覚醒
そのまま地球時間で数日が経過した。
半円球状のドームの中央の椅子に座ったまま
俺は腕を組んで考える格好のまま思考を整理し続けた。
俺は死ぬ事も最期は視野にいれていた。
過去の自分を思いだした事で悪あがきをした結果なのか?
今の俺は17歳当時の意識の方が強い、むしろ55歳までの記憶が夢なんじゃないのかと思う。
が、流石に今の俺の知識量は17歳の物じゃない。。。
55歳の俺の感情や思いが残っている、悲しいがこれが現実なんだろう。
落下しながらゾンビのように消滅に向かった時点で俺は一度死んだのだ。
(人の意識は死線を越えると別の次元にジャンプする)
まぁ、勝手な妄想だ。
この悪魔みたいな姿でなかったらもう少し現状を理解できるかも知れないが。
此処には答えを教えてくれる都合の良い存在は居ない。。。
絶対的な静寂。結果的に望んだ世界なのだ・・・皮肉だな。
心が信じられないほど落ち着いて思考が外から内へ深くなっていくのが分かる。
思考を整理していく中で騒音に殺され続けた過去のメンタルが異物のように浮かび出て来る。
・・・・・今なら解る
あそこにガソリンスタンドが建てられた時点で人が住める環境じゃ無くなったという事が。
正常な人間なら腐るに任せるか鬼になって悪者になるしかない。
そのどちらにも選択肢がなければ病んで爆発するのを待つだけだ。
俺は自分を肯定した。
常識に洗脳されていた自分、周りへの怒りと何も出来ない自分に絶望し
理不尽さに必死で孤独な抵抗を続けた鷹搭蛍真。
魔細胞化した体、脳には理不尽極まりない思い出だ。
今の俺なら躊躇う事なく敵と見做す対象を皆殺しにすることだろう。
それだけの力が今の俺にはある。
悪魔みたいなモンスターとはこの事だな。。。
それを実証できるだけの力が抑えがたく内側から滝のように溢れてくる
反動故か我慢するといった理由が見つからない感覚なのだ。
憤怒に燃える阿修羅の如くその瞳からは怒りに満ちた眼光が放たれている。
「ミジンコ処分するだけで何故心痛める?」
「何故、悪者退治する方が悪者になる?」
純粋な疑問だけが問いかける。
犯罪者が人権で守られ被害者が社会から捨てられていく世界
実に犯罪者の為に作られたような世界。
そこまでやっても許される環境ならそれこそどんな犯罪だって表に出なければやり放題だ。
それで得をするのは誰だ?
そんな都合いい国は絶好の鴨でしかない。自分の命を自分で守る事が許されない国。。。
性善説だけが心の拠り所? 気色悪い汚物の思考。。。
正義が幼稚なガキの戯言と片付けられる、理も無下にされる世界。
記憶を辿れば虫唾が走り醜態への怒りで怒髪天の憤怒に震える
鬣が逆立ち双角は黒色から紫色そして蒼く光り出す
嚙み締めた口元からは尖った牙がギリギリと音をたてる、唇からは瘴気が漏れている。
額から血管が浮き出て、組程いた手を強く握ると白金色の爪が食い込みバチバチと夥しい雷を帯びる。
体からは暗黒の瘴気が目視できるほど湧き上がっていく
俺は感情のままに反応し苛立つ体に任せて暴走を繰り返す。
震える体で徐に椅子から立ち上がり天を仰ぐ、薄目から洩れる金色の瞳がカッと大きく見開かれた
慟哭!
「うおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!」
雄叫び、不甲斐なき己への怒り、絶対的な叫び!
それは何も出来ず死への路を選ぶしかなかった鷹搭蛍真の記憶への手向けだったのかも知れない。
刹那、ドーム内が暗黒の瘴気で満たされ角や腕から放たれた雷光は地響きと震動を発生させドーム内に亀裂を生じさせた。
そこに発生したクレパスから、さらに下の方へと沈み込むように落ちていき魔素濃度がさらに強くなる
むしろ今の俺にはそれが心地良かった。
再び俺は落ちていった先で床を出現させた、同じように半球状のドームが出き同時に透明な空間が作り出される。
そして先程とは打って変わってまさに魔王の玉座とでもいえそうな巨大な椅子が出現した。
俺は当然のように腰かける
「ステータス」
・・・しかし何ら変化は起きない
確かめる事の出来る手段なら何でも試す。
人の意識は水面下で繋がった気の根っこのような物、または枝分かれて繋がている葉っぱのようなものだ
偶然の発想も何処かで起こった事柄をモチーフに意識が表層に浮かんで閃くものだ。
「ステータスオープン」
続けて発する
目の前の空間にタブレット程の透明なボードが表示された。
NAME 鷹搭蛍真 AGE 17歳
種族 魔神
Level/s 10,000
HP/s 1,000,000/1,000,000
MP/s 100,000/100,000
スキル 創造ノ命 LV.1
(・・・・・シンプル)
(ってか、魔神って既に人間辞めてるのか)
更に衝撃なのは年齢だ。。。本当に若返っている。
この体じゃなかったら当時の17歳の姿なのかもしれないな。。。
俺は無言のまま表示を注視する。
(・・・レベル10,000ってどんだけ盛ってるんだ )
しかし考えてみれば世界によってレベルの規定値は違う
世界の上限値によってその意味は変わってくる。
(スキルは・・・たった一つだけか・・・創造)
この場所や鏡や椅子、このステータスボードも
俺が記憶から創造したものか?
