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子どもなんか大っっっ嫌い! なので史上最悪の継母目指します  作者: 木山花名美


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1 良き母親とは?

挿絵(By みてみん)

 

「カリーナ・ルンベルト嬢。私があなたに求めるのは、二人の子どもの良き母親になってもらうこと。それだけだ」


 男は、初夜の寝室で花嫁にそう言った。

 何も答えず、薄い夜着姿でぽかんと口を開ける妻に向かい、男は淡々と先を続ける。


「事前に話していた通り、私はあなたと本当の夫婦になるつもりはない。子どもたちの良き母親になってくれれば、あなたを妻として認め、それなりの生活を保障……」

「良き母親って何ですか?」


 食い気味に問う妻に、男は眉をひそめる。以前結婚の条件を確認する際に一度会った時とは、女の印象がずいぶん異なると感じていたからだ。

 こちらが死ねと言えば、本当に死んでしまいそうなほど弱々しく従順だった令嬢が、結婚式を挙げ正式な夫婦になった今では──


「ちょっと! 聞いてます? 眠いのでさっさと質問に答えてほしいんですけど」


 ──そう、かなり生意気だった。

 これは案外、厄介な結婚生活になりそうだと男は身構える。最初が肝心だ、舐められては困ると、ふわあと欠伸をする妻へ冷たく答えた。


「子どもたちを立派に育て上げろ。公子は将来の公爵として。公女はどこぞの王族へ嫁がせても恥ずかしくないように」

「ええ~それは家庭教師や、マナー講師のお仕事でしょう? 専門知識のない私が、貴いお子さん方に対してそんな責任持てませんよ」

「……直接教えろと言っているのではない。子どもたちがきちんと教育を受けられるように、気を配れと言っているのだ」

「気を配るって?」

「それは……いろいろあるだろう。子どもの体調を気遣ったり、悩みを聞いたり」

「それが良き母親なんですか?」

「そうだ」


 やっと理解したかと、威厳たっぷりに見下ろす男を無視し、妻はさっきよりも大きな欠伸をする。


「ふわあぁぁ~……。お約束はできませんが、心がけてはみます。では、もう睡魔の限界なので。おやすみなさい」


 妻はそう言うと、会話を遮断するように、頭まですっぽりと布団に潜り込む。

 ベッドのど真ん中でたちまち寝息を立てる妻をどうすることもできず、男はベッドの隅に遠慮気味に身体を横たえた。



 ◆


 ──カリーナ・ルンベルト侯爵令嬢。

『ルンベルト侯爵家の忘れられた長女』と囁かれている彼女は、望まない政略結婚により、ルンベルト侯爵と前妻との間に授かった子どもだった。

 前妻が病で亡くなると、侯爵は待っていましたとばかりに、妊娠していた愛人を後妻に迎え入れる。やがて後妻が跡継ぎとなる長男を産むと、カリーナは『大事ではない子』になり、後妻にそっくりの愛らしい妹たちが生まれた頃には、完全に『要らない子』になっていた。


 前妻譲りの地味な黒髪と黒い瞳。そして普通の女性よりも頭一つ分高い長身のカリーナを見るたびに、父親は嫌な顔をした。

 金髪碧眼の華やかな美貌と華奢な身体を誇る後妻は、黒くて大きいカリーナを魔女みたいだと罵り、腹違いの弟と妹も母同様に姉を馬鹿にした。

 使用人たちも、誰一人としてカリーナを主として扱う者はおらず、時には洗濯や食事すらも忘れられることがあった。


 暴力こそ振るわれないが、いないものとして扱われることが増えたカリーナは、息を潜めてひっそりと暮らすのに慣れていった。古いドレスで適当にデビュタントを済ませたきり、社交界に顔を出すこともなく、青春を謳歌する弟妹を遠いところから眺めていた。


