいる。ただし人を殺してまでという奴はいない。せいぜいスリかあるいは女を使った強盗だよ」
この街には身体を売って生活費を稼いでいる元迷い人の女性達がいる。大抵の女性は身体を売ってお金を得るのを商売にしているが、中には女性と強盗がグルになっているケースがある。女性がホテルの男の部屋にいる時にその部屋に乗り込んで金銭を強奪するらしい。これも台地の上で聞いていた話だ。
「グラスランドは宿泊客以外は2階から上の客室には行くことができない。なのでそっちの心配は不要だな。街の外は草原で周りから丸見えだ。襲ってくるリスクはゼロではないが低いな」
アサミとケイコはこの街では2番目に良いホテルの広めの1部屋に2人で滞在しているそうだ。日本人同士なら問題ないだろう。東の街でもアデリーナとメアリーがホテルの広めの部屋に2人で住んでいた。女性ならありなのだろう。
目の前にいるマスターのユウキはどこまで行ったのだろう。年齢から見ると南の森を越えた先の街までは行ってそうだ。ただ今日は初日だ。あまり突っ込んだ話はしない方がいいだろうとジョージは判断する。
「どこで鍛錬するつもりだ?」
ビールのおかわりを置いたタイミングで聞いてきた。
「迷ってる。北門から出て越えてきた山に行くか、南の森の入り口でやるか。まだ詳しく見ていないが東と西は草原しか見えていなかった」
「東西は草原があり、東西とも草原の丘の先に大きな森がある。ここからだと東西どちらも街から3日程歩いた場所だ」
それを聞いたジョージはピンときた。
「混んでいそうだな」
そう言うとニヤリとするユウキ。答える代わりに大きく頷いた。カウンターのアサミとケイコもよく分かったわねという顔をしている。
「東西どちらも混んでる。なのでソロでやるのなら南北どちらかだな」
「ありがとう。助かります」
「ねえ、どうして混んでるって分かったの?」
ケイコが聞いてきた。ジョージは彼女の方に顔を向けた。
「移動のルート外だから。もし東西がずっと草原なら混まない。遠目に見てわかるから過去から誰かがチェックしているはずだ。東西どちらも森がある。それも規模が大きい森となると人間の心理として探してみたくなる。森の中だと10メートル離れるともう見えない。ゲートの大きさや高さもわからないとなると探し漏れがあるんじゃないかと考える。あとこれは予想だけど森の中にいる魔獣はサイと水牛で山を越えてきた時のよりも小さい、東と西の街の郊外にいたサイズだとしたら討伐も簡単だ」
「見事な読みだ。その通りだ」
「すごいわね」
ユウキがいい、2人も感心している。この読みはこの街の場所を考えれば予想がつく。北にある山を探すグループ、そして東西の森を探すグループ、これらが南の街で活動している多くの迷い人の行動パターンだろう。南の森には黒豹がいる。その中に入って探そうとする者はごく一部だ。腕に自信がある者は南の森に出かける。
東西の森を探している連中はこの街から南に進む決心がまだついていないか、半ば諦めている連中だとジョージは考えていた。西の街でも西の森の中を探している迷い人は多かった。彼らはゲートを探しているフリをしながら実際は探索を諦めた連中だと思うし、レイモンドやギャツビーもそう言う見方をしている。
今まで何十年もの間、毎年の様に迷い人がこの世界にやってきてあちこちを探した結果、この台地の東、西、そして南の街の状況については大抵の状況がオープンになっている。一方でここから先の情報が極端に少なくなっている。つまり何万、ひょっとしたら何十万という迷い人が南の街まではくまなく探索したということだ。それでまだゲートが見つかっていない。
ジョージはここまでのエリアにゲートはないだろうと決め打ちをしている。もちろんこれは彼の判断だ。本当は違うかも知れない。でもそう思い始めるといつまで経っても南に進めない。
