第28話
西の山に行くには森を抜けて行く事になる。森の中で野営をし、森を抜けると目の前に山があるという話だ。仕掛けてくるとしたら森の中だろう。山に行く連中はそれなりに戦闘経験が豊富だ。森の虎を相手に鍛錬している迷い人が彼らのターゲットになるのではと考えるジョージ。自分自身はサイを相手に鍛錬しているがこれは稀だと自覚している。普通の装備だとソロはもちろん、2、3名でもサイを相手にするのは厳しい。
その日の朝、西門を出たジョージは特に急ぐ足取りでもなく、普通に草原を歩いて森を目指す。草原にはトカゲがいるが迷い人もそれなりにおり、彼らがトカゲを倒しているのでほとんど絡まれずに歩いていく。1万人近い迷い人がいると言われている。草原でサイを狩っている時には気にならなかったが西門から外に出ると迷い人が多いというのが実感できる。
ジョージは全方向に注意を払いながら歩いていた。今のところ気になる気配は感じない。
門を出て3時間程歩くと森の中に入った。高い木々が生えている森は薄暗く、木の葉が陽光を遮っているので直接陽の光が当たらないこともあり薄暗い。森の入り口付近では周囲に迷い人の姿がちらほらと見えるが彼らが真面目な迷い人か、そうでないのかは遠目には分からない。
歩いていると虎に出会うが片手剣を一閃して倒しては魔石を取り出し、リュックに入れるとまた奥に進み出す。どこで誰が見ているか話からないので魔法袋はリュックの中に入れており、魔石をリュックに入れる仕草をしながら実際はリュックの中にある魔法袋の中に収納していく。おかげで何体魔獣を倒そうが魔石でリュックが重くなることがない。
奥に進んで行くと迷い人の数が減ってきた。周囲を警戒しながらもゆっくりと森の中を歩くジョージ。日が暮れ始めるとさらに視界が悪くなる。来るのならそろそろだ。
しばらく歩いていると背後に複数の人の気配を感じた。振り返ると3人組だ。3人とも目つきが悪い。スモーキーらから聞いていたやばい国系の人相ににている。ジョージが3人を見ていると近づいてきた1人が声をかけてきた。
「よう、調子はどうだい?」
表情はニコニコしている。背後の2人も微笑んでいるが周囲を警戒しているのだろう。視線が左右に動いている。
「ぼちぼちだよ」
「1人でやってるのかい?」
「そう。俺はずっとソロでやってる。そっちは3人組かい?」
「チームを組んでるんだよ。楽だぜ。どうだい?一緒にやらないか?」
「遠慮しておくよ。1人が気楽でいいんでね」
「そうかい。それでゲートを探しにこれから山に向かうところかい?」
「ああ、ただ1日で森は抜けられないって聞いた。だがら今日はこの森で野営するつもりだよ」
「その通りだ。それで野営ならいい場所知ってるぜ。教えてやるよ」
こちらから誘いをかけてみると案の定乗ってきた。間違いない、こいつら盗人だ。普通は安全な野営場所を他人に教えるなんて考えられない。カモが自分からやってきたと思っているだろう。
「そりゃ悪いな。いいのかい?」
「もちろん。こっちだ」
彼らは山に向かって右側、北の方に進んでいく。最初に声をかけてきた男とジョージが並んで歩き、その後ろに2人が並んでいる。
歩きながら男がジョンという名前で南ア出身で3年目だと言った。全てが嘘だろうがジョージは話を合わせる。
「俺はジョージ、日本人で今年この世界に来た新人だよ」
途中で虎を見つけたが、後ろの2人が任せておけと言って2人で虎を倒しているのを見る。剣捌きや身体の使い方を見ていると2人で虎を倒し、魔石を取り出して戻ってきた。ただ彼らが剣を鞘に戻していないのをジョージは見ていた。
あの剣捌きなら脅威にはならない。
「もう直ぐだ」
それが合図だったのだろう、後ろの2人の足音が早くなった。その瞬間ジョージは真横に飛んだ。襲ってきた男の剣が空を切った。
「死ねや!」
横に飛んだジョージは直ぐに起き上がると左に飛びながら剣を真横に振った。1人の男の腹が大きく裂かれて血飛沫が飛ぶ。腹を切られた男はその場に倒れて大声を出している。1人減った。
「てめぇ」
もう1人が切り掛かってきた。それを躱して剣を振るうと最初の男と同じ様に脇腹から血飛沫が飛び散らせながら地面に倒れ込んだ。
「殺してやる」
ジョンと言った男が剣を構えて近づいてきた。前の2人の様に勢いをつけて切りかかってこない。
