279 反撃のようじょ 中
いったん投稿後、本文内容を加筆修正しました。
どうやら敵の主攻撃正面は、俺たちの守備している場所だったらしい。
ようじょの魔法を予感した俺であるけれど、それだけに意識を向けているわけにもいかないのだ。
「魔法弾着、来ます!」
けたたましいブルカ側からの魔法爆発は、はじめ小さな発光点がいくつも存在する程度のモノだった。
それが、ここから見ていると小さいというだけで、実際には恐らく軍馬や兵士の班を一撃て吹き飛ばす威力のあるものだった。
次々に魔法が修道院の施設群に着弾して、たまらず俺たちはその場に身を屈めるしかなかった。
「今のは観測射撃ねっ」
「な、何ですのそれは?!」
「魔法の威力と効果を見定めるための試し射ちみたいなものよ。本番は次の攻撃、どれだけ魔法の種類や効果を修正してくるかね!」
雁木マリの私見に、マリアツンデレジアが叫ぶ様にして質問した。
魔法によって巻き上げられた土煙が収まる。
「敵の発光点確認、複数です総指揮官さま!」
その土埃が収まりきるかきらないかの瞬間、必死で修道院の屋根に張り付いていた見張員が大きくふたたび叫んだ。
彼は魔法攻撃の中でも恐れずに持ち場を死守しているという肝の据わった兵士だが、あんな丸見えの場所でかじりついていて大丈夫なのかと俺は思ったぐらいだ。
だが他人の心配をしている場合ではない。
本当は眼下の視界を遮断する土煙が収まったのだから、謎の魔法爆発が何であるのかを突き止めたかったが、ブルカ同盟軍側の激しい攻撃でそれは叶わなかった。
あわててエルパコとマリアちゃんを引き寄せ、雁木マリと肩を抱いて庇う様にして伏せると、さらにその上に男装の麗人が被さる。
少しでもガレキの破片を防いでくれようとしてくれるのだろうか。
「次が本番なら、かなり大きいのが来るのか!」
「その可能性があります。ご安心くださいご主人さま、命に代えましてもお守りしますのでッ」
「そういうのはいいから! 少しでも姿勢を低くしてやり過ごすわよ。致命傷にならなければ、あたしが治してみせるんだからっ」
けれどもここにいる人間は全員、全裸か半裸だ。
気を回す男装の麗人にマリが注意を加えている様だった。
「弾着、来ます!」
「みんな耐えるんだッ」
従って、次の瞬間に魔法が着弾した瞬間にパラパラと魔法攻撃で四散した小石やレンガの破片がお肌にぶつかるたび、小さな悲鳴があちこちで上がるのだ。
「ご、ご主人さま、ご無事ですか」
「大丈夫だけど、そっちこそ無理をするな。俺は慣れてる!」
「シューターさん苦しいよ、優しく抱いて……」
「あなた、あなた。お尻に破片が」
その次に行われた爆発は倍以上の大きさがあり、その次の次に爆発した時には地鳴りの様な大地と空気を震わせるものが俺たちに衝撃となって襲いかかったのだ。
敵の魔法攻撃は統制射撃によって、射出タイミングをコントロールしているらしい。なのでいったん攻撃が終わると、
「次の射撃までわずかな時間が空くはずよ! もう少しだけ頭を低くして堪えなさいッ」
マリがそう叫びながら家族や部下、仲間たちを叱咤する。
「どうなってるのですの、ええい煙で前が見えませんのよ!」
「攻撃がいったんやんだみたいです総指揮官さま、各員状況報告せよ!!」
永遠にも思えた魔法の断続的な射撃が収まったらしい。
混乱するマリアちゃんにいち早くだれか修道騎士の独りが報告と命令を飛ばしていた。
ようじょは。ようじょはどこだ?!
