第14話 3つ目の街
2番目の街でしっかりと鍛錬を重ねたこともあり道中の魔獣はジョージにとって苦労する相手ではなくなっていた。森の中を移動するので夜は木の枝の上で過ごし、昼間は2体の熊や虎を相手にしながらひたすらに南に進んでいく。
戦闘の技量、スキルが上がったこともあるのだろう、2番目の街を出てから25日程で次の街、3番目の街の城壁が見えてきた。
街に入ると先ずは宿を押さえる。ここでも比較的料金が高い上クラスの宿を長期で押さえることができた。その足で換金屋を目指して市内を歩く。この街には迷い人の格好をしている人が多い。ジャスミンやゲイリー、そしてスモーキーからもこの街までは安全だと聞いているがそれでもジョージはガードを下げない。
時間が午後の早い時間だったこともあるのか換金屋は空いていた。道中で倒して手に入れた魔石を換金すると金貨で10枚以上になった。効率よく倒すことで収入が増えている。
聞いている”ケープ”は飲み屋だから夜にならないと開かないだろう。ただその前に情報を集めたい。市内を歩いておおよその地理と街の広さを確認する。この街は2番目の街よりも広い。多くの通りが碁盤の目の様に走っている。街が大きいということは人が多いということだ。善人も多くいるだろうが、そうでない人も多いのかもしれない。
市内を南門に向かって歩いていき、南門から外に出た。数分歩くとそこは台地の南の端でそこからさらに南の景色が一望できる。その景色を見たジョージは彼から聞いていた言葉を理解する。
高い場所から遠くを見ると広大な土地が南側に広がっている。左右を見てもどちら側もはるか彼方に高い山が霞んで見えている。そして南側は草原と広大な森、さらにその先には山が聳えている。南の街に行くには大陸を東西に伸びている山々を越えていく必要がある。もちろん山の中のどこかにゲートがある可能性もあるので素通りではなく、調べる必要があるだろう。
ここから見えている範囲をくまなく探すだけでも数年単位での探索になるだろうということは用意に想像できた。
「こりゃ凄いな」
思わず声を出したジョージ。
「だろう?最初に見たやつは例外なく凄いって言うんだよ」
声がする方に顔を向けると2番目の街で会ったテキサス出身の黒人のアイクだ。手を上げながら近づいてきた。
「おお、アイク」
「よう、兄弟。今着いたのかい?」
軽くハグをするとアイクが言った。南門を出ていくジョージを見つけて後を追いかけてきたらしい。
「そう。そっちは逆にまだいたのかよ?」
「ああ、もう直ぐ移動するんだけどな」
「どっちに行くんだ?」
2人の目の前には広大な大地が広がっている。アイクは右に手を伸ばした。西の方向だ。
「街の中で色々聞いたんだよ。どうやら西が一番治安がマシらしいんでな。皆言ってるぞ、東は辞めとけって。南も安全だが道中が一番きついそうだ」
「ソロでやってるんだろう?」
「おうよ。ジョージと一緒だ。ソロだぜ」
「俺は着いたばかりだ、情報を集めて次に進む方向を決めるよ」
「焦ってやばい事になるくらいならその方が安全だ」
そう言ったアイク。周囲を見て誰もいないのを確認するとジョージに近づくと小声で言った。
「この台地の下の街については聞いているかい?」
「ざっくりとな」
「OKだ。さっきも言ったが下に降りると治安が悪くなる。俺たちは今年やって来たが去年や一昨年にこの世界に来た連中の中ですでに悪落ちしてる奴らがいる。そいつらは自分たちの年齢に近い連中に近づいては金を盗んだりしているらしい」
アイクによると3、4名でやってきて俺たちも今年やって来たばかりだ。お仲間同士魔獣を倒して一緒に稼がないかと持ちかけてきて、街の外の人気のないエリアに行くとそいつを殺してから身ぐるみ剥ぐそうだ。付近には魔獣がいて放置しても死体が残らない。
「1つ教えてやろう」
「何だい?」
「俺たちと似た様な連中が声をかけてきて、同期だから一緒にやろうぜって声をかけられたらな、最初の空間で何人天に召されたか教えてくれって聞くんだ」
なるほどとジョージはその発想に感心する。
「天に召される人数は年によって違う。俺たちの時は600名だっただろう?これって少ないんだ。大体700とか800だそうだ。つまりそいつらが600以外の数字を言ったら同期じゃないってことになる」
これは俺が見つけた確認方法だから下に降りても使えるぞとアイクが言った。それを使うかどうかは別にして、ジョージも自分を守る方法を何か考えないといけない。
アイクはあと1週間ほどはこの街にいるという。またなと別れたジョージはもう一度台地の上から広大な土地を見る。視線を遠くから戻してくると南の街の東側の斜面にスロープがあるのが見えた。おそらくあれを使って降りたり登ってきたりするのだろう。ちょうどスロープを降りていっている迷い人達がいる。それを見る限り道幅は結構ありそうだ。彼らがスロープを降りるまで見ていたジョージはその場から離れてて市内に戻っていった。