 結婚適齢期を過ぎた二十二歳になった時、侯爵はカリーナに縁談を持ちかけた。

 相手はルンベルト侯爵家よりも格上のリュシアン・スカルタ公爵。リュシアンの兄である前公爵が亡くなり、甥の公子が跡を継ぐまでの中継ぎの公爵だ。

 独り身では、幼い公子と公女の育児に不安がある。求めているのは妻ではなく母親のため、若い少女ではなく、かつ体力の衰えていない二十~四十歳までの高位貴族の女性がいい。その条件に当てはまる女性で未婚なのは……

 この国では病人を除き、カリーナ一人だけだったのだ。


 カリーナが返事をする前に、侯爵は先方から莫大な支度金を受け取っていたため、ほぼ強制だった。

『二人の子どもを育て上げた後は、離婚も可能だ。その際は充分な慰謝料を支払ってくださるそうだし、独り身になっても何も心配はいらない』

 そんな残酷な言葉を実の父にかけられても、カリーナは黙って頷いた。

 どのみちここにいても良い縁談は来ないだろうし、影のように暮らしていくだけ。そうして無駄に歳を重ねていくならば、今すぐにでも誰かの役に立ちたいと考えたからだ。



 数カ月後、カリーナは純白のドレスをまとい神殿に足を踏み入れた。

 肌に触れる最高級の絹ですらザラついて感じるのは、彼女が極度の恐怖と緊張の中にいたからだ。

 祭壇の前に立つのは、純白の礼服を着た若き公爵。結婚が決まってからたった一度きり、結婚生活の条件を確認するために会っただけの他人だった。


 ベール越しでも輝いて見える、王家の血を引く希少な銀髪と、夜空を思わせる深い藍色の瞳。さらに彫像のように整った公爵の目鼻立ちは、『美』を通り越して恐ろしくさえあるとカリーナは震えていた。


 唯一の盾であるベールをめくられ、その美貌を直視した瞬間、カリーナは思い出した。

 こことは全く違う世界で生きていた、前世の自分を──




 令和の日本。貧しい家庭の八人兄弟の長女として生きていたカリーナこと也華《なりか》。

 年子の弟ができたその日から、思う存分親に甘えることはできなくなった。

 弟妹の世話をすることは当たり前。むしろ一番自信があるのは育児。ならばそれを仕事にしようと保育士の資格を取り、就職したのはブラックな保育園だった。正確に言うと、保護者には非常にホワイトで、保育士には限りなくブラックな職場である。休憩時間ほぼなし、残業は当たり前、どんなにモンペな保護者も神様扱いしなければならなかった。


 ある日、お遊戯会の配役のことで保護者から責められ、既に衣装制作に取りかかっていた也華は焦った。園長からも、なぜもっと配役決めに配慮できなかったのかと責められ落ち込んだ。


 担任を受け持っていた年長組のお遊戯会。保育園最後のお遊戯会ということで、一人一人が長い台詞に挑める演目を選んだ。だが、台詞量は『平等』ではない。必然的に、主役の園児は見せ場も多くなる。

 主役をやりたいと希望する園児が多かったため、也華はオーディションで配役を決めてはどうかと園に提案し、一番演技が上手だった園児が主役に決まったのだが──

 保護者から猛反発が起きてしまった。


『うちの子、オーディションに負けたって落ち込んでるんですけど! じゃんけんで公平に決めればよかったじゃない!』

『幼児なんて、大して差はないでしょう!? 何を基準に審査したの? 贔屓じゃない?』

『そもそも主役のない演目を選ぶべき! 令和なんだからみんな平等に!』


 主役に決まっていた園児の細身な体型に合わせて縫っていた衣装を、也華は鞄に突っ込み保育園(職場)を後にする。

 事前にオーディション開催を承諾し、一緒に主役を選んだにもかかわらず、一保育士に全ての責任をなすりつけようとする園に也華は辟易していた。

 たった一人で保護者たちとどう向き合うか、どう対処しようかと悩みながら歩いていた夜の帰り道で、事故は起きてしまった。


*バナー作製 幻邏さま*

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― 新着の感想 ―
ああ! なんか『死体』を彷彿とさせる展開。。 死体じゃなくて死んでから転生してるけど……。 ぜひ幸せをつかんでいただきたいものです。
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