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子どもなんか大っっっ嫌い! なので史上最悪の継母目指します  作者: 木山花名美


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2 史上最悪の継母目指します

 

 耳をつんざくブレーキ音と、ヘッドライトの強烈な光が脳内に甦る。

「どうかされましたか?」という声にハッと前を見れば、美しい花婿がカリーナを見下ろしていた。

 カリーナが小声で「いえ」と答えると、花婿は神官に目配せをする。ぼんやりするカリーナをよそに、式は粛々と進んでいった。



 あれからずっと上の空だったカリーナだが、なんとか大きな失敗もなく、無事に結婚式を終えることができた。

 休憩とお色直しのために控え室へ戻ると、窮屈なドレスを脱がせてもらい人払いをする。カリーナは下着姿のまま、ソファの背にだらしなくもたれかかり、生まれ変わりについて考えを巡らせていた。


 前世を思い出したことで、今まで当然のように過ごしていた今世に様々な疑問が湧き起こる。

 まず、この中世ヨーロッパふうの世界は何なのか。前世では実在しなかった国だし、魔法なんかもあるし、そもそも地球ではないどこか別の惑星《ほし》なのだろうかと。惑星《ほし》があるなら宇宙も存在するのだろうか、存在しないとしたらこの世界は一体……と考えたところで、頭が痛くなり止めた。


 前世と今世。複雑に絡み合う記憶の中で、カリーナはすっと腑に落ちたことがあった。

 今世で義理の母が弟を産んだ時、なぜ赤ちゃんを見ても可愛いと思えなったのか。それは前世で、長女として下の子たちの世話を強制されたことや、保育士として散々苦労してきたつらい記憶が原因ではないだろうかと。

 出産を終えた義母に労りの言葉をかけられないどころか、小さな弟まで拒絶するようなカリーナの態度は、家族に悪い印象を与えたに違いない。実際、義母がカリーナに対して一段と冷たく当たるようになったのは出産後からだった。


 それともう一つ。嫌われたり悪口を言われるのはつらかった一方で、無視をされたりいないものとして扱われることは、それほど苦ではないとカリーナは感じていた。

 むしろ楽だとすら思うこともあったのは、たまには一人になりたいという前世の願望からだろう。


 そもそも、カリーナ……也華は子どもが好きなわけではなかった。

 長女だから仕方なく世話をするしかないし、育児にしか自信がないからという安易な考えで保育士になってしまっただけだ。

 いざ保育士として働き、他人の子どもと四六時中接したことで、好きではないどころか嫌いかもしれないと自覚し始めた。

 さらにはモンペな親たちや、親たちにだけいい顔をする園長ら上司のせいで、子どもを嫌うどころか大嫌いになっていったのだ。


 カリーナはソファから立ち上がると、両手に拳を作り、すうと息を吸い込む。前世では言えなかった黒い言葉に絡めると、息と一緒に思いきり吐き出した。


「あ~の~さ~あ! あんたらの子が主役になれないのは、あんたらの子の演技が下っっっ手くそだからだよ! オーディションすることは事前に告知してんだから、本気で受かりたいなら家でもっと台詞の練習してこいっつうの! てかさ、この世は競争社会なんだよ! じゃんけん? 平等に? バカ言ってんじゃねえ! 負けても這い上がれるように、子どものうちから耐性付けさせるのが親の仕事だろうが! ……ああ? 今は令和だ? むしろ、令和だからだよ! 人間どころかAIに仕事奪われる大変な時代に、甘ったれた育児してんじゃねえぞ!

 そもそもそんなに不満があるなら、園に預けず自分で育てろ! 自分の子の尻と鼻水くらい自分で拭きやがれ!」


 ──はあはあと息を切らし、カリーナはソファに戻る。ごろんと寝転がり、中世ヨーロッパふうの高くて煌びやかな天井を見上げながら、ぽつりと呟いた。


「私……今世も子育てしなきゃいけないの?」


 待ち受ける結婚生活を悲観し、勝手に涙が溢れてくる。

 夫に愛されないのも捨てられるのも構わない。けれど育児だけは絶対に絶対にしたくないと、カリーナは子どもみたいに手足をジタバタさせた。


 結婚式で初めて会ったこの家の子どもたちは、明らかに自分を歓迎していなかったとカリーナは思う。七歳の公子はカリーナを睨みつけていたし、四歳になったばかりの公女は、カリーナと目も合わさず侍女の背中にさっと隠れてしまった。

