大王の左手
その砂浜の前方は断崖の峡谷へと続いていた。
周りは深い緑に包まれた峡谷の谷間の中を映像は縫っていく。
兵士を模ったと思われる砕けた石像が所々に転がっている
1キロ程中に進めていった先に数人の人間が映し出された。
中世風の西洋鎧にそれぞれ武器と盾を持って戦闘中の雰囲気だ
兵士たちの動きから鬼気迫る空気が画面からも伝わってくる。
対峙している敵と思われるモンスターの姿が映し出された。
「これは、ゴーゴン?ナーガか?」
ギリシャ神話でも見た感のあるメデューサのように頭から無数に蛇の生えた人外の存在があった。
アニメでは妖艶な姿で描かれる事も多いがそこにいる其れは全くの別物だ
顔はおろか全身が真っ黒な鱗で覆われている、それに胸部を見ても厚い岩盤の様な
胸板でゴーレムの様な巨大な体格である、胴から下は蛇の其れであり
足元は蜷局を巻いている。片手に牛刀の様な大きな曲刀を持ち左手は大きな盾の形に変化している。
むしろ、インド神話のナーガに近い。
なるほど、先程見た砕けた石像もこいつの石化能力による仕業なのだろう。
真っ黒な目に瞳孔だけが赤い。裂けた口からは先端の割れた赤い舌がペロペロと蠢いている。
馬鹿げた話だ。対峙する人間と比較するとこのモンスターは蜷局巻いた状態でも身の丈が10mはある。
何故こんなモンスターの所に入って来たのかと思ったが
位置から判断すると外側からモンスターが人間達を追い込んだ形になる。
見ているさなか端から外へ逃げようとした兵士の足元にゴーゴンの頭から伸びた蛇が素早く噛みつき
空中へ放り投げた、(頭の蛇は長さを変化させるスキルでもあるのか?)
そこに他の蛇が一斉に襲い掛かり兵士が生きたまま頭から飲み込まれた。
かと思うと、他の蛇が胴体に噛みつき腰から下を喰いちぎってバラバラに飲み込む。
そのような光景が連続で繰り広げられていった。
巨大なモンスターによる人間の捕食が続く。
兵士たちのレベルは分からないが剣や槍、斧といった武器で攻撃はしているようだが
殆ど左手の盾で防がれて致命打を与えられない。蜷局を巻いているが上半身のスピードは
人の攻撃するスピードよりも遥かに速く見える。
多分魔法も使えるのだろう、モンスターの体から放たれる炎が兵士を襲う。
俺は、映画でも見る感じで一方的な蹂躙劇を眺めている
「・・・弱すぎる」
悲鳴とか叫び声もあるのだろうが画面からは何の音も聞こえない、
一方的過ぎて面白くも無いドラマでも見ているのかと錯覚しそうだ。
最初どれ程の兵士がいたのかは知らないが今は10数人程度しか残っていない。
ただゴーゴンもいつの間にか傷を負って節々から赤い血が流れている。
画面の範囲を拡大すると兵士達とは別のところで4人のパーティが攻撃を仕掛けていた
明らかに兵士たちとは違う佇まいは異世界漫画で良くある冒険者とでもいう奴だろうか?
