異世界人のお昼ご飯。
白くて柔らかいパンで、葉物野菜やハム、たまご焼きなどが挟んである――サンドイッチ。
この白くて柔らかいパンは、異世界人が好み量産させているもので、こんな貧しい漁村でお目にかかることはまず無い。
カラアゲは湯気が立ち上っていて、湯気にのせて芳ばしい香りを私の鼻に、脳に、胃に送り込んできており、先程まではそこまで空腹を感じていなかったはずなのに、脳も胃も、一刻も早く摂取するよう強く訴えてくる。
バッグから出てきた調理したてのカラアゲ。
キーリの持つマジックアイテムであるバッグは、たくさんの物を収納できるというだけではなく、収納した状態を維持する機能もあるのだろう。
キーリはそんなバッグから、水筒を取り出し、水を手にかけて洗っている。
「ラツハも手を出して」
「うん」
言われるがままに手を出すと、キーリが水をかけてくれたので、手をこすり合わせて洗う。
「この水筒は洗い水用で、口とか付けてないから安心して」
「うん。わかった」
こういう気遣い、異世界人だなあ。
さらには手を拭くための布まで用意してくれる。
「ありがと」
キーリはさらに、飲み物まで用意してくれているようで、コップを置き、そこに別の水筒から茶色い飲み物を注ぐ。
「これは?」
「麦茶」
米、味噌、醤油――ほどの強固なものではないが、麦茶も異世界人が好むイメージがある。
「ではいただきます」
キーリがカラアゲを口に放って食べ始めた。
「いただきます」
キーリに倣って、私もカラアゲを口にする。
カリッ。
最高の歯触り、食感を堪能する。
そのまま圧をかけていくと、ヤケドする程ではないがアツアツの鳥の肉汁が、じゅわっと、口の中を、心を満たしていく。
「はふっ」
少し冷ますために口の中に空気を送り込む。
すると、醤油の芳ばしい香りと混ざり、鼻腔を抜けていく。
「美味しっ」
茶色い食べ物。それが――いや、そういうものこそが美味いものだと、異世界人は力説し続けてきたという嘘みたいな話を聞いたことがあったが、このカラアゲの前には納得するしかない。
茶色の塊。立ち上る湯気。心地よいカリッという音。歯触り。アツアツの肉汁。溢れる旨味。芳ばしい香り。
五感の全てを刺激し、幸福感をもたらしてくれる。
暴力的とすら言えるカラアゲの魅力を胃に収め、サンドイッチを手に取る。
天使すら嫉妬させるのではないだろうかと思うほどに、柔らかく白いパン。
間には、薄いピンク色のハムと、鮮やかな緑色のレタス。
口の中に入れて歯を立てると白いパンは、柔らかく、優しく包み込むように受け止めてくれた。
その先では、レタスのシャキシャキとした食感と音、ハムの塩味と旨味、風味が私を出迎える。
そんな食材たちを、クリーミーでコクがあり、爽やかな酸味をもつソースがまとめあげる。
カラアゲ、サンドイッチ。彼らを口の中へ、胃の中へと導く手が、咀嚼が止まらない。止められない。
それでもようやく、名残惜しさを抱えながらも終わりを迎え、麦茶をいただく。
麦の香り、芳ばしさ、ほのかな苦味、そして余韻。
ここが森の中であることなど忘れ、食事を堪能してしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「これ作ったのもキーリ?」
「うん。どうだった?」
「めっっっっっちゃくちゃ美味しかった」
「満足していただけたようでなにより」
「ありがとう」
「食べてすぐ動くと良くないっていうし、もうちょっと休んでようか」
「うん。わかった」
風が抜け、木を、枝を、葉を揺らしていく。
ともすれば、迷子になりかねないようなよくある森の中で、穏やかながらも最高の時間を過ごしているのかもしれない。
お互い言葉を交わすこともなく、しばらくそうして座っていたが、キーリが水筒などをバッグにしまい始めた。
「それって何が入ってるの?」
「色々」
「ふーん。
ちょっと触らせて」
「ん。いいけど、俺にしか中身は取り出せなくなってるってカテ爺は言ってた」
「そうなんだ」
さすがはマジックアイテム。
でも気になるので、触らせてもらう。
中身を取り出そうとしてみるが、不思議な力によってバッグの中に手を入れることができない。
「ホントだー」
「ホントだねえ」
「え?」
「カテ爺に言われてはいたけど、実際に誰かが触ることなんて無かったから」
「なるほどね。
持ってみてもいい?」
「どうぞ」
なぜかニコニコとしながら答えるキーリ。
なんでニコニコしているかわからないが、とにかくバッグを持ち上げて――持ち上げ――持ち上がらない。
「んんんん?」
え? ナニコレ? どうなってるんですか?