馬鹿げたスキルだが卑しくも神と名が付いてるという事か。
「ふぅん」
と、このスキルの価値に思い巡らす。
卑しくも魔神という種族に足るだけのものではあるようだ。
この世界には空気の如く魔素が満ちているのが分かる、
地球には無かったものだ。
此処にあって初めて今の自分も成り立つのだろう。
環境は大事である。。。
此処なら本当に魔法の存在もあるかも知れない。
俺の世代では超能力なら論じられても魔法は絵空事の空想だったが
逆にその発想自体が非現実的だ
俺は今の現実を見据えそんな古い臭い考えが湧きあがってくるのを笑った。
(今は現実にある己自身だ。)
意識はどんどん魔細胞化した脳の思考に浸食されていく。
HPが1,000,000ってこれが0になれば死ぬって事か?
魔力が10万、魔法も色々使えるという事なのか?
ふと先程消滅した姿見鏡をもう一度イメージしたら再び出現した。
それは異世界の魔王の城にでもあるような巨大な姿見鏡だった。
歪で繊細な彫刻が為されている。
自分でも思い出せないが嘗て一度目に入っただけの記憶からでも引っ張り出されたとでも考えておこう。
玉座に座った俺が映る。
それはまさに異世界転生やファンタジーの世界に登場する魔王や魔人、悪魔の王の其れであった。
安直だがラスボスとでも例えるしかない姿だ。
(自分に対し恐ろしい姿と言うのは変なものだが最初見た時はヤバかったのだ。人間が見たらショック死するという感覚は伝わらないが。今は違和感を感じずにしっくりくる感じだ)
濃紫色の体にライオンの如く棚引く鬣、その両端に湾曲した大きな角が生えている。
金色に輝く瞳に真っ黒な肉食獣の縦長の瞳が覗き鋭い眼光を放っている。
巨大な胸板と筋肉質の丸太の様な腕は何物をも粉砕するだろう。
口元から二つの牙が僅かに覗いている
確かに魔神というしかないか。。。
「・・・ふふふ」
ひじ掛けに腕を乗せ頬杖をついて鏡を見る姿にどこの聖帝様だよと記憶と重なり笑った。
それ以外は何ら飾りのないシンプルな姿がむしろ余計に畏怖感を漂わせている。
俺は自分がこのまま存在して行けるのか
二度とあんな未来は見たくない、その為には如何なるものよりも強くならなければならないと本能がいっている。
(今の自分の能力や強さが知りたい・・・渇望感)
アドレナリンが強く出て思考がそれに呼応する。
試しに地球にある最強の戦車をイメージすると物質化された物が出てきた。
しかし現れたのは足のサイズ程のチッポケな玩具だった。。。ラジコン?
ちゃんと大きさもイメージしないと駄目なのか?
俺は椅子から立ち上がり、無造作にラジコン戦車を踏み潰した。
お菓子のように脆く崩れさり跡形すら残らない、結構体重はあるようだ
続いてドームの端に立ち両手を広げイメージする、記憶にある戦車は約10m程のサイズである。
今度は目の前に鋼鉄で出来た巨大な戦車がキャタピラ部から徐々に顕現していく。
重量感ある戦車がドーム内に作り出された。電子化されたイメージ通り自動操作も組み入んでみた。
次に俺を攻撃対象に指定する、ドームの対岸に立ち、スタートだ
(万一俺がダメージ受けたらそれを治療する手段も創造出来る筈だろう)
戦車の主砲が俺を捕らえ砲撃と共に爆音が轟く
不思議と何ら脅威が感じられない・・・馬鹿げている。
俺は避けるでもなく正面からそれを受けた。
砲弾が俺に直撃、体から出る瘴気がバリアの役目を果たすが物理的な衝撃が体の真正面に直撃する、、、しかし俺が体制を崩すまでもなかった。
少しばかりの煤が胸元に付着しただけ。
(化け物だな・・魔神・・・・・か)
満足した俺は同時に足に体重を移動させ一瞬で戦車の正面に!
同時に右手に力を入れ戦車をターゲットに振りかぶる
右腕は紫から真っ赤な炎を帯びてさらに青白く光り、
正拳が戦車にぶち込まれた!戦車は当たったところが瞬時に溶け出し直後に衝撃波が襲う
内側から大爆発を起こし爆炎が上がった。
直後、俺は拳に力を込め左腕を右方にあげ斜めに振り下ろす
「ふんっ!」
そのひと振りで爆炎は霧散した。
(これ・・・アカン奴や。。。)
まだ己がどういう存在かも定かではないものの魔神の名に恥じぬだけの
存在ではあるもののようだ。
此処に自覚と共に1柱の魔神が自覚した瞬間である
「なかなか」
俺は当たり前だとばかりに満足して椅子に座り直した
地球上の戦車ぐらいなら素手で破壊することが実証された。
簡単なものだ。
(満足げな自分を客観的見ている)
(力が溢れてくる感覚、内側から爆発しそうな気分が消えない、力に翻弄され好戦的な思考に支配されているのだ)




