第32話 東の街
ジョージが西の街を出てから50日が過ぎた。10日ほど前、歩いている左側の山裾にスロープが見えた。第3の街からここに降りてきたスロープだ。自分たちの次の年の連中が今まさに台地の上を移動しているかもしれない。
スロープを過ぎて草原を歩いているとジャスミンから聞いていた水牛の様な魔獣と出会う。サイの魔獣には会っていたがこいつは始めてだ。東側に生息しているのかもしれない。
大きさはサイと変わらないが水牛の魔獣と言われるだけあって頭の左右から大きな角が真っ直ぐに伸びている。
大きさもサイと同じくらいだ。外見は異なるが攻撃パターンは同じだった。ツノを突き出して突っ込んでくる。初見であればその大きさと突進してくる迫力に気後れする迷い人もいるかもしれないが、サイを相手にしっかりと鍛錬を重ねたジョージにとってはサイも水牛も討伐に苦労する相手ではない。ぎりぎりまで我慢し、横に飛びながら剣を振るう。片手剣の付帯効果である時々2倍のダメージも最近では7割以上の確率で発動する様になっていた。
水牛を倒して魔石を取り出すと再び歩き出した。
草原を歩き、森を抜けながら東に進んで行くジョージ。
この森を抜けるともう直ぐ東の街だろうと森の中を歩いていた時、前方に何かの気配を感じた。ジョージはその場で立ち止まると、傍にある大きな木の陰に隠れて前方の様子を伺う。
見ると森の先に迷い人が隠れているのが目に入ってきた。周囲を見ると全部で3名いる。彼らはジョージに背を向け、向こう側の様子を伺っている様で、狩りをしている姿には見えない。彼らは皆、鞘から片手剣を手に持って構えている。後ろからみる限り中東系に見える。
あれは狩りのスタイルじゃない。となると誰かをあの場所に誘き寄せて襲いかかるのか。
その場で見ていると森の先から怒声と叫び声が聞こえてきた。聞こえる怒声は3つ、叫び声は2つだ。3人で2人を追いかけ、こっちで3人待ち伏せしている。6人のクズ集団か。倒せるか?
そう思った次の瞬間にはジョージは木の陰から飛び出して待ち伏せしている連中に近づいていた。
「よう、何やってるんだ?」
その声に驚いたのか3人がジョージの方を振り返った。もちろんジョージも片手剣を手に持っている。3人組は前と後ろを交互に見ていたが、その中の一人が叫んだ。
「こいつも殺っちまおうぜ」
その声で3人がジョージに襲いかかってきた。ジョージは遅いかかってくる連中に走り寄ると身体をステップさせながら片手剣を横に降る。二人の腹を裂き、残った一人の腹を裂いて倒したところで2人組が叫びながら近づいてきた。20代、自分と同じ今年の迷い人だろう。逃げている2人は白人、追いかけている3人のうち2人は黒人、1人は中東系だ。
「助けてくれ」
「待てや、こら」
万が一、こいつら全員がグルだという可能性もある。ジョージは逃げている2人組の動きをじっと見ている。
「右へ飛べ」
ジョージが叫ぶと2人が右に飛んだ。その背後から近づいてきた3人がジョージを見つけ、彼の周囲で3人が腹から血を流して倒れているのを見ると驚いた表情になる
「てめぇ」
「お前達の仲間か?弱いな」
「てめぇから先にぶっ殺してやる」
正直サイを3体相手にして鍛錬を積んできたジョージにとって装備も劣る3人は敵ではない。攻撃を躱しながら片手剣を振って3人の腹を裂いた。地面には6人のクズらが倒れてうめき声をあげている。
「た、助かったよ」
右に逃げていた白人の中の1人が言った。もう1人は膝に両手を当てたまま荒い息を吐いている。
「森で襲われたのか?」
「ああ、2人で狩りをしてたら襲ってきたんだ」
「なるほど」
見ている限りではこの2人は倒れている連中の仲間ではなさそうだ。ただ100%信用できない。
「襲われてきて腹が立ってるだろう?ムカついてるだろう?」
ジョージが言うと当たり前だという。荒い息を吐いていたもう1人も騙しやがって、ムカついていると言った。
「じゃあこの6人のとどめを刺させてやるよ。やらなければやられる。そうだろう?」
ジョージが言うと地面に倒れている6人がやめてくれと叫びだした。その声を無視してジョージは目の前にいる2人の白人を見ている。
「ムカついているんだろ?この世界はやらなければやられる。そういうルールだよな?」
白人の2人組は地面に倒れ込んでる6人とジョージを交互に見ている。
「ここで放置しておいたら魔獣がやってきてこいつらを食い殺すかもしれない。でももし魔獣がやってこなくて、こいつらが生き残ったらどうなる?またやるぞ」
ジョージがそう言ったところで倒れ込んでる6人が口々にもうしない、しないから助けてくれよと叫んでる。それを聞いていたジョージが2人に顔を向けた。
「こいつらこう言ってるけど信じられるか?」
それには首を振る2人。ジョージは2人を見て言った。
「なら殺すしかないだろう?」
2人は身体を震わせていたが、1人が大声を出して訳の分からない言葉を叫びながら1人の胸に片方剣を突き刺した。それを見たもう1人も同じ様に叫びながら他の男の胸に剣を突き刺す。ジョージも1人の男の首筋をはねて絶命させた。2人は5人の男達を滅多刺しにしていた。
地面にはもう息をしていない6名の死体が転がっている。
「殺したのは初めてか?」
「ああ、あんたは違うのか」
「違う」
短く答えたジョージ。
「死体はどうするんだ?」
「放置しておいたらいいだろう。それこそ魔獣が掃除してくれる」
そう言って森の中を歩き出したジョージに白人の1人が声をかけた。振り返って2人を見る。
