第25話
西の街には4つ門があり、ジョージはそれぞれの門から外に出て魔獣の生息状況をチェックしながら魔獣を倒しては魔石を取り出していた。
東門は歩いてきた道で、虎がメイン。南門は草原でサイがメイン。北門は草原から森、その先は崖になっていてトカゲと虎がメインだ。
そして西門は草原にトカゲがおり、その先には広大な森が広がっている。そこに生息しているのは街に近い方が虎で、奥に行くとその虎のサイズが大きくなっていた。森の先には山が見えているがそこまではまだ探索していない。
4つの門から外に出て、フィールドで活動している迷い人を見ていると、南門の草原で活動をしている迷い人の数は少ない。これはサイを相手にするのでリスクがあるからだろう。一番迷い人が多いのは西門を出たところだった。ここには結構な数の迷い人がいてトカゲや虎を相手にしている。
元迷い人の悪落ちした連中がいるとしたら西門の先の森の奥か北門の先の森だろう。襲う側から見ても虎なら複数人で倒せない敵ではない。逆に南門はサイを相手にするのと、草原で周囲がよく見えることからここで人を殺すことはやらないんじゃないかと判断する。
1週間が過ぎると西の街をほぼ理解することができた。今までの台地の上の街と違いここは20代から40代まで様々な迷い人がいる。街を歩いていると人相が悪いというかじっとこちらを見つめてくる複数で歩いている迷い人も多い。彼らの全てが悪落した迷い人とは思わないが、この視線は台地の上では感じなかったものだ。
「お互いがお互いを監視しているというか、どんな人だろうと探りを入れているかもね」
夜の遅い時間に”ホアリエン”に顔を出した時にリンが言った。西の街に限らず台地を降りたところにある街では迷い人同士がライバルとなり、どうしても視線が強くなるのだという。カウンターに他の客はいない。
「もちろんこの街にいる迷い人の全部が全部そんな人ばかりじゃないわよ。でもそう言う人がいるのは事実。それよりもウエスタンホテルはどう?あそこは高いでしょう?」
「高いがあのホテルは本当に安心できる。マーサのアドバイスもあって食事をホテルの中のレストランでとることが多いよ。あそこは宿泊者以外はフロントしか行けない造りになっているからね」
ジョージが言うとホテルの従業員の数も多いでしょう?と聞いてきた。他のホテルは知らないが、そう言われてみると多いのかもしれない。
「従業員の中に元迷い人がいるのよ。彼らを雇うことで同業者の目で客をチェックしているのよ。もちろん腕が立つというのもあるわね。ホテルから見たら一石二鳥なのよ」
「なるほど」
ジョージは感心した声を出した。確かに元迷い人を従業員として雇い入れするのはありだ。そう言われてみれば体格の良い従業員がいた気もする。よく注意して見ていなかったが彼らが元迷い人なのだろう。
「先の街に行ったら元迷い人がやってるホテルもあるって話よ」
「それって南の街のこと」
そう言うと首を振ってもっと先の街だという。彼女はその街まで行けていないので聞いた話だけどという注釈をつけていた。元迷い人がホテルを経営するとなると相当の貯金がないと無理だろう。ただ、逆に言えばそこまで貯めたらできるということか。
ジョージは迷い人のままで人生を終えたいと思っている。もちろん、最初この世界に来た時は皆んなが皆んな迷い人としてゲートを探す気持ちでいる。それが年が経つごとに考え方が変わってくる。諦め、失望、絶望、そして最後に迷い人であることを放棄する。
自分の10年後、20年後なんて今は想像もつかないが、それでも可能な限り迷い人を続ける、そのためには強い意思が必要であると再度自分に言い聞かせた。
「今はどこで何を倒しているの?」
「南門から出た草原でサイを相手にしている。東西南北の門から出て一通り戦闘をしてみたけど南門が一番安全じゃないかと思ってるんだ。サイは強いからライバルが少ない。それと草原で見通しが良いので悪い奴らも手を出しにくい」
