第30話
レイモンドやギャツビーからの情報では、東の街にある一番安全なホテルは当然ながら宿泊代も一番高い。部屋代が今泊まっているウエスタンホテルの2倍近くすると聞いたジョージは日々サイを倒して金策を続けながら、草原での野営も何度も経験していた。
一度、夜中に鈴が鳴って飛び起きると目の前にサイが自分を踏みつける直前だった。その場で寝たまま横に転がって逃げてから立ち上がってサイを倒したジョージ。それ以来ロープを長くし、直径20メートルにした。これで随分と楽になった。
草原での野営訓練もできた。金も溜まった。そろそろ東の街に移動しても良いタイミングだ。
「そうかい、あと2週間程で東の街に向かうんだね」
「この街での鍛錬と金策は大体できた。もちろん東の街でもゲートを探す間に魔獣を倒して金策は続けるけどね」
マーサの薬屋で話をしているジョージ。2人の間のテーブルの上には今ジョージが買ったポーションやその他の薬が入っている麻袋が置かれている。
「ゲート探しも簡単じゃないね」
「全くだよ」
ジョージがそう答えると、少しの沈黙のあと、マーサが彼を見て言った。
「ジョージ、あんた達迷い人がもう何十年も探しているのにも関わらず、ゲートが見つからないなんておかしな話だよ。そう思わないかい?」
彼女が感じている違和感はジョージも感じていることだ。
「それは俺も思っていた。聞いている話だと迷い人がこの世界に現れてから40数年経っているらしい。大抵の場所は探し尽くしているよな」
ジョージはそう言って続けた。
「いくらこの世界が広いと言ってもだ、もう何万という迷い人がこの世界を探し回っている。探しているのは小さな物じゃない。しかも埋もれてもいない。近づけば見つかると言われている。それでも見つからない」
その通りだよと言ったマーサ。
「何かカラクリがあるのかね」
「カラクリ?」
ジョージはマーサを見ながら繰り返して言った。その視線を受け止めている彼女が言った。
「そう、ゲートってのは人が潜れる、通れるんだろ?ということは小さくはない筈だよね。それなりの大きさがある筈なのにさ、大勢の迷い人が長い間あちこちを探していてまだ見つからないっておかしな話だよ。今までに誰かが見つけていてもおかしくない。それがいまだに見つかっていない。そう考えるとゲートを見つける前に何かをする必要があるとか、それをしたらゲートが現れるとか、そんなカラクリがあるんじゃないかって思ったんだよ」
「なるほど」
相槌を打ちながらジョージは目の前のマーサの話を聞いて彼女の考えにも一理あるなと納得する。確かに何かカラクリがあるのかもしれない。ゲートを見つけるその前に何かをする、あるいはゲートらしきものを見つけたとしても、それを活かせるために何かする。
ただ。何かをしてからゲートが現れるということは考えにくい。女神は確か、近づけば分かると言っていた。どこかにゲート、あるいはゲートらしき物がある。ただそこを潜り抜けるのではなく、その前に何かをする必要がある。それをする事で”死んでいる”ゲートが”生き返る”のかもしれない。
ただ今のところそのゲート、ゲートらしき物が見つかったという話は聞かない。ひょっとしたら見つかっているけど何もなかったので話題になっていなのか。そんな話は台地の上やここ西の街では聞いていない。おそらく東の街でも話題になっていないだろう。もちろんもっとずっと南にゲートがある可能性もある。
それにしてもゲート探しに関係のないマーサだが、良い分析をしている。
「今のマーサの話は俺にとって目から鱗だよ。カラクリというのを頭に入れておくよ」
「ふん、地元民の無責任な言葉だよ。違ってても責任は取らないよ」
「もちろんだよ。でも筋は通ってると思う。ゲートがまだ見つかっていないという理由としては納得できるよ。いずれにしても単純に探すだけじゃなくてカラクリというかサインを見つけながら動くよ」
ジョージは自分でサインと言う言葉を使った時に最初の街の”けむり”のマスターのスモーキーの言葉を思い出した。
ーーー
「今から考えたらあの時、あいつが言った言葉はひょっとしたらゲートの場所に関するヒントだったのかも知れないとな」
「考えてもみろ、神の代理がこの世界にあるゲートを探せと言ってる、その大陸は、自分が生きている間には全部調べることができない程の広さがある。最初からそんな無理な試練を言ってくるか?何か手掛かり、ヒントをこの大陸に残しているんじゃないか、それは住民の言葉かもしれない、あるいは街の外にある何かかもしれない。いずれにしてもそれくらいは配慮するだろうとな。それを解いていけば正解に辿り着ける。今思い起こせば、あの時のあいつの言葉。あの場所のあの建物、ひょっとしたらヒントだったのかと思ったんだよ」
ーーー
スモーキーもこんな風に誰かの発言を聞いていたのかもしれない。彼は後から考えてあれがヒントだったかも知れないと言っていたが、ジョージはマーサの話を聞いてすぐに可能性のある話だと感じた。
「まだ2週間ほどこの街にいるんだろ?たっぷりと薬を買っておくれよ」
ジョージが黙っているとマーサの方から声をかけてきた。それで我に帰ると彼女を見る。
「もちろん、もう少し世話になるよ」
また来るよと言って薬屋を出たジョージはそのままホテルに戻ると部屋の机の上に女神の木彫り像を置いてから自分はベッドに腰掛けると、さっきのマーサとのやりとりを思い出しながら考える。
まず、マーサが言っているのが正しいと仮定してみよう。
ゲートは見えるところにあるが何かをしない限り効果がない。何かをすることでそのゲートが【ゲート】になる。
数多くの迷い人がそれをすでに見つけているが、何も起こらなかったのでそれは女神が言っているゲートではないという理解をしている。ではそのゲートらしきものはどこにあるのか?