「あんた、2年目になったばかりの迷い人なのか?」
「そうだ。そっちもか?」
その言葉に頷く2人。
「なんでそんなに強いんだ?」
「腹を括ってるからさ。腹を括らないとゲートなんて見つからない。俺はそう信じている」
そう言うと今度は振り返ることもせずに森の中を歩いていった。
3時間ほどで森を抜けると草原があり、その先に大きな城壁が見えてきた。東の街だ。
東門から街の中に入ったジョージはすぐにこの街の雰囲気が西の街は違うと感じ取る。大きな街で活気がある様に見えるが、何かピリピリとした雰囲気がある。西の街もそうだったがここはそれ以上だ。
彼は通りに出ている複数の屋台からこの街で一番安全なホテルの名前と場所を聞いた。皆同じ場所を言い、それは西の街でギャツビーやレイモンドから聞いていたホテルと同じだった。
”サンライズホテル”という4階建のホテルに入ったジョージ、部屋が空いているのを確認すると現金で1ヶ月分を前払いして2階の部屋を押さえた。部屋に入ると広さは西の街のウエスタンホテルと同じかやや広く、部屋にはシャワーやトイレも完備されている。窓も頑丈で、ドアのロック、窓のロックがしっかりしていることを確認すると魔法袋の中から木彫りの女神像を取り出して机の上に置いた。
「この街にもゲートはないだろう。ここでも鍛錬と金策をして自分のスキルを上げるぞ」
女神像にそう言うと、像を魔法袋にもどした彼は部屋でシャワーを浴びると1階にあるレストランに顔をだした。
このホテルもウエスタンホテルと同様に客室は2階から4階までで、1階にあるレストランには宿泊客でないと入れない様になっている。
夕食には早い時間だと思ってレストランに入ると、ジョージの予想とは違ってそれなりにテーブルが埋まっている。見る限りでは皆迷い人だ。1人もいれば複数でテーブルに座っている人もいる。女性は大抵複数名でテーブルに座っていた。男女比は7:3位で男性が多い。ジョージが入った時からテーブルに座っている迷い人の視線が彼に注がれていたが、それを無視して空いているテーブルに座り、給仕が差し出したメニューの中から料理を選んでオーダーする。
オーダーをし終えたタイミングでジョージの近くに1人で座っていた30代のアジア系の迷い人が立ち上がるとジョージに近づいてきた。座ったまま顔をあげて近づいてくる男性を見る。
「見ない顔だな」
「西の街から今日着いたんだ」
「今年、いや2年目の迷い人か?」
「そう、ジョージ、ジャパニーズだよ。ソロで動いてる」
「俺はチャン、香港だ。6年目だよ」
ジョージとチャンとのやりとりはレストランの中に聞こえている。周りはおしゃべりをやめて2人のやり取りに耳を傾けている。新参者についての情報を得ようとしているのだろう。
「このホテルに泊まれるってことは金があるってことだ」
「1ヶ月分前払いしたよ」
「なるほど。今年の迷い人で金を持っている、ソロでここまでやって来た。やりそうだな」
「どうかな」
テーブルの椅子をすすめると悪いなと言ってジョージの向かいの椅子に腰掛けた。
「ここにいる連中は大抵顔見知りになる。初めて見る顔だったんでな、皆の代わりに俺が聞いている」
なるほど。そう言うことか。でもここにいる連中なら変なことにはならないだろう。そう思っているとチャンが俺を見て言った。
「来る途中でクズ共はいたか?」
クズがウロウロしているという前提で話をしてくる。つまり街の外には常にやばい奴らがいるということだ。
「いたな。この街で活動している俺と同じ今年の迷い人2人を追いかけていたよ」
「よかったら話をしてくれるか?」
聞かれたので事の成り行きを話する。3人で2人を追い立て、その先で別の3名が待ち伏せしていたところに自分が近づいて、待ち伏せしている3人を斬り、その後後から追いかけてきた3人を追われていた2人と一緒に殺したという話をする。
「6人やっつけたってことだ」
「俺だけじゃないけどな」
「そうは言ってもジョージ1人で6人の腹を裂いている。腕は良さそうだな。もっとも腕に自信がないと1人で西の街からここまで移動してこない」
そんな話をしているともう1人他のテーブルから白人がやってきた。
「俺はマッケイン、スコットランド出身の4年目、いや5年目になったところだ」
ジョージはもう一度自己紹介をした。
「西の街からやってきたのならギャツビーを知ってるか?」
「知ってる。彼は俺が西の町を出る少し前に、南の町に向かったよ」
言ってから気がついた。
「あんたはギャツビーと一緒に台地の上から東の街に向かったという3人のうちの1人かい?」
そう言うとその通りだという。もう1人は南の街に向かったと行っている。ギャツビーの話と同じだ。マッケインはこの街で日々洞窟を攻略しながらゲートを探しているそうだ。
「チャンと話をしているのを聞いたよ。1人で6人の相手をしたんだろ?相当できるな」
「殺らなければ殺される。そう思うと勝手に身体が動く様になったよ」
淡々と話をするジョージだがやりとりを聞いているチャンとマッケイン、そして他のテーブルに座りながら話を聞いていた他の迷い人達は、この若いジャパニーズが相当やるという認識になる。
「このホテルは安心だ。ただ外にあるレストランや飲み屋には気を付けろ。全てが安全な訳じゃない」
「西の街でもその話は聞いている。もっとも飲み歩く事はそう多くないと思うけどな」
ジョージが言うと2人がそれが普通だと大きく頷いていた。