自分の判断が正しいか間違っているか。いずれ分かる時がくるだろう。
次の日、ジョージは丸1日街の南側の草原でサイと水牛を相手にする。新しい腕輪の効果もあり結構な数の魔石を取り出すことができた。片手剣の時々2倍のダメージという付帯効果にも攻撃力+10が乗るのでそれまでよりも少ない攻撃回数で魔獣を倒すことができる。早く倒せば倒すほど自分が生き残る確率が上がる。
南の街は今までジョージが訪れた街の中で最も大きく、今までで最も多くの迷い人がいる街だ。
南部エリアの攻略の起点になっているという地理的な事情以外に、ゲートを探すことを諦めたり、諦めきれないが、かと言ってここから先に行く決心がつかない迷い人が多くいる。
南の街で1週間程周辺の草原で身体を動かしたジョージは南の先の森に出向くことにする。しっかりと準備を整え南門を出ると途中で出会うサイや水牛を倒しつつ、野営をしながら南を目指した。
街を出てから3日目の昼前、ジョージは南の森の入り口についた。森の中は昼間でも薄暗い。ひょっとしたら森の奥に続く道どこかにあるかもしれないとジョージは森に沿って東西に歩いたみたが、奥に続く道らしきものはない。
森の中に入ると木々の間、道なき道を進むことになりそうだ。どこから森に入ってどこに抜けるか。その途中で黒豹に会うか会わないか。森に入るところから迷い人の運試しが始まる。
黒豹は夜行性だと聞いている。ジョージは今自分が立っている場所から無造作に森の中に入る。高い木々が生えている森は昼間でも鬱蒼としているが、そのせいなのか地面には背丈の高い草はなくせいぜい膝の高さ位までしかない。これなら魔獣が姿をかうして近づいてくることはできないだろう。
しばらくすると木々の向こうに虎の魔獣が見えた。相手はまだこちらに気がついていない。見つかりにくくなるという装備の特殊効果のおかげでジョージは魔獣を観察する事ができた。言われている様に今までのよりも大きいサイズだ。ただ周囲を見ても1体しかいない。
「やってみるか」
そう呟くと魔獣に近づく。ジョージに気づいた虎が襲いかかってきたがしっかりと準備をしていたジョージは危なげなく倒して魔石を取り出す。
「図体がでかいだけだな。素早さは同じだ」
感覚を掴むと森の中を歩いて虎、時に水牛を倒しては魔石を取り出した。日が落ちる前に森から出ると草原で野営をする。
2日野営をしながら森の中を探索した彼は4日目に南の街に戻ってくると換金屋に顔を出した。南の森の魔獣はサイズが大きく、数が少ないことから虎も水牛も魔石1つを銀貨1枚と銅貨5枚で買い取ってくれる。この4日の活動で金貨5枚以上稼ぐことができた。
2日ほど市内の周辺で体を動かし、再び森に出向いて野営をしつつ森の入り口付近を歩きまわって活動をする。時には夜に森の中に入って様子を探ることもした。
昼間でも鬱蒼としている森は夜になると極端に視界が悪くなる。森の中にいる虎や水牛を倒すことに難しさを感じなくなっているジョージでさえ前に進むのを躊躇う程だ。視界はどう見ても10メートル以下だ。魔獣が動けば足音が聞こえるが待ち伏せされるとまず間に合わない。風が吹くと難易度がさらに上がる。
夜は木の枝の上で野営するしかない。ただそうなると黒豹が襲いかかってくるリスクがある。
ギャツビーやレイモンドが言っている様に運に頼るしかないのか。他に方法はないか。これはもう少し時間をかけて考えないといけない。
森の入り口付近での調査を1ヶ月続けると結構な金額になった。ホテル代を気にする必要が亡くなった上に森の入り口付近の様子が大体理解できた。夜をどう過ごすかの答えはまだ出ていないが、それ以外、森の中での戦闘については来た時よりも成長できたという実感がある。木々が密集している場所での剣と身体の使い方を身に付けつつあった。




