第36話
その後も毎日外に出ては強い魔獣を相手に技術を磨いたジョージ。金策にもなりホテル代には全く困らないほどになった。それと同時に草原で3体の水牛を相手にしても全く危なげなく倒せる様になっていた。
この日彼はレストランで夕食を摂ると夜に街に出た。
「明日から東の洞窟に行ってくるよ」
時間が遅いからなのか、それともたまたまなのか、イエローナイフの中にいる客はジョージ1人だ。
「ソロで行くのか?」
銅貨を掴み、おかわりのビールを彼の前に置いたデイビッドが言った。その言葉に頷く。
「洞窟の中にあるかも知れないゲートを探すのかい?」
その言葉には首を左右に振る。
「前にも言ったけど俺は東、西、南の街があるこのエリアにはゲートは無いんじゃないかと思ってる。あんたも含めてもう何十年も俺たちの先輩が探しまくって見つかっていないのだからな。でも洞窟には一度は行っておきたい。洞窟の中ってどうなっているのか、中を見ておくことで、これから先のエリアで、もしまた洞窟があった時ここでの経験が役に立つかもしれないと思ってる」
なるほど、確かにこいつは普通の迷い人とは違うぞ。デイビッドはジョージの言葉を聞いてそう感じていた。こいつは計画性を持って動いている。普通の迷い人、自分もそうだったが、日々ゲートを探してあちこちに移動していた。言ってみれば行き当たりばったりの活動だ。ここになかった。じゃあ明日はあっちだ、こんな感じで広い世界を動き回っているうちに歳をとっていく。
こいつは違う。広い世界を探す前提で動いている。それが正解かどうかは別にして自分でここには無いだろうと判断をする。洞窟についても洞窟の中のゲートを探すのではなく、洞窟に慣れる。中にいる魔獣や悪い奴らと対決することで経験を積み、それがこれから先のエリアで生きてくるんじゃないかと考えている。実際このエリアにゲートがある可能性はかなり低いとデイビッドは思っていた。その理由は正にジョージが言ったのと同じだ。何十年もくまなく探して見つかっていない。ここには無いと考えるのが正解だろう。
ジュジュが言っている雰囲気が違うと言っていたが、彼女がそう思う理由の1つが今のこの発言だ。今自分がやっていることが将来のための鍛錬だと割り切っている。今までそこまで先を見て動いている迷い人がいなかったのではないか。ジュジュが初めて会ったタイプの迷い人、それがジョージだ。
「洞窟の中に巣食っている連中は手強いぞ」
「だろうな。でもそれを返り討ちにできない様だと先には進めないよ」
ジョージは自分で腹を括っているので淡々と答える。
「戻ってきたら顔を出してくれ」
「もちろん。この街で飲み屋はここしか知らないのでね」
翌日、ジョージは東門を出て洞窟を目指す、1時間ほど歩けば洞窟が多数あるエリアに着くのでそこに向かう迷い人の数が多い。しかも街から洞窟までは草原が続いている。これでは盗賊も手が出せないだろう。なので彼らは洞窟の中で人を襲っている。
草原を歩いていくと前方に高い崖に多数の穴が空いているのが目に入ってきた。洞窟エリアだ。想像以上に洞窟の数が多い。この中のどこかにゲートがあるんじゃないか、そう思わせる程の数だ。近づくと洞窟の前には迷い人達が固まっている。あの中に盗賊というかクズ連中も混じっているはずだ。流石にここでは襲ってこないだろうが見張りの奴はいるだろう。
ジョージは手前から奥に歩きながら洞窟を見ている。入り口の大きさは様々で、中には崖の中腹に入口がある洞窟もあり、数名の迷い人が岩場を登っていた。
歩きながら前後左右を警戒しているが、今の所ジョージのアンテナには何も引っかからない。よっぽど上手く気配を隠しているのか、それとも中で網を張って待ち構えているのか。どちらにしても自分にかかる火の粉は払うだけだ。
ジョージは人気がない1つの洞窟を見つけるとその中に入った。洞窟の中、入口付近は幅4メートル、高さは4メートル程あり壁にある苔が光っていて暗さを感じない。これは事前に聞いていた通りだ。奥まで続いているのが見える。
中を歩いていると天井からコウモリが襲ってきた、聞いている洞窟コウモリだ。2匹が固まって襲ってくるがその動きはそれほど早くない。片手剣で倒すと魔石を取り出す。この魔石がサイや水牛と同じで銅貨8枚になる。確かに倒しやすくて魔石の買取り金額が高いとなれば洞窟の入口付近で活動するだけで十分に金策にはなるだろう。
進んでいくと3名でコウモリを倒している迷い人に会った。邪魔にならない様に横をすり抜けて奥に進んでいく。コウモリを倒していると奥から大きなモグラが襲ってきた。洞窟モグラだ、突進してくるがサイや水牛に比べるとそのスピードはずっと遅い。軽くかわして片手剣を一閃するとそれだけで倒れた。魔石を取り出して奥に進む。
入口から200メートル程歩いたところで洞窟が2つに分かれていた。どちらも同じ幅と高さだ、ジョージは左右を見てから右の洞窟に足を向けた。相変わらずコウモリとモグラが襲ってくる。倒しながら進むとまた分岐が出てきた。こんな調子であちこちの洞窟の中に分岐があるのだろう。中には他の洞窟の入口と繋がっているところもあるかもしれない。そう考えると必ずしも自分が入った洞窟から盗人が入ってくるとは限らず、他の洞窟から入り、奥で獲物を待ち構えていることも考えられる。
