第4話
翌日、ジョージは一旦宿をチェックアウトした。宿の追加料金を払う金がない。宿の近くで串焼きを買った。金額は一緒だったが北門の入り口の屋台のよりも味が落ちる。やっぱりあの屋台で買おう。あのタレは絶品だ。
この日は朝から夕刻まで昼食も取らずにひたすら南門を出たところの草原でスライム、ウサギ、そしてその先にいる2足で立つトカゲを倒しては魔石を取り出していった。この世界ではレベルアップはないが、戦闘を重ねると体の動きが良くなってきた気がする。武器や戦闘に慣れてきたということなのだろう。相変わらず草原には自分と同じ迷い人が片手剣や斧を振り下ろしている。
夕刻に街に戻って換金屋で魔石の買取を頼むと銀貨4枚、銅貨2枚になった。トカゲの魔石は1つあたり銀貨2枚での買取りでなるので金額が増えているという話だ。その足で宿に向かうと2泊押さえた。
ジョージはこれからの方針を決める。まずは金策。それから金策は続けつつ、遠出に関する準備を整える。
最初の街で2週間が過ぎると自分を同じ格好をした迷い人の数が少なくなってきた。人が少なくなると魔獣を倒す効率が上がる。1ヶ月後、ジョージの所持金は金貨5枚、銀貨12枚、銅貨4枚、鉄貨1枚になっていた。”スモーク”にはその後も不定期に顔を出している。
その後も魔獣を倒し、街の中で遠出に必要な装備を買いながら住民と話をするジョージ。野営用のテント、寝袋、魔石ランプなど。そしてそれらを入れる大きなカバン、着替えの下着も買った。あとは移動中の食事と水だ。これは出発の前日に買えば良いだろう。
この日の夜、ジョージは”スモーク”に顔を出した。中に入ると先客がいたが丁度帰るタイミングだったらしく、すぐに彼だけになる。
「次の街に行く準備は整ったのかい?」
そう言ったバーの親父のスモーキーがのジョージの前にビールを置いた。
「ああ。大体準備できたので3、4日の内には次の街に出向こうかと思っている」
ジョージはこの街ですでに2ヶ月近く滞在している。
「次の街の情報は取れているのか?」
「複数の住民に聞いた。虎や熊がいるエリアも大体把握できた。あんたに言われた通りにまずはしっかり情報を集めてからアクションを起こすことにしている」
「それなら大丈夫だろう」
スモーキーは夜は酒場をやっているが昼間は自宅にいて街の中をうろうろしているらしい。
「俺が見る限り、新しい迷い人のおそらく8割以上はもう街を出ているな」
「そんな感じだろう。外に出ても魔獣を倒している数がぐっと減ったよ」
「ジョージもいよいよ旅立ちか」
「出発前にはもう一度顔をだすよ」
ビールを飲んで雑談をしているとスモーキーがところで、と言った。
「ジョージは金貨何枚持ってる?」
「今は金貨は7枚あるな」
そう言うとちょっと待ってろ。とカウンターの奥に消えたスモーキー。5分ほどして戻ってくると手に袋を持っている。大きさは30センチX20センチほどで皮と布を使ってしっかりと作られている袋だ。
「これを金貨7枚で売ってやろう」
「これは?」
「魔法袋だ。遠出には必須だぞ」
「魔法袋?」
「そうだ。魔法の袋で魔法袋。こんな大きさだが中は広くなっていてかなりの物を入れることができる。ただ容量がでかいというだけなので、生ものは時間が経つと腐っちまうがな」
それでもこれは便利そうだ。スモーキーは見ていろと言うと背後の棚にある酒瓶を2本袋の中に入れた。目の前で酒瓶が消えたと思ったら袋から取り出すスモーキー。
「これがあるとテントや水、腐らないパンなんかを中に入れたままで移動できるぞ」
「これはこの街じゃ見なかったけど?」
「ここには売っていない。これが売っているのはもっとずっとずっと南にある街だ。俺はこの魔法袋を2個持ってる。お前に売ってやるのは容量の小さい方だが、それでもかなりの容量があるぞ」
スモーキーによると、このサイズの魔法袋でも普通に買うと白金貨2枚はするだろうと言っている。
「本当に金貨7枚でいいのか?」
「俺が使ったお古だしな。それと俺からの餞別だと思ってくれ」
ジョージが黙っているとスモーキーが続ける。
「俺が見つけられなかったゲート、ジョージなら見つけるかもしれん。期待をこめての意味合いもある」
「そうか。じゃあ買わせてもらおう」
ジョージはその場で金貨7枚をスモーキーに渡し、代わりに魔法袋を手に入れた。
「荷造りしてみな。全部入ってまだ余裕があるはずだ。もし不具合があったら言ってくれ、金は返す」
「分かった」
”スモーク”を出て宿に戻ったジョージは部屋に置いていた大きなカバンを右手に持ち、左手には魔法袋を持ってその口の部分をカバンにあてた。すると吸い込まれる様にカバンが消えた。袋を手に持つと中に何も入っていないかの様に軽い。
