異世界人の朝食。
目の前に並んだ、夫――キーリが用意してくれた朝食。
白いご飯、焼いた魚、たまご焼き、みそ汁。
異世界人が持ち込んだり、好むとされる料理たちだ。
街に出た時に食べた事はあったが、その時とは比べ物にならないくらいの良い香り。
先に手を付けて良いのかわからなかったので、まずはキーリが食べるまで待つ。――いや、先に食べるべきなのか?
私が手を付けていいのかわからずに戸惑っているのが伝わったのか、キーリがみそ汁の入った器に口をつけた。
「ラツハもどうぞ」
勧められるままにみそ汁を一口。
――めちゃくちゃ美味しいんですけど。口に広がる異世界人が試行錯誤して生み出したというみその豊かな風味とコク。詳細はわからないが魚介の風味がそれを後押しする。
この海藻の舌触りも最高に良い。
「はぁー」
美味しい上に心まで温まる。素晴らしい。
続いて焼き魚。
私の育ったこの漁村では見ないが、鮭という魚を焼いたものだ。
焼き方が良いのか、この鮭がいいのか、はたまたどちらもなのか、ふっくらとした身に凝縮された旨み。
そして、異世界人の魂とまで呼ばれる醤油の芳ばしさ。
完璧な調和がここにあった。
そして白米――いやここはご飯と呼ぶべきだろう。
醤油が異世界人の魂ならば、こちらは異世界人の心。
粒立ちの良さ、程よい粘り、噛めば噛むほど生み出される甘み。
奥ゆかしく奥深い。まさに異世界人の心だ。
そしてたまご焼き。
しっかりと火が入っているのにふんわりと仕上がっており、優しい味が舌を包み込む。
口の中を、心を整えてくれる。
そうして私は再びみそ汁へと挑んでいく――。
――――――――――ふう。
気付い時、私の目の前には空となった食器だけしか残っていなかった。
「満足してもらえた?」
「あ、はい。ごちそうさまでした」
満腹というより、満足感が私の全身を満たしている。
「今まで食べた中で一番美味しい食事だったかもしれません」
「さすがに大げさすぎるけど、褒めてくれてありがとう」
「いえ、大げさでもなんでもなく、本当に本当で」
「喜んでもらえたなら何よりだよ」
「私は女なのに料理などできませんので」
「男とか女とか関係ないと思うけどね? でも、苦手って言うなら一旦、食事の担当は俺がやるでどう?」
「いえ、そういう訳には」
異世界人様に食事係を押し付けるのは良くない、気がする。
かと言ってできないのは事実なので、そういう訳にはいかないと言いながらも、解決案があるわけではない。
「なるほどたしかに、できないからってそのままやらないのも良くないかもしれない、か」
いや、そういう志の高い話でもないんですけどね?
「ラツハが料理したいなーとか、してみようかなーって時にお願いしようかな。俺でよければ手伝うし」
「えっと、はい。その時はお願いします」
私の料理下手を見たら、結婚生活は一年で十分だなとなってしまうことだろう。
しかし考えてみれば、それが彼のためになる気がする。
「でも本当に私はがさつで不器用なので、料理とか苦手だから、食べられないものが生まれてしまうかも……」
とはいえ、およそ人の食べ物ではないものを食べさせるのはさすがに違うよね。
「最初から器用にやれる人もそりゃあいるだろうけど、慣れてないことをやる時は大抵上手くいかないもんだからねえ」
こういう言い回しができるのは、さすが異世界人。
私の周りに、こんなことが言える男性は一人も居ない。
「あ、私ががさつだというついでに、一ついいですか?」
「うん。どうしたの?」
「私は冒険者みたいなこともしていまして」
「うん。今朝の鍛錬もその一環だよね?」
「はい。
それで、礼儀も言葉遣いもなにもなっていないような冒険者たちと、一緒に行動することもあります」
「うん」
「そこに私自身の生来の性格もありまして、普段はこんな話し方をしていないんです」
なるべくお淑やかにと、いろんな人から釘を差されていたりもする。
「それで、その、キーリと話すときも、素で話せたらなあ、と思いまして……」
「なるほど。うん。これから長い付き合いになるわけだし、自然に話せた方がいいと俺も思うよ」
「いいんですか?」
「もちろん」
「正直、まだ気を張っているところはあるので、いきなり素が出てはこないかもだけど」
「うん。わかった」
「じゃあ、キーリ。改めてよろしくね」
「こちらこそ」
ふう。言葉遣いに気を遣わなくて済むのは、私の精神的にも、キーリとの距離感的にも助かる。
「じゃあ、俺からも一ついいかな?」
カプチュー「お腹が空いてきたわね」
カテガトージ「オレは作れねえぞ」
カプチュー「使えないわねえ。キーリを見習いなさい」
カテガトージ「……」




