挨拶回りに出かけよう
「女神様? には異世界人って認定されてるみたいだけど、俺はこの世界で生まれて育ってるんだよね」
「へ?」
ラツハが何を言っているんだコイツ? という表情を見せる。
「両親が異世界のニホンって国で生まれて、こっちに転移してきた異世界人なだけで、俺は厳密には異世界人じゃないんだよなあ」
「あー、だから昨日女神様に確認してたんだ?」
「そう。まあ、この話を聞いた時にも確認はしたんだけど、本当に問題ないのか気になって」
「キーリは異世界人とは何か違うの?」
「俺は転移してきてないから、『祝福』を持ってないんだよね。さらに、両親の生まれた世界には魔法や魔力は存在しないらしくて、俺は魔力も持ってない」
この世界にはありふれた、魔法や魔力を持たず、異世界人の特権である『祝福』も持たない人間。それが俺である。
「だから、俺の『祝福』に何か期待しているようなら申し訳ないけど、何も持ってないとしか言えなくて」
「なるほどね。
私は女神様の託宣に従っただけで、キーリに特別な何かをしてもらおうとか思ってないかな」
何も期待されていないのも、それはそれで悲しくはあるか? 仕方ないことだけれども。
「一応、保護者代わりのカテ爺――ここまで運んでくれた黒い竜――が、何も無い俺を不憫に思って『黒竜の加護』ってやつをくれたから、それで何か役に立てればいいんだけどなあ」
「保護者代わり?」
「あ、うん。父さんも母さんも、今この世界に居なくて」
「ご両親はどこへ?」
「別の異世界に召喚されて」
「そんなことがあるんだ……。
それで黒竜さんが保護者に」
「うん。だから本来であれば、異世界人って選ばれるのは父さんだったんじゃないかな?」
「そっか。でも、こんなに美味しい料理を作ってくれたし、私はキーリで良かったと思うよ」
「おー。ありがとう。なんか照れるね」
母さんに「――胃袋を掴めばなんとかなる!」と言われながら、料理を教えてもらったのが良かったか。
「さて」
朝食の後片付けをさささっと終えて。
「ラツハにお願いがあるんだけど」
「うん」
「この村の案内を頼んでいい?」
「これから?」
「村の人たちに挨拶はしておいたほうが良いだろうし、他に何も無ければ今から行きたいかな」
結婚生活初日の今日、何をすればいいのかと考えた結果、まずはこの漁村を見て回って、顔を合わせた人と挨拶するべきだろうという結論に至った。
この村における俺の役割など何も無いし、仕事のようなものも何も無い。
これまでもお金を稼ぐなんてこともしてこなかったし。
明日以降、何らかの仕事をして、自分とラツハ、二人が食べて生きていけるようにはしたいところだ。
女神の託宣によって結ばれた関係なので、衣食住は村の方でなんとかしてくれるという話ではあるのだが、頼りきりの生活は俺がしたくない。
とはいえ何かをするにも何をしていいのかさっぱりわからないし、村を見て回って、村の人たちと話してみて、やれることを見つけられたらいいなと思っている。
「それはそうね。挨拶回りに行きましょうか」
「案内、よろしくお願いします」
「ラツハちゃん! 良かったわねえ。あら? そちらが旦那様? ラツハちゃんをよろしくねえ」
「どうも、キーリと申します」
「あらあらご丁寧にどうもー」
「じゃあおばちゃんまたねー」
「あら、じゃあコレ持っていきなさいよ。結婚祝い――にしちゃあみすぼらしいけど。あっはっは」
「ありがとうございます。いただきます」
「お幸せにねー」
海風を浴びながら村の中を歩く。
多少の雲は見えるが、文句のない晴天だ。
愛用のバッグを肩にかけて歩く俺の隣には、露出の少ないこれぞ冒険者という格好をしたラツハ。
服の上からでも引き締まった体、すらりと伸びた脚など、ラツハのスタイルの良さがわかり、かっこいい。
そんなラツハの人当たりの良さか、寂れた漁村という小さい世界だからか、次々に声をかけられ、持っていた野菜や果実や魚介類などを渡される。
「今の人は、この村一番のお裁縫名人なんだ」
ラツハからは、そんな風にひとりひとりの人となりを教えてくれる。
おばちゃんにもらった野菜をラツハから受け取り、バッグに入れながら歩く。
「さっきからそのバッグに頂き物を入れてるけど、さすがに入りすぎじゃない?」
ラツハが不思議そうに見ている。
「カテ爺からもらったバッグで、肌身離さず持ち歩けって言われてて」
「マジックアイテムってやつ?」
「そうそう。生きてるものでなければ、いくらでも入れられるし取り出せるって言ってた」
「見た目からはわからないけど、中にはたくさん入ってるんだ?」
「うん。そうだね」
今日の朝食の食材とか、調味料とかね。
そんな話をしながら歩いていると、海、そして港にたどり着く。
漁から戻ってきたと思われる漁師たちが、漁具の手入れをしている様子が見える。
「おっちゃん、今日は大漁だった?」
「ラツハか。今日も大漁だったぜ」
「さすがだねえ」
ラツハと漁師のおじさんが豪快に笑い合う。
「お、ラツハ」
そこに、俺やラツハと年齢の近そうな、ガッシリとした体つきの男がやってきた。
カプチュー「『黒竜の加護』って何よ?」
カテガトージ「『黒竜の加護』は『黒竜の加護』だろ」
カプチュー「説明になってないんだけど」
カテガトージ「強いて言えば、頑張れば頑張るほど強くなる『加護』だな」
カプチュー「なんかガキっぽいね」
カテガトージ「誰がガキだってぇ!?」
カプチュー「あんたよあんた。私で大人になった、カ・テ・くん」
カテガトージ「……」