3番目の街にも薬屋がある。ただ値段はポーションだけが銅貨4枚で売られている。他の薬はミーシャの店と同じだ。需要が多いからだろう。とりあえずポーションの小瓶を3つ買った。店にいるのは若い女性だ。アルバイトをしているのだと言っている。
「店主はいないのかな?」
「今は奥の工房で薬を作ってます」
「なるほど、ありがとう」
市内を歩いていると武器屋を見つけた。売っている武器は同じ。
片手剣、片手斧、短剣(攻撃力+20) 銀貨15枚。
次に防具屋を覗いた。
攻撃用セット(攻撃力+8) 銀貨15枚
回避用セット(素早さ+8) 銀貨15枚
もちろんジョージは買うつもりはない。性能をチェックすると再び市内を歩いた。大通りから中に入った通りに”ケープ”という看板を見つけた。これがトムソンという人がやっている飲み屋だろう。昼間なのでドアに”CLOSED”の札がかけられている。
初日はこんなもんだろうとジョージは街の中を一回りしてから宿に戻った。部屋に戻ると女神の木彫り像を取り出して机の上に置いて両手を合わせて無事に街に着いた報告をする。彼は神を信じたことがなかったが、ミーシャからこの木彫り像を貰ってからは安全な場所では日に一度拝むことにしていた。
翌日、ジョージは外に出て魔獣を倒す。この台地の上のエリアの魔獣については全く問題なく倒せる様になっていた。虎も熊も2体までは大丈夫だ。街の近くはトカゲやウサギと言った単価の安い魔獣なので、彼はそこから離れた場所を狩場にしている。そのせいかほとんど人を見かけない。
1日で虎と熊の魔石を17個、トカゲの魔石を5個手に入れた。銀貨9枚と銅貨5枚だ。換金が終わると市内の公園の一角にある屋台が並んでいるエリアに向かい、そこで銅貨1枚で串焼きを2本買った。この店の串焼きは2つ目の街のよりも美味い。ただ1個鉄貨5枚と値上がりしていた。
串焼きを手に取るとそのまま公園の中にあるベンチに腰掛けて食べながら行き来する人たちを見る。住民が多いが、それとは別にそれなりの数の迷い人も歩いている。彼らも夕刻になって街の外から戻ってきたところなのだろうか。1人で歩いている奴もいるが、それ以上に数名で組んで歩いている人たちの方が多い。チームを組んで活動している連中だろう。
数日が過ぎるとこの街のおおよその様子を掴んだジョージ。ゲイリーとジャスミンからは”ケープ”という元迷い人がやっている飲み屋を紹介されたが、それ以外にも元迷い人がやっているバーがあることが分かった。
この日ジョージは”ケープ”に顔を出した。扉を開けると予想通りカウンターだけのバーになっている。店の造りは”バラ”と似ている。いや、ゲイリーがこの店を模倣したのかもしれない。10席ほどある席は4つ程埋まっていた。女性が2人、男性が2人。皆迷い人だ。
「いらっしゃい」
カウンターの中にいる初老の黒人が声をかけてきた。彼がトムソンだろう。ジョージは4人から一番離れたカウンターの隅の椅子に腰掛ける。
「ビールはいくら?」
「銅貨1枚」
言われたので1枚カウンターに置くと、グラスに入っているビールを持ってきた。値段は前の街と同じだが量が少ない様に感じる。一口飲んだタイミングで黒人のマスターが話かけてきた。
「初めて見る顔だな」
「3日前にこの街に着いたんだよ」
「3日前?えらくゆっくりこの街に来たんだな。それまで何をしていた?」
「その前に俺はジョージ、ジャパニーズだ。何をしていたって聞かれても、最初の街と次の街で金策をしながら戦闘に慣れていたとしか言えない」
「なるほど。俺はトムソン。元迷い人だ。出身は南アのケープタウンだ」
「それで店の名前がケープなんだな」
「その通りだ。迷い人ををやめて、この店を始めてから30年近くになる」
「古株だな」
カウンターに座っている4人はどうやら顔見知りの様だ。チームかもしれない。自分たちの世界に入って会話をしている。それもあるのかマスターのトムソンはカウンター越しにジョージの前に立っている。
「2番目の街で俺の店の事を誰かに聞いたのか?」
「”ローズ”のマスターをやってるゲイリー、”ケット・シー”のジャスミン。2人から聞いた」
ジョージの言葉を聞いて小さく頷くトムソン。表情が緩んだ。
「彼らは元気かい?」
「元気にしている。この店に入って気がついたよ。ゲイリーはこの店を参考にして”ローズ”を作ったってな」
ジョージが言うとなるほどと声をたててトムソンが笑った。
「奴はゲートを探すのを諦めて2つ目の街で飲み屋をやるって言ってな。帰る途中にこの街に来た時にいろいろ俺に聞いてきたんだよ」
「それで納得したよ」




