第33話
図らずも東の街に着いた初日にこの街で強者と呼ばれている人たちと接点を持つことができた。そして新人の迷い人にしては出来る、腕が立つということも知られた。これは大事なことだ。トムソンが言っていたがあいつは強いという噂が広まると悪落ちした連中はそいつに手を出さなくなる。返り討ちに合うかもしれないと考えると、そいつを狙うよりももっと弱い、やりやすい迷い人をターゲットとする。彼らのターゲットとなる”強くない”迷い人の数もそこそこいる。
”腕が立つ”という噂はスキャンダルなどと違い一気に広まるものではない。迷い人の間でゆっくりと広まっていくものだ。ジョージはそう思っている。
いずれにしても、レイモンドが言っていたが、基本は放置、無視するが、歯向かってきたらぶちのめす。ジョージもこのスタイルでやろうと決めていた。
次の日換金屋で魔石を現金化した彼は市内を歩いておおよその土地勘を覚えることにする。この東の街も東西南北に門があり、ジョージが入ってきた西門以外では、北門が台地の山裾の草原に、南門も出ると草原が広がっている。そして東門は洞窟に続く道になっていることもあり、東門付近は最も迷い人の数が多かった。洞窟に行く迷い人なのだろう。金策にもなるという話だ。
西の街もそうだったがこの東の街は西の街よりもさらにピリピリとした雰囲気が漂っている。迷い人達の視線が鋭い。じっと睨みつけてくる迷い人の数は西の街よりも多いだろう。皆街の中ででも緊張を解いていないのが伝わってくる。
それが自己防衛の為なのか、それとも睨みつけてくる連中が悪落ちした迷い人なのかは分からないが、この街はそこまでする必要があるということだ。迷い人の数自体は西の街の方が多いかもしれない。
「ここか」
ジョージは南門の近くにある薬屋の看板を見つけると扉を開けて中に入った。扉の開く音がしたのか、奥から初老の女性が出てきた。マーサと似た様な年齢に見える。
「いらっしゃい。ポーションかい?」
迷い人の格好を見たからなのかそう声をかけてきた。
「こんにちは。俺はジョージ、新人の迷い人だよ。西の街のマーサから紹介されてね、挨拶にやってきたんだ。もちろんポーションも買わせてもらうよ」
ジョージと名前を言った時に気がついたのか、女性の表情が緩んだ。
「あんたがジョージかい。マーサから聞いてるよ。あたしはジュジュ。この薬屋をもう長い間やってる」
ジョージはリンから預かっているメモを渡した。ちらっと目を通したジュジュ。
「リンは元気かい?」
「ああ、西の街では世話になったよ」
他に客がいないこともあったのか、ジュジュが店の中にある椅子を勧めてきた。テーブルを挟んで向かい合わせに座ると彼女が話しを始める。
「マーサからはあんたにこの街の様子を教えてやってくれと言付かっている。それとリンのこのメッセージから見るとジョージは腕が立つってことだね」
「腕が立つかどうかは分からないが、最初からずっとソロで動いているよ。西の街からここへも1人で移動してきた」
「なるほど。じゃあ腕が立つってのは本当だろう。普通は3ヶ月近く1人で移動できないからね」
そう言ったジュジュが東の街について教えてあげるよと言って話始めた。
この東の街には住民が2万人ほど住んでいる。迷い人も1万人はいる。
「治安が悪いと言われているが、地元民は基本関係ないね。治安の悪さは迷い人同士の事情だよ」
「確かに」
「だからと言って地元民が100%関係ないのかと言えばそうでもない。今私が基本関係ないと言ったけど、関係のある地元民もいる。かく言う私もそうだよ、迷い人相手に薬を売っているからね」
商品を盗まれる、あるいは代金を踏み倒されるというリスクはあると言うジュジュ。なので迷い人については彼らと接点がある地元民同士で情報を共有している。