何か指示を出しているローブ姿の青年は魔法使いか?どうやらリーダーらしい。
彼の正面に魔法陣が展開されて氷の氷柱がゴーゴン目掛けて飛んでいく。
その後方で離れて弓矢を引く長い髪の女性から炎に包まれた矢が飛ぶ。
(顔の横の耳が長い、エルフ 。。。)
前方では真っ黒な全身鎧を着た重戦士が派手な装飾の付いた巨大な盾を構えゴーゴンの炎攻撃をはじいている
後ろではサポート役だろうと思われる女性が呪文を唱え魔法陣が
地面に浮かび上がり周囲に光のシールドを張っていた
俺の記憶にあるゲームのテンプレ通りの戦いがそこにあった。。
「いいね♪」
思わず口から出てしまった。だが次の瞬間俺は息を飲んだ。
リーダーと思われるローブの男の顏が画面に映る
黒目に黒髪のいかにも日本人の20代の顔かたち
明らかに先程までの兵士たちとは雰囲気が違う。
兵士たちはその兜から覗く髪は金色や銀色それに茶髪で地球でいう西洋にありがちな風貌だった。
更に次の瞬間俺は初めて動揺した。
サポートに結界を張っている女性は小学校からの幼馴染だった女性に生き写しなのだ。
髪の色は金髪だが顔立ちや画面から見える仕草が俺の忘れていた記憶を蘇らせた。
まぁ今更人を愛する心は忘れてしまったが、このまま似た女性が殺されるのを見るのは不快である。
あぁそういえば俺はその女性に失恋したんだったな。高校も違ったしな(蛍真は心に100pのダメージを受けたw)
そう思って見ていた次の瞬間
ゴーゴンが蜷局を解いた勢いでそのパーティに猛烈な勢いで突っ込んでいった。
兵士たちの叫ぶ姿が後方に映る。
人の10倍を超える重量級の素早い突進は車による追突の比ではない
しかし正面から前衛の重戦士がその盾で突進をふせいだのだ
恐らく盾にも魔法が付与されているのだろう。物理的には理解不能な展開である。
吹っ飛ぶ事無くガードした重戦士によってゴーゴンは上空へ跳ね飛ばされた。
刹那その尻尾の先端が後方でシールドを張っていた女性に巻き付いて空中へ攫っていく。
リーダーの顔が悲痛に歪み叫ぶ姿が映される、エルフが弓を引くが間に合わない、
絶望が空間を一瞬で支配した。
「まてやっ!!」
咄嗟に俺は叫んで椅子から立ち上がりモニターを右手でドンッと叩き押した。
手からは無意識に暗黒の瘴気が溢れだす。
その瞬間、画面の10cmほど手前の空間に手のひらサイズの丸い空間の歪みが出来た。
俺は躊躇なくその空間に左手を突っ込んだ。
その尻尾を引き千切ってやろうと思ったのだ!
*** のちに・・・その女性が宙に舞った瞬間、この世界で延々と語り継がれる伝説が生まれた ***
*** 【大王の左手】と呼ばれるそれは聖セレスティア歴1995年6の月の事 ***
唯一己に傷を与える4人組に苛立っていたゴーゴンはそのうちの一人を捕まえた
まず一人、そう思い嘲笑った時だった。
辺りの空間全体に地場の変動による衝撃波が走った。立っていられないほどの重力磁場が形成される
残った兵士たちはそのまま地面に突っ伏した。
同時にゴーゴンの飛んだ先の空間に巨大な空間の歪みが生じる
そこからゴーゴンを鷲掴みにするほどの巨大な左手が轟音と共に出現し辺りが暗黒に包まれた。
濃紫色の手はがっしりと意志を持っているかの如くゴーゴンをガッシリと掴みこみ
手の先から生えた白金色の鋭利な爪がゴーゴンの体に喰い込む
全体から迸る瘴気がゴーゴンの抵抗を許さない、ダラリと尻尾から
力が抜けて巻きつけていた女性が振りほどかれ落ちていく。
ゴーゴン自体も何が起きているのか理解できなかった。
すかさずリーダー格の魔法使いが痺れを振り切り残った全MPを使って飛翔し抱きかかえる。
その手は勢いのまま周りの峡谷にぶつかり峡谷が崩れ周りの形が変わるほどの衝撃音が走る
暗黒の瘴気で岩の所々がマグマ化して溶けだしている。
それぞれが今起こっている異常事態に驚愕し、ただ何も出来ず驚愕し呆然とするしかなかった。
それは一瞬の出来事。
巨大な手はゴーゴンを掴んだまま、何事も無かったかのように現れた空間に消えていった。
周りに暗黒の瘴気の残滓を残し。。。