ここを根城にして強盗を働く様な連中なら洞窟の構造も掴んでいるだろう。
ジョージは注意しながら魔獣を倒しつつ奥に進んでいくと、自分の予想が間違っていなかったことが証明される。
いくつかある分岐を常に右に進みながら後方を警戒していたが、突然後方から複数の足音が聞こえてきた。少し手前の分岐の反対側からやってきたのだろう。
「1人で洞窟でゲート探しかい?無茶するよな。これだから素人は困るんだよな」
振り返ると3人の顔つきの悪い迷い人がいる。少し遅れて背後、つまり自分が進む方向から2人の迷い人が出てきた。洞窟がつながっているので待ち伏せしていた様だ。前に3名、背後に2名の迷い人が数メートルの距離をおいて前後からジョージを取り囲む。
「迷ったんだろう?身ぐるみ置いていくのなら出口まで俺たちがガードしてやるよ」
3人の真ん中にいる男が言った。
「魔獣にやられたくないだろう?死ぬよりマシだぜ」
口々に話かけてくる連中。
「……失せろ」
低い声で言った。
「悪い、聞こえなかった。何て言ったんだ?」
「死にたくなかったらクズは失せろって言ったんだよ」
「なんだと?」
「てめぇ」
最初に話かけてきた男がそう叫んだ時にはジョージは後ろを振り返ると背後の2人に突っ込んでいった。虚を突かれた2人が剣を振ろうとした時にはすでに目の前にジョージがいた。彼は体を沈めたまま剣を真横に払う。2人の腹が切り裂かれて大量の血が流れ出した。すぐに今度は向きを変えると身体を止めることなく3人に向かっていく。剣を構え大声を出しながら襲ってくるがジョージから見ればその動きは早くない。最初の剣を躱しながら腹を裂き、後の2人も同じ様に腕や腹に剣を払った。
あっという間に5人の盗賊が洞窟の床に這いつくばる。鳴き声や呻き声が聞こえるがジョージは表情を全く変えることなく5人の首筋に剣を下ろし絶命させた。
洞窟の床には大量の血が流れている。
「弱いくせに襲ってくるからこうなる」
剣についている血を持っている布で拭きながらそう呟くと、何もなかったかの様に洞窟の奥に進み出した。死体は早晩魔獣が食べてくれるだろう。
洞窟は想像以上に長く、そしてそこら中に分岐がある。これならこの中のどこかにゲートがあると思いたくもなる。
その場から少しだけ奥に進んだジョージは入口に向かって引き返すことにした。洞窟の様子は分かった。ここにはゲートは無いだろう。
戻ってくるとと5人を殺した場所に3人組の迷い人達がいた。皆白人だ。そばには魔獣の死体がある。その横にはジョージが倒した強盗達の死体が残っていた。強烈な匂いがその場に充満している。
洞窟の奥からジョージがやってきたので3人が身構えた。ただジョージからみて彼らに敵意は感じない。対峙すると3人組の1人がジョージに声をかけてきた。
「この5人の死体、あんたが倒したのか?」
「ああ、5人の盗人達だった。襲ってきたから返り討ちにした」
「1人でか?」
別の男が言った。
「そうだ。俺はずっとソロで動いている」
そういうと3人はジョージを見てから地面の死体の一部を見る。
「名前を聞いてもいいか?」
「ジョージ、新人、いやもう2年目になるのか。ジャパニーズだよ」
彼らはオーストラリア人2人とニュージーランド人の3人組で3年目の迷い人だそうだ。名前はマイク、ベン、そしてハイデン。ジョージの1年前にこの世界に来ている。
「1人で5人を倒すなんてすごいな」
一番最初に声をかけてきたマイクが言った。
「死ぬ気になればできるさ」
そう言ったジョージは失礼と彼らの横を通り抜けると洞窟の出口に向かって行った。ルートは覚えている。ずっと右に進んできたので帰りはその逆を行けばいい。
ジョージが去っていく背中を見ていた3人。
「あいつ、こいつらが有名なワルだって知ってのか?」
「多分知らないだろう。襲ってきたから返り討ちにしただけだと言っている。相当腕が立つな」
「それは間違いない。それよりここを早く移動しようぜ、臭くてたまらん」
顔が残っている死体を見ていたハイデンが言った。盗人を何度もやっていると面が割れることもある。面が割れるということはそれなりに人殺しの数が多いということだ。
「あいつらが洞窟で俺たちの仲間を殺しまくっているらしい」
「俺もその話は聞いている。もう何人も殺られているんだろう?」
洞窟の前や東の街の中でそいつらを見つけるとそんな話になり、それが迷い人の間で広まっていく。ジョージが殺した連中はそんなその筋では有名なチームの1つだった。札付きのワルとして名が通っていた。
3人が去った後、洞窟には魔獣の死体と5人の死体の一部が残されたが、それも数時間も経てば綺麗に他の魔獣が食い尽くして無くなってしまうだろう。
マイクのチームが洞窟を出て東の街に戻って行きつけの飲み屋でジョージの話をした。
「ザハドのチームが洞窟で皆殺しにあった。やったのは2年目のジャパニーズだ」
「そうだ。ソロで5人を皆殺しだよ。俺達は彼らの死体を見ている」
この日の事件を契機に東の街の中でジョージの名前がゆっくりと売れていく。
「まだ若いがジャパニーズで桁違いに強いのいるらしい」
「ジャパニーズのジョージって奴は半端ない強さらしいぞ」
「ザハドのチームを1人で皆殺しにしたって話だ」




