第27話
「ゴメスにそう言われた俺はしばらくは街の外とホテルの往復を繰り返しながら少しずつ東の街の情報を集めていったんだ」
「ラッキーだったんだな」
ジョージが言うとその通りだと言ってグラスを空にする。すぐにミヤビが追加のウイスキーを注いだ。
「あの時そのまま夜の街に出ていたらどうなっていたか。普通の飲み屋に入っていれば問題なかっただろう。ただ万が一追い剥ぎの連中の飲み屋に入っていたら生きてはいなかっただろうな」
隣の男はそうやって生き延びられた。ただ、そうでない奴らも多くいるはずだ。
「数ヶ月経って街の事情が分かってくると東の街の様子も分かってきた。この西の街は20軒ほどの飲み屋があると言われているが東の街は30軒ほどある、そのうち最低でも10軒はやばい飲み屋だ」
「ワルの溜まり場だったり、マスターがワルの一味だったりということか?」
ジョージが言うとその通りだとレイモンドが言った。この街でもそれに近い店はあるが3、4軒程だという。それらの店も、店の中で追い剥ぎ、人殺しまではしない。
リンがこの店を俺に紹介してくれた真意、意図はこの店のミヤビというママだけじゃなくてこの店を通して、ここに来る客も紹介したかったのかも知れない。
「ジョージは1人で草原のサイを倒しているそうだな」
ジョージは顔を上げて何で知っているんだという表情になる。
「ギャツビーから聞いたんだよ」
ウエスタンホテルで俺に話かけてきた4年目の迷い人だ。レイモンドが1つ上になる。
「ソロでサイを手際よく倒してる若いのがいるってな。さっきも言ってたな、しっかり鍛錬をしてから台地を降りてきたと。それを聞いて納得した、それが正解だよ」
ギャツビーとは夜のレストランで会うと情報交換をする間柄らしい。他にもソロで活動している連中とは会うと差し障りのない範囲で情報を交換するそうだ。
「ウエスタンホテルに泊まっている連中はこの世界に来てから5、6年以内の連中がほとんどだ。西の山を探索し、そこから東に行く奴もいれば南に行く奴もいる」
「あんたは南に行く口だな」
ジョージの言葉にそうだと答えたレイモンド。この西の街で探索と金策を並行してやっているが、後1、2ヶ月で南に移動する予定だと言った。
「ジョージは東の街に行くのだろう?」
そうだと言ってジョージが言葉を続ける。
「あんたと一緒だ。まずはこの街で鍛錬と金策をし、西の山を探る。それが終わってから東に移動する予定だ。当分はこの街にいるよ」
ミヤビは2人のやりとりを黙って聞いていた。レイモンドがしっかりしているのは分かる。彼はこの世界に5年いて事情をよく知っているからだ。ただ今年来たばかりのジョージがここまでしっかりと計画性を持って動いている事に驚いていた。
無茶をする、無鉄砲なタイプには見えないし、臆病にも見えない。1年目だというのに妙に落ち着いている。自分の力量に相当自信がないとこの態度はできない。昼間外で魔獣を相手に金策をしていると多くの迷い人を見るが、今年来た新人の迷い人は雰囲気が違うのですぐにわかる。数名でワイワイ言いながら森の方に進んでいくのは100%今年の迷い人だ。ソロで動いている迷い人もよく見れば周りから浮いている。
1年も経つとこの世界に馴染むんで言動が落ち着いてくるが、1年目の迷い人は悪く言うと気持ちが上ついていて、側から見るとそれが分かる。悪落ちした元迷い人の連中はその雰囲気を見てカモだと判断する。
ただこのジョージという男性は雰囲気から全く新人に見えない。何度も苦境を乗り越えてきた様な落ち着きがある。
「ジョージは西の山にゲートがあると思っているの?」
ミヤビが聞いてきた。
「どうかな。今まで何十年もの間、多くの迷い人が山に入っているはずだ、それでも見つかっていない。無いと考えるのが普通だけどそれでも一度は山に入って様子を見ないと何とも言えない」
「自分の目で見て判断するんだな」
横からレイモンドが言った。彼はミヤビに向けていた顔を彼に向ける。
「その通り。もちろん情報や噂を聞いたり手にいれるのは大事だと思う。ただ最後は自分の目と耳、そして自分の判断だと思ってる。なのでいずれにしても1度は行ってみるつもりだよ」
そう言ったジョージは椅子から立ち上がった。レイモンドはもう少し飲んでからホテルに帰るという。
「またお邪魔してもいいかな?」
「もちろん、贔屓にしてね」
どうやら嫌われなかった様だ。
西の街に来て”ホアリエン”と”ミヤビ”という2軒の飲み屋、それにマーサの薬屋、3軒の行きつけができた。とりあえずはこれくらいでいいだろう。あとはウエスタンホテルにいる連中からも何か話が聞けるかもしれない。焦ることはないと自分に言い聞かせる。