その気持ちは俺だけではなかったらしい。
「ご主人さま、敵の突撃を開始した重装騎兵集団の半ばで爆発です。先鋒だけが切り離されてなおも突撃を継続中!」
身を乗り出した男装の麗人が、ガレキを盾にするのもわずらわしいという風に大きく周囲を見回しながらそう叫んだ。
声も上ずっていたけれど、胸も上ずっている。ガレキで少々傷物になった褐色お肌の豊かな胸を暴力的に揺さぶりながら報告を続けた。
「あそこでまだ魔法の爆発が見えます! 敵の左翼陣形中盤辺りがかなり混乱している様ですねッ」
「ベローチュ、敵が来ているよ、攻撃に備える?」
「そうしてください。持ち場の指揮官から指示があるまで引き付ける必要がありますが」
そうしておきながら自身の背中に背負っていた矢筒から弓を抜き取ると、足元に数本並べ始めるではないか。
同様にけもみみ奥さんのエルパコも、一歩も引きさがらない覚悟でもって短弓を番え始めた。
「あなた。敵の陣形が混乱しているのですよね?」
「その様ですねマリアちゃん」
剣を抱きしめながら、ふと思い出したようにマリアちゃんが俺に質問をしたのだ。
「軍学書の入門にはこう書かれておりましたの。こういった場合、ここはこの丘から逆落としを敢行して、敵を蹴散らすのがよろしいのではありませんの?」
「駄目よマリア卿、そんな事をしたら態勢を立て直した敵と、斬り込みをしたあたしたちの小集団がまともにぶつかり合って、もみ消されてしまうわ! あくまで軍学書は基礎であって、応用が必要だわっ」
マリアちゃんの提案に、雁木マリが割って入り抗弁した。
戦争のルールブックに書かれているタイミングだと逆落としをするのが正しいらしいが、戦場経験豊富なマリによれば違うらしい。
「けれども敵が混乱の今ならば、逆襲をかける絶好の機会ではありませんの?!」
「むやみやたらと攻撃に出てしまえば、何のために時間を割いて兵士を割り振ったのかわからないわ! ここに敵を引きつければ、連中をキルゾーンに誘い込む事が出来るわ。シューター、お前も何とかいいなさいよっ」
ふたりの奥さんと婚約者が顔を突き合わせながらそんな口論をしているわけである。
俺としては咄嗟の事で、どちらの意見も正しいし、どちらもリスクがある事はわかるけれども判断がつきかねるという顔をしてしまった。
そうしている間にも爆発は何度も起きている様で、破壊された教会堂の屋根から見張を継続していた物見の兵士が叫んだのだ。
「敵の爆発連鎖、大きく敵陣形の中を駆け抜けていますっ。あっ騎士が魔法を使っていますよ、あれが原因だ?!」
その叫びに釣られて、豊かな熟女っぱいと断崖絶壁を突き合わせて口論していた家族のふたりも、戦場の彼方で起きている出来事に視線を向けた。
ようじょではなくて、騎士が魔法を使っているのか?
