朝の鍛練を終えて。
「――さっき言われたそういう行為なんだけど……」
おずおずと話し始めるキーリ。
「――俺らにはまだ早いと思うんだ。
その、なんていうか、もっと親密になってからというか、仲を深めてからじゃないかなって」
「――……キーリ、がそうしたいのなら、私はそれで構わないです」
「――ラツハはかわいいし、魅力的な女性だから、理性を保つのが大変だけど……」
「――へっ?」
「――え?」
え? 今、私がかわいくて魅力的だとおっしゃいました???
あれか? 女っぽくなさすぎて興味がわかないって言う訳にはいかないし、そんな風に思われても困るから、言い訳してるのか?
ちらりとキーリの顔をうかがう。
言い訳にしては、耳を真っ赤にして恥ずかしそうな表情をしているように見えるし、本音ということでいいのか?
そう思ってくれているのなら嬉しいけれども、男みたいだと言われ続けている私だぞ? 本当に本当なのか?
私も顔が熱くなってきたんだがどうしてくれるんだ。
「――えっと、今日は疲れたし、寝ましょうか」
「――そうですね。寝ましょう」
寝室に置かれた二つのベッド。
それぞれに別れて眠る。
一日中気を張っていたのだろう。私はいつの間にか意識を手放していた。
「ふぅーーーー」
剣を下ろす。
結局、私の覚悟は要らぬものとなったようだ。
朝、目覚めた時に万が一と思い身体を確認したけれど、特に違和感も痛みも衣服の乱れもなかった。
正直なところ、ホッとしている自分がいる。
覚悟を決めたなんて思っていたけれど、ホッとしているということは覚悟なんて決まりきっていなかったということだろう。
同時に、私にはやはり女性としての魅力が無いんじゃないかという気持ちもわいてきている。
キーリは私をかわいくて魅力的だと言ってくれたが、結局手は出さないんでしょ? という気持ちが少なからず生まれていた。
何かされていたら、それはそれで今の私は、不快に思っていたかもしれないというのもわかっている。
つまり私はわがままな女だ。
相反する気持ちを抱えて、キーリに対してもっと上手く私を扱えという無茶を勝手に要望している、最低な人間というわけだ。
「はあ……」
そんな私に比べて、異世界人であるキーリは良い奴なんだろうと思う。
お世辞だろうとなんだろうと、こんな私に向かってかわいくて魅力的なんて言う人間はこれまで存在しなかった。
今思い返してみても嬉しい気持ちになってしまう。
だが、異世界人はどうしたって異世界人様だ。
こんな私の夫という立場をいつまでも続けさせてはならない。
彼にはもっと女性らしく気立ての良い、相応しい女性が存在するはずだ。
私なんかに情が湧き、離れにくくなってしまうような事態にするわけにはいかない。
だが、最終的に私から離縁を申し込むのも、彼の名前に傷がつきかねないから避けたい。
かといって嫌われるために、ぎすぎすして一年間過ごさせるのも申し訳なさすぎる。
自然と私とは友人のような関係になりつつ、女としては見れなくなる、くらいが丁度いい塩梅だろう。
とすると、私は素でいるのが一番良いんじゃないかな?
素の私が女として見られないっていうのはどうかとも思うけれど、周りの人たちの対応を考えれば間違ってないはず。
今後の私の行動方針はなんとなく決まったのはいいけど、朝の鍛練としては過去最悪かもしれない。
全く剣にも自身の身体の動きにも集中できなかったのだから。
そんな、鍛錬を終えて家に帰ると、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐってきた。
「あ、おかえりなさい。ラツハ」
「ただ、いま」
「朝の鍛錬ですか?」
「あ、はい」
「もうすぐ朝食ができるので、一緒に食べましょう」
朝食を用意して待っているなんて、異世界人だなあ。
「あ、着替えてきます」
「はーい」
さすがに鍛練の格好のままというのは良くない。……汗臭いかもしれないし。
ささっと着替えて戻ってくると、キーリがテーブルの上に二人分の食事を並べていた。
私も何か手伝うべきかと思ったものの、何に手を出していいのかわからない。
「大丈夫だからラツハは座ってて」
「あ、はい」
座って待っていると、支度を終えたキーリが正面に座る。
「それじゃあいただきます」
キーリの言葉を追いかけて言う。
「いただきます」




