決着。
戻ってきたキーリを出迎えに行く。
「おかえり」
「ただいま」
野次馬たちも集まってくる。
「ふ、ふん。速く泳げる祝福かなんかか。それで勝ったつもりか?」
オーゴも寄ってきて的外れなことを言っているので無視。
「向こうの浅いところのがいいんじゃない?」
「そっか。そうする」
ここは船を停める場所で、キーリなら上がれるだろうけれど、楽に上がれるところの方がいいだろう。
野次馬たちや、オーゴへ見せつけるという目的も含めて。
キーリが浅瀬に向かって泳いでいく。
水深が浅くなれば、キーリの獲ってきた獲物も当然、水面から上がってくる。
「なんだあれは」「でかくない?」「バケモンだ」
キーリが獲ってきたのは、オーガフィッシュと呼ばれる、伝説的な巨大魚だ。
私は実物を見るのは初めてだし、漁師たちですらしっかりと見るのは初のようだった。
「昔見たあのでけえのは、幻でもなんでも無く存在したってのかよ……」
オーゴの父親も、唖然としながら呟いている。
ずるずると巨大魚の尾を引きずって、キーリが上陸する。
オーゴが獲ってきたスピアフィッシュとは比べ物にもならない巨体が、その全貌を露わにする。
「これは量るまでもないな」
ホッとした表情の父様。
「うそ、だろ……」
崩れ落ちるオーゴ。
「でけえー」「すげえー」「やべえー」
幼稚な言葉で盛り上がる野次馬たち。
しかし。
「ふうー」
海から上がったキーリの表情は、どこか冴えない。
「いやー」
「どうしたの?」
「悔しいー」
キーリは何故か悔しがっていた。
「えと、キーリ?」
「うん?」
「悔しがってるところ悪いけど、勝ったのはキーリだからね?」
「あ、うん。さすがにこの大きさの魚は普通は獲ってこれないってわかってるよ」
その常識はあったらしい。
「じゃあ何が悔しいの?」
「こいつらの群れの中に、もっとでかいやつがいて、そいつが群れのボスっぽかったんだけどさ、俺に勝てないと悟った瞬間に、こいつをけしかけて逃げていきやがってさ。あのボスを獲ってこれたら最高だったんだけどなーって」
「なるほどね」
つまりキーリは勝ち負けよりも、ボス個体を獲るほうが重要だったと。
まあ、どちらにしてもキーリの勝ちは揺るがないし問題ないけどね。
「キーリ君、おめでとう! 助かったよ! わっはっはっはっは」
父様が喜びを爆発させ、キーリの背中をバシバシと叩いている。
ちなみに父様、その人そこのバケモノ魚を獲ってきた人ですからね? 怒るとかはないでしょうけど、あんまり叩かない方がいいんじゃないかなあ?
「オーゴ君、これは完全に君の負けだ」
「う、ぐっ」
父様は、項垂れながらもなんとかオーガフィッシュのもとまで歩いてきたオーゴに、勝負の敗北を宣告する。
オーゴはきっと、漁師である自分が負けるなんてこれっぽっちも思っていなかったのだろう、茫然自失としている。
勝てると思ってたことが間違いなんだけどねえ。
オーゴとは違い、私はキーリの勝ちを確信していた。
昨日、森の中を案内した際、湖を見ながら泳ぎや魚を獲ることについての話を聞いていたからだ。
泳ぐための筋力も、水中で動くための筋力も、肺活量すらも『黒竜の加護』で鍛えられるらしく、一時間くらいは平気で水の中に居続けられるとのこと。
さらには、人間形態に変化した黒竜――竜のままだと魚が一目散に逃げていくらしい――と共に、鯨並の大型魚を何度も獲りにいっていたようで、魚獲りには自信があると、控えめなキーリにしては珍しく豪語していた。
ただの本人談ではあるが、見栄を張って嘘を付くような人間ではなさそうだし、現にこうして巨大魚を獲ってきたわけだし。
「漁師が魚を獲る対決で負けて、さらにゴネるような真似はしないね?」
父様が諭すように言う。
「わか、り、ました」
納得してなさそー。本当に面倒だから、約束を守って変に絡んでこないでね。
「キーリ君とオーゴ君の対決は、これにて決着!」
父様が宣言すると、野次馬連中がまた、わーわーと騒ぎ出した。
「ところでキーリ君」
「はい」
「この巨大魚、どうするつもりかな?」
「これだけたくさん人が集まってますし、皆で食べましょうか」
「そうか、ありがとう」
「では下処理をしますね。ちょっと待っててください」
そう言うとキーリはタタタッと、駆け出した。
おそらくバッグを取りに行ったのだろう。
それにしてもこの巨大魚、どんな味がするのだろうか。
正直なところ、私の興味はだいぶ前からそっちに持っていかれていた。




