再会
「父さん?」
俺の言葉の意味を飲み込めない様子のラツハ。
「ああ。正真正銘オレが、そこの基維利の父親だ」
「え? でも……え? 髪の色も赤いし?」
俺の両親が異世界人だということをラツハは知っている。
そして、異世界人とは基本的に黒い髪をしているというのが常識だ。
目の前の男――俺の父親――冒険者コウは、赤い髪をしており、異世界人とは思えない風貌をしている。
「ああこれか。これは、この世界に来てから、炎の精霊に加護をもらってな。その結果だ」
父さんの髪の色は、精霊の加護によるもの。
実は俺の髪の色も、黒竜の加護によって元のものよりさらに黒くなっていたりする。
「うち的には、黒髪のが良かったんだけどねー」
父さんの後ろからひょっこり現れたのは、俺の母さん――柄瀬るな。
「母さん、おかえり」
「ただいまー! って基維利、めっちゃ大きくなってるー! あんなに小さくて可愛かったのに、すっかりイケメンになっちゃって」
母さんは、元の世界ではギャルだったとのことで、おそらくこのテンションもギャルのものなのだろう。
「ところで基維利、アンタ結婚したんだって? あのクソジジイが勝手に決めたって聞いたから、ぼっこぼこにしてから来たんだけど」
「あ、うん。こちら妻のラツハ」
手のひらを隣にいるラツハに向けて両親に紹介をする。
「あ、えっと、あの、ラツハです」
突然のことに戸惑っているのだろう、詰まらせながら名乗るラツハ。
「ラツハちゃんね。うちのこと覚えてるかわかんないけど久しぶりー」
「お、お久しぶりです」
「基維利が変なことしたり、変なこと言ったりして迷惑かけてない? 大丈夫?」
「いや、あの、キーリ、さんには、良くしていただいてます」
「ならいいけど、困ったことがあったら言ってね」
「は、はい」
ラツハら完全に、母さんのノリに圧倒されてしまっていた。
そこから少しの間。親子水入らずで話していた。
「あれー? ねえ基維利、ラツハちゃんは?」
「え?」
周りを見回すが、たしかにラツハの姿はなかった。
久々の親子の再会に気を遣ったのか、いつの間にかラツハはこの場から離れていたらしい。
「村長に挨拶してくる」
そう言って、父さんと母さんは村長――ラツハの父――の家に向かっていった。
「ラツハー?」
あれ? 先に家に戻っていると思ったのに、家に居ない。
実家に行ったとか? いや、今日そんな用事はなかったはず。
うーん。
思い返してみると、父さんの姿を見てから、ラツハの様子がどこかおかしかった気がする。
となると、ラツハの行きそうな場所……。あそこかな? 行ってみるか。
「ラツハ」
「キーリ……どうしてここに?」
「なんとなくここかなって」
森の中ならどこにでもありそうな場所。
景色が良いわけでもなく、目立つ目印があるわけでもない。
たまたま、初めて二人でお弁当を食べ、時々一緒にお昼ご飯を食べる事があるという、ただそれだけの場所。
俺とラツハの思い出が少し積み重なっただけの、なにもない場所。
そこに、ラツハは居た。
「父さんの姿を見てから、様子がおかしい感じがしてたんだけど、大丈夫?」
「あー。うん。別に、コウ――キーリのお父様、私のお義父様でもあるのか、が悪いとかそういうわけじゃなくてね」
「うん」
「私は、コウと並べて戦えるようになりたくて、鍛練を続けていた――と思ってた」
「思ってた?」
「うん。今日までずっとそう思ってたんだけど、実は違ったんだ。
私にとって、コウは、初恋の相手だったんだって、今更になって気付いちゃった」
「そうなんだ」
「コウはすごく強いし、美人な人と結婚もしてるし、私とは年齢も離れてるし、コウはきっと私のことを恋愛対象として見てくれない。
だから、せめて肩を並べる価値のある強い人間になろうって、それなら近くに居られるかもしれないって、無意識にそう思ってた。
なのに、さっきコウの姿を見た時、コウの隣に立ちたい、コウに付いて行きたいって、全く思わない自分がいて。
そこではっきりと自覚した。私はコウが好きだったんだって――」
「ねえ、ラツハ」
俺はラツハの言葉に強引に割り込むようにして話し始める。
このままラツハに話させてしまったら、あまりにも自分が情けなくなってしまうと思ったから。いや、ここまで聞いておいて話し出すのは、すでに情けないことではあるが。
「俺が、初めてこの村に来た時のことで、どうしても忘れられない――忘れたくないことがあってね」
「黒い竜に乗ってきた時のこと?」
「ううん。そのもっと前」
「え?」
「今でもまざまざと覚えてる。村を、村で守り続けてきたものを、そして村人を、全てを守るために、巨大なモンスターの前に両手を広げて立つ女の子の姿を」