他の街でも聞いたがその街の地元民が皆迷い人を歓迎している訳でもないし、皆嫌っている訳でもない。ジョージはよそから来た自分たちは地元民と上手く付き合っていかなければならないと思うが、迷い人全員がそんな考えをしているとも思えない。その結果ジュジュが言う様に地元民の中で迷い人と接点がある人たちは彼ら同士で情報を共有し、余計なトラブルに巻き込まれない様にしているのだと推測する。もちろん自分は上手く付き合っているつもりでも地元民から見たらそうはとられない事もあるだろう。人と人との付き合い方なんて人それぞれだし、全員から好かれたいというのは無理な話だ。ただ迷い人としてこの世界に来ている限り、出来るだけ多くの地元民に悪い印象を与えないという努力はするべきだと考えている。
ジュジュによれば、昼の時間帯であれば。この東の街の中にいる分には安全だろうと言う。これは西の街でも同じだった。
「ただ夜は気をつけた方がいいよ。街の中を歩いている地元民が少なくなるとタチの悪いのが犯罪をしやすくなる。ひったくりや置き引きなんかが増える。暴力沙汰ってのはあまり聞かないね」
「それは迷い人同士の話だよな」
「そうだよ。私ら地元民にはしてこない。そんなことをしたら街にいられなくなるからね」
これも聞いていた通りだ。ジュジュによればそう言う情報があっという間に地元民の間に広がり、手をだした迷い人には一切協力しなくなる。ホテルにも泊まらせない、何も売らない。そうなると迷い人は街で何もできなくなって街を出ていくしかなくなる。迷い人もそれを知っているから地元民を巻き込むことはしないのだと言う。
「この街にも元迷い人がやっている飲み屋があるが、普通の飲み屋ばかりじゃない。詳しいことは”イエローナイフという飲み屋のマスターに聞いたらいいよ。ジュジュの紹介だと言えば大丈夫だよ。マスターはデイビッドと言ってここでもう20年近く店をやってる」
そう言って店の場所を教えてくれた。マスターの名前から推測するにアメリカ人の元迷い人かもしれない。行けばわかるだろう。
ジョージは礼を言ってポーションをいくつか買った。
「この街にはどれくらいいる予定なんだい?」
「どうだろう、最低でも3ヶ月はいると思う。洞窟がある場所にも行ってみたいし」
「せいぜい贔屓にしておくれ」
「もちろん。ありがとう。色々と参考になったよ」
ジョージは店を出ると、近くの南門から外にでた。そこは草原で見通しが良い。西の街でもそうだったが見通しが良い場所にはややこしい奴らはいなさそうな気がする。やるのなら東の洞窟か西の森だろう。これもあとで確認する必要がある。
草原には水牛とサイの魔獣が混在しているがジョージにとってはどちらの魔獣も苦労する相手ではない。単体、時々2体の魔獣を倒しながら魔石を取り出していく。彼は東の洞窟に向かう前にしっかりとこの街の様子を知ることと身体を鍛えることが大事だと考えていた。
夕刻まで外で活動をした彼は街に戻ると換金屋で魔石を買い取ってもらい、そのままサンライズホテルに戻ってきた。部屋に戻って中をチェックしてからシャワーを浴びると1階のレストランに足を向けた。
昨日話かけてきた2人の姿はないが、そこにいた迷い人達がジョージに視線を向けてくる。昨日見た人もいれば初めて見る顔もある。皆自分よりも迷い人としての経験が豊富な年上に見える。逆に言うと若いのは自分1人だ。
1人でテーブルに座って食事を終え、食後のコーヒーを飲みながらこれからの予定を考えて見る。とりあえず夜にイエローナイフに顔を出してデイビッドに挨拶はしておこう。そこで情報が取れるかどうかは別だ。薬屋のジュジュが紹介してくれたこともあり、早めに一度は顔を出しておいた方が良いきがする。
まだこの街に来て2日だ、街の外がやばいというのは実感したが、街の中の様子はまだ分からない。夜歩く事で何か新しい発見があるかもしれない。
ゲートはこの街に無いと思っているが、それでも洞窟群には行っておいた方がいいだろう。無法地帯と言われているがジョージは実際自分の目で見てみたいと考えていた。
万が一そこで殺されたらそれまでだ。ただ鍛錬を積んで自分が強くなっている実感はあるし装備関係も充実している。一方的にやられっぱなしにはならないだろう。