「殺せるのなら殺してみろよ」
ジョージがあっという間に2人を倒したので慎重になっているのか、一定の距離を持ったままだ。地面の2人は腹を押さえながら呻き声を出していた。
「そっちが来ないのなら俺からいくぞ」
ジョージが言うと舐められたと思ったのか、男が切り掛かってきた。その剣を剣で受け止めた次の瞬間、ジョージが剣を横に払って腹を切り裂いた。
「ぎぇぇぇ、痛てぇぇ」
大きな声をあげて地面に倒れ込んだジョンという男。そのそばには先に切られた2人も地面に倒れている。
「今までそうやって不意打ちで人を殺しては金銭を奪ってきたのだろう。切られた迷い人の痛みが分かったかい?」
最初の2人はもう呻き声も出していない。荒い息を吐いている。何もせず、放っておいても死ぬだろう。
「てめぇ、本当に今年の新人かよ」
呻き声を出しているジョンが言った。
「ああ、それは嘘じゃない」
「な、なんでこんなに強いんだよ。なんでだよ」
男達の叫び声が聞こえたのか、森の中から虎が2体現れた。ジョージの視線の先を見ていたジョンという男が悲鳴を上げた。2体の虎はジョージよりも倒れている3人の方が弱いと判断したのだろう。ジョージの方には顔をむけてこない。
「た、助けてくれよ。金は全部やる。だから助けてくれ」
虎が近づいてくるのをみたジョンが腹を押さえながらジョージに懇願してきた。彼はその言葉を無視して一言だけ言った。
「自業自得だろう。それとだ、ジャパニーズを舐めるなよ」
虎は倒れている3人をターゲットにしている。ジョージがゆっくりとその場から離れていく。
「助けてくれよぉ」
3人の泣き叫ぶ声がし、直ぐに3人の大きな悲鳴が聞こえてきた。しばらくすると声がしなくなった。
その時ジョージは森の中にある木の枝を登っていた。
太い木の枝に座ると、その時になって身体が震えてきた。初めて人を殺した。ただ殺らなければ殺されていた。
3つ目の街でトムソンが言った言葉を思い出した。「腹を括れ」と。腹を括ったからあの3人を倒せたのだろ。そうでないと剣を振ることを躊躇っていたかもしれない。そしてその一瞬の躊躇いが自分の命を落とすことになっていたのは間違いない。
しばらくしてようやく身体の震えが止まった。
自分は初めて人を殺した。日本に住んでいた時には考えられない事だ。ただここは日本じゃない、地球じゃない。以前の常識、道徳感をそのまま持ち込んでいればたちまち命を落とすだろう。気持ちの折り合いをつけるのは簡単ではないが、折り合いをつけなければここで何も出来ない。
木の枝の上に座っているジョージ。しばらくすると顔を空に向けてつぶやいた。
「殺らなければ殺られる。ここは弱肉強食の世界だ」
翌日、木から降りると森の中で虎を倒しながら西に進んでいくこと4時間、ジョージは森を抜けた。その先には小さな草原があり、その奥に山が連なっていた。山は緩やかな斜面になっているので登ろうと思えばどこからでも登ることができそうだ。
山の斜面、木々の間から数名の迷い人の姿が見える。彼らはこの草原で野営をしたのかもしれない。本格的に山の中を探索するのなら長期で山籠りをする前提で準備をしてきているだろう。見る限りチームを組んでいる様だ。ここからだと1人で動いている迷い人の姿は見えない。
草原を歩いていたジョージは途中から右前方に歩く方向を変え、そこから山を登り始めた。山と言っても緩やかな斜面で日本でいうところのハイキングよりも少し難易度が高い程度だ。本格的な登山ではない。
木々が多く生えているので視界は悪い上に土が盛り上がっている場所や、岩がある。確かにゲートを探すとすれば時間がかかるだろう。小さな鳥居だとしたら近づかないと見つけられない。
山の中にも魔獣がいる。森の虎よりも一回り大きな虎が時々襲ってくるが、それらを倒しては魔石を取り出していく。草原のサイに比べれば図体はデカくても虎は倒しやすい。
ジョージはこのエリアにはゲートは無いと思っているがこうして山の中を歩いているとひょっとしてあの岩の裏側にあるんじゃないか、あの土が盛り上がっている背後にあるんじゃないか。と思ってしまう。形も大きさも分からないゲートを探すということは自分が想像していた以上に大変な作業だ。これがこれから死ぬまで続くとなると、気持ちがへし折られるというのも分かる気がする。