「するとあのフィジカルマジカルな魔法爆発は、ようじょ以外がやっているのか……」
食い入るように眼下を見つめて、件の騎士の姿を探し求める。
どういうわけか近頃ますます遠目が効く様になってきた俺でも、どうにか騎士の走り回る姿を発見する事が出来た。
軍馬に跨り、どうやらブルカ騎士の格好をした黄色いマントの騎士さまが、右に左にとビームを発射しながらジグザグに自陣を駆け抜けているのだ。
確かにようじょではなかった。
だがおかしい。どうしてブルカ騎士がそんな裏切り行為をするのか。
「い、今は争っている時では無かったわね。マリアツンデレジア卿ごめんなさい」
「そ、そうですの。軍事的な判断についてはシューターさまに全てお任せしているのでした。あなた、ご決断を」
ひとまず奥さんたちの言い争いも後回しだ。
俺は騎士が右に左に暴れて走り回っている姿を追いかけながらも、ようじょを探し求めた。
俺は何となくようじょが大火力魔法を使ったと思ったからだのだが、
「ようじょは、他の場所にッヨイさまの姿は見えないかっ」
「わかりませんシューター閣下、養女さまらしき幼女のお姿は……」
俺はたまらず屋根の上の見張員に問いかけたところ、そう返事が返ってきたのだ。
「いないというはずはないわ! あれほどの強力な大魔法を使えるのは、あたしたち盟主連合軍にはマドゥーシャとドロシア卿を除けばッヨイしかいないもの! 騎士の背中にッヨイがいるとか、そういう事はないの?!」
「し、しかしあの魔法で暴れている騎士さまは、明らかに大人の女性ですよ! 軍馬に乗っているのは騎士ひとりだけですっ」
納得できないという風な雁木マリに、見張員は見たままを報告してくれたのだ。
けれども次の瞬間。
「敵の陣地から発光点です。魔法攻撃来ますッ、いや狙っているのは魔法を乱射している女騎士に対してです!」
誰かの報告を尻目に、丘を必死で登り上がってこようとしていた敵に矢をいかけていたけもみみが反応した。
けれどもそうしながらも、遠くまで見渡せる力のある猟師らしく、その女騎士の正体をどうやら見抜いたらしいのだ。
「シューターさん。あれ、女領主さまみたいだよ!」
「えっ、アレクサンドロシアちゃん?」
「アレクサンドロシアさまにぼくには見えるな。両手で魔法を使いながらこっちの方角に向かってきているよっ」
そう言いながらも弓を構え、近付く敵に矢を射放つエルパコである。
俺も近くに転がっている大きなガレキの破片を拾って坂の下に迫る敵兵に投げつけてやった。
キルゾーンになっている場所に次々とブルカ側の駆け上がってきた兵士たちが飛び込んでいくと、そこめがけて修道騎士たちのファイアボールやウォーターボールが、複数射打ち込まれる。
あわれブルカ側の兵士は吹き飛ばされて転げ落ちていった。
「アレクサンドロシアちゃんは森の中に退避したんじゃなかったのか! だとマリが言う通りフィジカル・マジカルできるのはようじょだけって事に」
「けど、エルパコ夫人にはあれがドロシア卿に見えたんでしょ?! でもおかしいわ、ドロシア卿のわりに、何だか手綱さばきが怪しいものっ」
踏み上がって来た兵士の頭に石を投げつけてやりながら、雁木マリがそう説明した女騎士に視線をふたたび合わせるのだ。
確かに金色に近い茶髪はようじょやドロシアちゃんの様にも見える。
けれど暴力そのものの様に魔法をあちこちに射ちまくっている騎士は、ただ馬が暴れるのに任さている様にも見えるのだった。
すると両手で四方八方にファイアボールを射出していた魔法使いの騎士は、両手で大きく印を踏むような姿勢を馬上でして見せる。
その直後に進路の先に向かって大火力の紅蓮を現出させたのである。
それは普段、ようじょや女魔法使いが使っている大火力魔法よりも、遥かに強力で被害半径の大きい紅蓮だった。
「あっ!」
俺たちはその紅蓮の魔法に素直に驚いた。
けれども、気が付けば軍馬から転がり落ちそうになる女騎士である。
そうするといつの間にか俺は剣を背中から引き抜いて、小高い丘の坂を駆け降りていたのだ。
あの魔法使いの騎士が誰であるかはこの際問題ではない。
アレクサンドロシアちゃんか、ようじょか、はたまたそれらの親戚か、誰でもいいから助け出さなければならないと確信したのだ。
あんな危うい馬術では、今助かっても次がない。
「えっシューターさん?!」
「シューターあなた何をやってるの! 各員、接争用意。逆襲よあたしに続けッ」
「ご主人さまを救え、妖精剣士隊前へ!!」
真っ向正面に刃広の剣を振り上げながら、迫りくるブルカ同盟軍の兵士を斬り伏せて。
段取りを滅茶苦茶にしながらも、俺は敵軍の只中へと踊り出したのである。