「これはすごいな。それで取り出す時はどうしたらいいんだ。手を入れるのか?」
魔法袋の入り口に手を入れると頭の中に袋の中に入っているアイテムが浮かんできた。
・カバン
それだけだ。彼は鞄を取り出すと中から魔石のランプだけを取り出し、再びカバンととランプを魔法袋に入れてから手を入れた。すると、
・カバン
・魔道具のランプ
と脳内に浮かんできた。
「なるほど。こうなっているのか」
1人呟くと、カバンからアイテムを取り出して個別に魔法袋に収めていく。その結果魔法袋に手を入れると今自分が持っている全てのアイテムがリストとして脳内に現れた。
ちなみにお金を入れると銀貨3枚、銅貨5枚と種類別に表示され、銀貨と念じると銀貨3枚が袋から出てきた。
「これがあると無いとでは移動が大違いだ」
翌日、ジョージは魔法袋を落とさない様に紐をつけて首から垂らし、シャツの中にいれる。動きの邪魔にならない様に長さを調整し終えると。多少の小銭をすぐに出せる様に腰に巻く頑丈なポーチになっている財布を買った。
それから数日間、外で魔獣を倒し金策をした彼は出発の前日の午後に食料と水の買い出しをする。日持ちする食料を買い、水も可能な限り買った。
次の街に行く準備が整った。
明日街を出る前日の夜、ジョージは”スモーク”に顔を出した。いつもよりは早い時間だったがたまたま客は誰もいない。スモーキーはちょっと待ってろと言うと玄関のドアを開けてすぐに戻ってきた。
「閉店してきた」
カウンターに戻ったスモーキーがグラスにビールを入れてジョージの前に置いた。
「いいのか?」
「気にすんな。それより明日出発か」
「ああ。準備はできた。魔法袋があるから多めに持てる。あれは助かるよ。ありがとう」
「気にするな。こっちもちゃんと金を貰ってる」
「聞いていいか?」
ジョージが言うと、続けろと目で催促してくる。
「この店には今も、そして過去にも大勢の迷い人が来ただろう?なぜ俺に魔法袋を売ったんだい?」
「ジョージが特別だからだ」
「特別?」
スモーキーはジョージの左手首に視線を送った。彼の左手首には素早さが上がる腕輪が装備されている。
「その腕輪、特殊能力というか効果が付いている腕輪だろう」
「それで?」
表情を変えずに答える。
「その腕輪はこの街では売ってない。つまり手に入れようがない腕輪だ。それをおまえは初めてこの店に来た時から手に装備していた。ということはあの洞窟の中でお前は神の代理と何かあって、その結果手に入れた物だ。ちがうか?」
「なるほど。その通りだ」
心底感心した声を出すジョージ。
「腕輪自体はこの街でも売っている。ただそれはアクセサリーだ。大抵は木製の腕輪にいろんな色を塗っているんだ。それは違う、見る人が見ればすぐにわかる」
「付けているとまずいか?」
「そうだな。街の中では外した方がいいだろう。能力が上がる腕輪は次の街でも売っていない。というかしばらく手に入れられない。迷い人の多くは気が付かないか元迷い人の中には気が付く者がいるだろう」
「分かった」
「それでさっきのお前の話にも繋がるが、本来持てないはずのアイテムを持っている。ひょっとしたら武器や防具も外見は一緒でも高い能力が付与されてるかもしれん。つまりだ、お前は今まで見てきたその他大勢の迷い人とは違うということだ」
大した観察力だと感心するジョージ。最初はスモーキーの事をゲート探しを挫折、断念した負け組の元迷い人だと思っていたが何度か会うたびにその評価が変わっていった。
この目の前の男は当時はかなり上位にランクされる実力者ではなかったか。逆に実力があったから、優秀だったからこそ自分の限界を知り、ゲートを探すことに見切りを付けてこの地で自分がやりたかった酒場の親父というポジションを選んだのではないか。
ジョージは最初に飛ばされた空間から洞窟での出来事をスモーキーに話しした。黙って聞いていた彼はジョージの話を聞くと唸り声を出した。
「やっぱりお前は普通じゃないな。大抵の人間、もちろん俺もだ。目の前にウインドウが現れたら何も考えずに武器を選ぶ。そして誰よりも早く見つけてやろうと洞窟を飛び出していくだろう。でもジョージ、お前は違った。その結果隠し部屋を見つけ、神の代理と直接話をし、武器、防具、そしてアイテムと全てを手にいれることができた。俺の見る目も腐ってなかったってことだ」
「腕輪の件を見破られた時点で大した人だと思ったよ」
「教えてやろう。ジョージが装備している片手剣と防具、腕輪を売っているのは砂漠に面したでかい街、俺が迷い人になることを諦めた街だ。魔法袋はその手前の街で手にいれることができる」
「なるほど。つまりその街まで行けていない奴は、俺以上の装備を持っていないってことになる」
「その通りだ」