 あんな難易度が高そうな子たちを手懐けろと? めんどくさっ! と、考えるだけで逃げ出したくなる。


 ふと、カリーナはあることを思いつき、暴れていた手足を止める。


(そうだ。どうせなら最悪の継母になってやろう。そしてさっさと追い出されてしまおう)


 育児をするくらいなら一文無しで放り出された方がマシだと、カリーナは本気で思っていた。


 カリーナはまたまた立ち上がると、大きな姿見へ近づく。ピカピカに磨かれた鏡面に映るのは、長い手足がニョキッと生えた身体に、目尻がキュッと吊り上がった威圧感たっぷりの黒い瞳の女。片手を腰に当て、もう片方の手で長い黒髪をパサリとかき上げてみれば……なんと、おとぎ話に登場する、魔女っぽい継母そのものではないか。

 白雪姫にシンデレラ。どんな物語の継母にも負けぬ最恐の容姿を授けてくれた母に、カリーナは初めて感謝した。

 そうだわ! これからドレスは黒、紫、赤の三色展開で作ってもらいましょう。宝石をギラギラさせて、化粧もうんと濃くして……と考えれば、何だか楽しくなってくる。侍女に声をかけられるまで、カリーナはうっとりと自分に見惚れていた。



 ◆


 結婚式の翌日、ベッドのど真ん中で爆睡していたカリーナは、昼過ぎになってやっと目を覚ました。

 式の緊張や、前世を思い出したことによる衝撃やらで、相当疲れていたらしい。

 結婚二日目の花嫁ということで特にお咎めはなかったが、夫になったリュシアン・スカルタ公爵の姿は既に寝室にはなかった。

 もうこんな時間だもの。当然よねと、欠伸を噛み殺すカリーナを、侍女たちがせっせと綺麗にしていった。


 実家のルンベルト侯爵家と比べて、公爵家《ここ》の使用人たちは皆親切だった。何も言わなくても洗面用のぬるま湯が用意されているし、身支度も手伝ってくれる。

「皆様はお先に昼食を終えられていますので、奥様はお部屋でゆっくりお召し上がりください」と、丁寧に食事まで運んでくれた。

 何より驚いたのは、彼女たちの言葉や顔に、カリーナに対する悪意や軽蔑の色が少しも見られないことだ。

 こんなに至れり尽くせりでは、最悪な継母になるのが申し訳なくなってしまうではないかと、カリーナは内心ため息をつく。胸をちくりと痛めながらも、美味しい昼食を心ゆくまで味わった。



 その夜、カリーナは夕食を摂るため食堂へ向かっていた。

 初めて家族四人で摂る食事。あの敵意剥き出しの子どもたちと顔を合わせなければならないと思うと気が重かった。


 食堂には、既にリュシアンと子どもたちが揃っていた。今持っているドレスの中では、一番継母らしい濃紺のタイトなロングドレスを着たカリーナは、ピンと背筋を伸ばし自分の席へ着く。

 上座にはリュシアン、前には二人の子どもたち。公子は相変わらずカリーナを睨みつけているし、公女は怯えて目を伏せている。

 カリーナも負けじと公子を睨み返していると、リュシアンがこほんと咳払いをし、公子へ挨拶を促す。すると公子はカリーナへ向かい、七歳とは思えない生意気な口調でこう言った。


「目下の者に、こちらから挨拶などできません。カリーナ・ルンベルト侯爵令嬢、あなたの方からどうぞ」


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― 新着の感想 ―
「あ~の~さ~あ!」からの叫びに溜飲が下がりました。笑 「小説」だから言えますよね、これ。。。(>▽<)
也華さん、保護者ガチャ大失敗で気の毒になりました。普通、オムツトレーニングまでしてくれる保育士さんたちに感謝こそすれ文句なんていえないですよ。 あと、幼児だからこそ演技に差がでるんです。遺伝による地…
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