ギリギリ。
私を巡っての勝負が始まってしまったが、決着がつくのは早くて夕方なので、ここからはただ待つだけの時間になる。
待っている時間に、まずやっておくことがあった。
「ワーンク」
弟を呼ぶ。
「はい。姉さん」
「私が結婚した理由は知ってるはずよね?」
「はい」
「なんでオーゴの話を信じたの?」
「姉さんが間違ってるとは思わないの?」
「女神様の託宣がウソで、キーリが騙してるってこと?」
「オーゴ兄はそう言ってた。あいつは姉さんを騙してるんだって」
「騙されてるのはあんたの方でしょ」
「姉さんはオーゴ兄のことを好きじゃないの?」
「これっぽっちも好きじゃないし、なんなら話すのも嫌なんだけど」
「えええええ!?」
「あんたもオーゴも頭の中どうなってんのよ……」
「仲良く話してたなって」
「向こうから来てたから答えてただけで、私からは何もしてないんだけど」
「じゃあオーゴ兄の勘違いってことなの?」
「うん」
「そんなぁ」
これ、こいつも放っておいたらオーゴみたいになりかねないんじゃ?
「あんたはオーゴみたいになっちゃダメだからね?
好きな女の子に素直になれないとしても、イタズラとか悪口とか、ちょっかいを出して気を引こうなんてしないでよ」
弟にしっかりと伝わったかわからないので、父様にもちゃんと言い聞かせておいてもらうとしよう。
さて、キーリとオーゴの勝負開始から時間が経った。
野次馬たちは暇になってすぐに帰るだろうと思っていたのだが、魚を焼いて食べたり、酒を持ち寄って飲み始めたりと、二人の勝負を肴にして好き勝手楽しんでいる。
父様も、自暴自棄になったのか酒をあおる輪に入り込んでいた。
そんな人々の様子を眺めていたら、ざわざわとどよめきが広がっていく。
皆の視線が集まる海のほうに顔を向けると、オーゴの乗った船が見えた。
村人たちが出迎えに移動し始めたのに合わせて、私も歩いていく。
船上のオーゴは、勝ち誇ったような表情をしている。
おそらく大物を獲ることに成功したのだろう。
船を接岸すると、オーゴはしたり顔で船から飛び降りてきた。
「お願いします」
オーゴがそう声を掛けると、船を囲む漁師が数名船に乗り移り、作業を始めた。
「引くぞー!」
オーゴの父親のおっちゃんが声を上げると、漁師たちが縄を引く。
吊り上げるために突き出た、太い木製の腕の先から垂れた縄が引き上げられ、尾に縄を巻き付けられた巨大な魚の姿が、水面から徐々に現れてくる。
「これは大物だ!」
野次馬たちがその姿を見て盛り上がる。
スピアフィッシュと呼ばれる、真っ直ぐで細長く、先の尖った嘴のような部位を持つ巨大魚。
人の背丈を超えた大きさで、四人がかりで引き上げる必要があるくらいの重さがある。
「あいつはまだ戻ってないか」
オーゴが周りを見回している。
私の姿を見つけたようで、駆け寄って来た。
別に来なくていいんだけど。
「どうだラツハ。でかいのを獲ってきてやったぞ!」
いや、頼んでないって。
「釣る技術も何も無いあいつがどうするつもりかわからんが、こいつには勝てないだろ?」
どやどやとウザい。
「勝ち誇るのはキーリが戻ってきてからにしてね」
「あいつになんて言われてるのか知らないが、喜んでいいんだぞ?」
えー? めちゃくちゃ話通じなくなってない?
私が無理矢理キーリと結婚させられて、辛いとか思っているらしい。
救い出してくれてありがとう大好きって、私がなると思い込んでいるのか。
「いや、本当に全然嬉しくない」
「照れなくていいんだぜ」
頭が痛くなってきたし、離れたい。
「オーゴ、大物じゃないか!」
漁師たちがオーゴを囲むのを見て、そっと離れる。
女神様に泥を塗るような行動をとるオーゴに、彼らはよく盛り上がれるものだ。
ちなみに父様は顔面蒼白状態になりながら、現実逃避に酒を飲み続けていた。
太陽がだいぶ低くなり、もうすぐ西側の森へとのまれていきそうになってきた頃。
「負けるのが恥ずかしくなって逃げたんじゃないか?」
そんな風にオーゴが調子に乗って言ったちょうどその時。
再び海に巨大な水柱が立った。
「なんだあれ?」
唯一あの水柱を見ていないオーゴが上擦った声を出す。
「やばい! 近付いてくる!」
焦るオーゴに声を掛ける。
「大丈夫、あれはキーリだから」
「は?」
時間制限ギリギリで、我が夫――キーリが戻ってきたのだった。
GWの連休中に、この勝負の決着まで書きたかったのですが、書けたのはここまででした。
次回以降は書き終わったタイミングで公開したいと思いますので、よろしくお願いいたします。