今自分がいるエリア、西の街、そして東の街、南の街、これらのエリアの中でもしゲートらしき物が見つかっていれば話題になっているはずだ。
「ゲートを見つけたと思って潜ってみたが何も起こらなかった」
こんな内容の話が迷い人の間で広まっているはずだ。ただジョージはこの噂を聞いたこともないし、ギャツビーやレイモンドからもそんな話を聞いていない。となるとこのエリア、西、東のエリアにはゲートらしき物がない。ないから話題にならない。
次にカラクリだ。カラクリがあるとすればそれは何だろう?これについては誰も知識を持っていない。噂にも聞かないので形の想像がつかない。ただおそらくだが、それを見つけたら何か動作をする様な作りになっているはずだ。ボタンを押すとか、何かを持ち上げるとか何かを押すとか。これらのものを見つけたらそれがカラクリの可能性がある。ただこれとて雲を掴む様な話だ。カラクリがある場所を探さないといけない。
次にマーサの言っていることが正しくないとしたら。
こっちは単純にゲートを探すというミッションになる。まだゲートが見つかっていないということから考えると、もっとずっと南に進んだエリアの中に未開拓の場所があるかもしれない。他の迷い人と同じくひたすらゲート探しの旅を続ける必要がある。この世界に来てからの話を整理すると、南の大砂漠の前の街まではたどり着いている迷い人がいる。そこから実際砂漠に挑戦した迷い人はいるのだろうか?スモーキーやトムソンは迷い人の気持ちをへし折る様な砂漠だと言っていた。
でもそれに挑戦した者がゲートを見つける事ができるのかもしれない。
ジョージはベッドに倒れ込んだ。これからの自分は鍛錬を続けながらもゲート、そしてカラクリを同時に探す必要がある。同時にやることにしよう。
「カラクリ、サインか」
天井を見たままジョージが呟いた。43年もの間多くの迷い人が何万人とこの世界にやってきてゲートを探しているが見つかっていない。それはゲートが【ゲート】になるカラクリを見つけてないからだと考えるとまだ見つかっていない理由が付く。やはりマーサの話の方が自分にはしっくりとくる。
彼はベッドから身体を起こすと机の上に置いてある木造の女神像に目を遣った。
「この女神像がそのカラクリがある場所に俺を導いてくれるのか?」
話かけても女神像は反応しない。
「ミーシャがくれたこの女神像には必ず意味があるはずだ。その時がくれば俺を正しい場所まで導いてくれるだろう。その時は頼むぞ」
それにしてもこのゲート探し、ジョージは最初に感じていた違和感が実際にこの世界で活動を始めるとますます大きくなっていることを実感していた。
女神は能力を授けると言っているが、そのために何十年もの間、多くの人をこの世界に送り込んできている。そしていまだにゲートを見つけた者はいない。
女神の本当の目的はゲートを探して能力を得る事ではないんじゃないかいう気がしている。何万人も挑戦して能力を授かった者がいないとはどういう事なんだろうか。よっぽどすごい能力を授かる事ができるのか?いや、それにしても成功者がゼロというのはありえない話だ。
しかもまだおかしな事がある。これだけの迷い人が毎日の様に魔獣を倒しているのに魔獣の数が減ったという話を聞かない。ゲームじゃないこの世界で魔獣はどこから湧いてきているんだ?
この世界はおかしい。
女神の本当の目的は何なのだろう? ゲートを探せと言って俺たちを煽ることで、本当の目的を隠している気がする。
ただそれにしたところで自分はゲートを探すしかないということもジョージは理解していた。