ジョージが事前に想像していた以上にタフな西の街だが、ここで躓いている様だと東の街や南の街に行ったところで苦労するだけだ。環境に慣れ、そして克服するだけだ。
数名のチームで活動をするのであれば、また違った動き方になるだろうがジョージにチームを組む気はない。装備面は人よりも優れているがそれを過信しすぎて無理や無茶をするのは愚の骨頂だろう。
初めてミヤビに顔を出してから1週間、彼は西の草原でサイを相手に鍛錬と金策を続ける。最初にサイを相手にしたときよりもずっと短い時間で倒す言葉できる様になった。相手に先手を譲っても安全に倒せると確信した彼は次のステップに移行した。
ジョージは草原で野営をすることにした。これも鍛錬の一つだ。森の中であれば木の太い枝の上という比較的安全な場所がある。草原ではそうはいかない。自分で場所を探し、どうやって夜を過ごすかを考える。1日程度なら眠らなくても大丈夫だろう、ただ数日続くと集中力が切れ、事故つまり敵にやられる確率が高くなる。
その場に応じた判断が求められる草原での野営に慣れておく必要がある、彼は実際に野営する前に、ホテルの部屋でどう言う方法があるのか頭の中でシミュレーションをする。
西の街から東の街への移動は山裾に沿って移動することで山裾に隠れる様にして夜を過ごすことができるだろう。ただ、南の街に移動するとなると広大な草原の中での野営は避けることができない。
チームで活動、移動していればテントを張り、交代で見張りをすることで夜を過ごせるがジョージはソロだ。他にソロで動いている迷い人もいるが、彼らが教えてくれるとは思わないし、聞こうとも思わない。それが彼らのノウハウだからだ。自分で見つけたノウハウを人に、それもライバルに教える訳がない。自分で探すしかないし自分のやり方を人に教えるつもりもない。
テントをダミーにしてその近くに穴を掘ったらどうか。
いやその場合でもからなずテントに攻撃してくるという確証はない。
草原に寝そべって少しでも姿を隠すのはどうか。
姿は隠れるが、それで眠れるのか。
色々と考えて一つの方法を思いついたジョージ。次の日、街の中でアイテムを購入し、部屋で作業をする。準備が整うと西の街の南門から外に出た彼は草原で出会うサイを倒しながら南に進んでいく。日が暮れる前の夕刻になるとその付近で野営に適した場所を探す。
当然魔獣がいないエリアになるが、一晩中そのエリアに魔獣が来ないという保証は何もない。魔獣以外に盗賊が来るかもしれない。できるだけ周囲から見つかりにくい場所、起伏の陰を探し、ここにしようと決めるとリュックからロープを取り出した。ロープは30メートル程の長さがあり、等間隔に長さが30センチほどの棒がロープに固定されている。
ジョージは草原の上にロープで丸い円を作ると棒を地面に突き刺した。高さ30センチ弱のロープの柵が出来上がった。今度はその柵、ロープにいくつか鈴をつける。
これでもし何かが近づいて来ればソープを引っ掛けて鈴がなる。自分から5メートルほどの距離で鈴が鳴れば最初の一撃は避けられるのではないか。勢いをつけて突撃されるとこの距離では意味がないだろうが、魔獣は真夜中に突撃はしてこないだろう。そして万が一草原エリアに悪堕ちした盗賊がいたとしても、彼らは忍足でやってくるはずだ。
これが厳しいのであればロープを繋いで長くすればいい。魔法袋の中にロープを収納するので長くなっても問題ない。これでやってみて不具合があれば改良すればいいだろう。少なくとも何もせずに草原で横になるよりはマシな気がする。
ジョージは草原で1泊した。結果的に何もなかったのでこれが効果があるのかどうかはわからない。ただ他のアイデアが浮かばない中、とりあえず草原ではこれで夜を過ごす事に決める。割り切りも必要だ。
草原での野営についてはとりあえず解決策というか対処方法を見つけた。次は西の山だ。
「調子はどうだい?」
「明日から西の山に行ってくるよ」
「いよいよこの街でゲート探しを始めるんだね」
ポーションを補充するためにマーサの薬屋に顔を出したジョージ。この店は西の街についてから3日と空けずに顔を出して薬品を買い、そのついでにマーサと色んな話をしている。麻袋にポーションの瓶を詰めたマーサがその袋をジョージに渡すと言った。
「ジョージは西の山にゲートがあると思っているのかい?」
「正直その確率は非常に低いと思ってる。でも一度は自分の目で見ておかないとな」
一度見ておきたいと言うのは本当だ。ただ、マーサには言っていないが西の森から山に行くと悪落ちした連中に会うかもしれない。草原よりはずっと会う確率が高くいなるだろう。いつまでも彼らから避けている訳にはいかないのは分かっている。それにいつまでも避けられるとも思えない。
経験するのなら早い方がいい。ジョージはそう考えていた。
そう、人殺しの経験だ。




