思い出を積み重ねて
「じゃあ、あの時、キーリも居たってこと?」
ラツハの目が大きく見開かれる。
「うん。ラツハには父さんしか見えてなかったみたいだし、言葉を交わしてすらなかったけどね」
「そう、なんだ。
でも、じゃあなんで、コウが父親だって教えてくれなかったの?」
そう。たしかに俺は、ラツハが言う赤い髪の冒険者が父さんだとわかっていた。
わかっていてこれまでラツハに伝えてこなかった。
「父さんに負けたくなかったから。
父さんの息子なら良いかなって妥協されたくなかったから。
俺は俺として、キーリとしてラツハに認めて欲しかったから、今まで言わずにいたんだ。
――ごめん」
「それは、たしかにコウの子だからってなってたかもしれないけど、でも、それはなんで? 私に認められたいって思うのはなんで?」
「俺はあの時から、ラツハのカッコいい姿を、決意を見てからずっと、憧れてたんだ」
「そっか」
「さらに、こうして再会したラツハは、あの頃と変わらず――いや、あの頃よりもっと素敵で魅力的な人になってて嬉しかった」
「……そう、なのかな?」
「うん。だから俺は、ラツハの隣に立つのに相応しい人になれるように、俺なりに頑張ってこれた」
「そんな、私の隣に立つのに相応しいとか、相応しくないとかないし……そもそも、それでいうならキーリこそ魅力的でカッコいい――し」
互いに褒めあって、少し気恥ずかしくなりながらも見つめ合う。
「ねえ、ラツハ。もうすぐ約束の一年になるんだけどさ」
「うん」
「俺としては、そこでお別れなんてしたくなくて、その先もラツハと一緒にいたいと思ってる」
「……うん」
「それで、一年前は周りに流されるままに決まってしまったからできなかったことを、今ここでするね」
「え?」
一年も先送りしてしまったことだ。
今更遅すぎるが、それでも、今、ここでやるべきだと判断した。
そのための準備は整っているし。
俺は地面に片膝をつける。
「ラツハと結婚してから今日まで、幸せな日々を過ごすことができました」
そして、懐に隠し持っていた小さな箱を取り出し、ラツハに開いて見せる。
「だから、これからも俺の妻として、共に歩んで、思い出を積み重ねていってくれませんか?」
「……私でいいの?」
「ラツハがいい」
「――――――――――はいっ」
頷いてくれたラツハの左手をそっと取り、箱に入っていた指輪を薬指にはめる。
「――キレイ」
ラツハは自らの薬指で輝く指輪と宝石を、うっとりと眺めてくれている。
「ありがとう。キーリ」
「こちらこそありがとう」
「すごくうれしい」
ラツハの表情からも、喜んでくれているのが見て取れる。
「キーリ、これ、ピッタリだよ。すごい。どうやっては測ったの?」
「前に、腕の型を取ったでしょ? それを利用して、測らせてもらった」
「あー。あの驚かせるために作ったやつか」
「うん」
「そっかあ」
ラツハは指輪をまじまじと見つめる。
「あ、この宝石ってもしかして」
「そう。あのダンジョンで見つけたものを加工して作ってもらったんだ」
「この指輪には、私たちの思い出が詰まってるのね」
「うん」
立ち上がってラツハを見つめる。
「ラツハ」
「うん」
ラツハとの距離を、ゆっくりと縮めていく。
そして、二人の新たな思い出を一つ、積み重ねた。