ジョージの話を聞いているリンは内心でびっくりしていた。今年やってきた迷い人、それもこの街に来て1ヶ月も経っていないのにソロでサイを倒しまくっているという。普通ならまず無理だ。よっぽど慣れていないとソロじゃ倒せない。チームを組んでやっと倒せるのがサイの魔獣だ。彼はソロにこだわっているが、ソロでやっていける実力も十分にあるということになる。
この男は今までの迷い人とは全然違うわね。カウンターに置いてあるビールを静かに飲んでいる若い男を見ながらリンはそう感じていた。
「この街では他の飲み屋さんには顔を出しているの?」
「いや、マーサに教えてもらったのがここだけだったんでね。リンもやばい店があるって言っているし、この街で余計なリスクは取りたくないので他には顔をだしていない。目立たないのが一番いいのかなと思ってる」
その言葉に頷くリン。
「確かにそうね。動き回るといろんな人の目に触れる。情報を得られるというメリットはあるかも知れないけど、それと同じくらいにデメリットもあるわ」
この街にやってきてから気づいた事だが、皆情報と言っているが、ジョージはこの西の街の周辺にはゲートがある可能性は低いと思っている。このエリアは過去から多くの人が探しているはずだ。あればとうに見つかっていてもおかしくない。
このエリアにいる年配の迷い人はこの街から先に行くことをギブアップした人が多いのではないか。彼らが有益な情報を持っているとは思えない。東、南の街も似た様な状況かもしれない。もちろんこれは彼の感覚だ。なので誰にも言っていない。
台地の上にいる時は、皆が台地の下に降りてからが本番だと言っていた。自分も来るまではそう思っていた。ただ実際に来てみると本番はこのエリアじゃないという気がしてきていた。この3つの街で鍛錬をし、そこからさらに南に進む、それからが本番だろう。ここはまだ準備をする場所だ。ここで躓いている様はゲートを探すなんてできない。
「貴方と同じ日本人の元迷い人がやってるお店があるわよ。一度行ってみたら?」
そう言ったリンがコースターの上に走り書きをして渡してきた。それを手に取る。
「まだお店を初めて2年くらいかな?看板は出していないのよ。お客は私の様な飲み屋のママやマスターの紹介だけ。客を選んでいるというよりも、素性の分からないお客さんを入れたくないからそうしていると言った方がいいかしら」
「それでやっていけるのか?」
そう言うと黙ってニヤニヤとしている。
「行って直接聞いてみたら?」
何か裏がありそうだ。コースターには走り書きと簡単な地図が書かれていた。
ー 私の店に来ている日本人のジョージ。信用できる迷い人よ。リン ー
「信用してもらったみたいだな」
「マーサが紹介してきた時点で信用している。その後何度か会って間違いないと確信したの」
客の素性をできるだけ早く掴むのも飲み屋をやっていく上で必要なノウハウなのだという。仮面をかぶっている迷い人、客がいることもある。表面を繕っていてもちょっとした仕草で本性が露わになるそうだ。
「私も何度かジョージをテストしたの。でも貴方は大丈夫だった」
「全然気が付かなかったよ」
「そりゃそうよ。気がついたらテストにならないじゃない。安心して、合格よ」
「ありがとう。じゃあ明日にでも行ってみるよ」
座っていた椅子から立ち上がるジョージ。
「ちょっと待って」
そう言ったリンがドアをノックする仕方を彼に教えた。
「今の叩き方以外だとドアは中から開かないわよ」
「なるほど。普段は鍵をかけているのだな」
礼を言って店を出た彼は夜の通りをウエスタンホテルに向かって歩いていた。街の中は夜中でも灯りが点灯しているので暗いとは感じない。ただ時間は真夜中だ。路地に隠れている奴がいるかもしれない。ジョージはゆっくりと左右を警戒しながら飲み屋街を歩いた。そこを抜けると大通りになりホテルまですぐだ。
結局何もなく無事にホテルに戻ることができた。
部屋に入ると浴室やトイレ、クローゼットの中を確認する。安全だと言われていてもそれを100%信用することはできない。彼は部屋の外に出る時は部屋の中の全ての扉を開けたままにしている。
今日も問題はなかった。
ようやくジョージは緊張を解いた。




