第16話
明紅は皇太子として過ごしていた。
念言術で時折朱亮と皇太子本人とやりとりをしながら状況を共有する。
調子が悪いからと寝室にこもり、誰とも関わることなく翌日を迎える。
おかげで正体に違和感を与えることなく過ごせていた。
朝議の行われる場所へと向かい、席に着いた。
皇帝がやってきて朝議が始まった。
武器はすべて取り上げられている。しかし、明紅には武器があろうがなかろうが関係なかった。
朝議が始ってしばらくしていたころ、明紅は立ち上がった。
全員の視線が明紅に向かう。
しかし、堂々と歩きながら皇帝の前へと向かった。
「皇太子殿下」と、皇帝の護衛が制した。
そして、明紅は腕をひとつ振った。
護衛の首から血しぶきが上がり、朝議の中がざわつき始める。
護衛をまたいで皇帝の前にやってくると、皇帝がなにを言うまでもなく腕を振った。首が飛んでいく。首のない体が椅子から滑り落ちる。
「己……己、やりやがったな!!」
皇帝が首だけになりながらも叫び始めた。
カタカタと震える体のない皇帝を見て、明紅は静かに言った。
「化け物は黙れ」と。
続々と現れた護衛の官が明紅を取り囲む。
明紅は朝議に集まった者たちに向け、「次の皇帝は私だ!」と叫んだ。
そう叫ぶ予定はなかったが、皇太子が戻りやすくするためだった。
もちろん、皇帝になるつもりはないとあの皇太子は言っていたが、皇位継承権1位は皇太子だ。少しの間でもなってもらわないと面倒だ。
明紅こと皇太子の声で、皇太子を皇帝へと上げたがっていた高官たちは「おおお!!」と大声を上げた。
宮殿に戻ると、皇太子は“皇帝陛下”となっていた。
あとの始末はやるつもりはなかったので、明紅は一人になると朱亮に皇太子を連れてこいと頼む。やってきた皇太子は文句を言った。
「私は皇帝になるつもりはないと言っていたじゃないですか」
「では、お前は罰せられたいのか」
「……」
黙り込んだ皇太子と服を交換し、同じ位置に血しぶきの赤色をつけた。
「では、あとは頼むぞ。これで祈祷の依頼は完了させた」
「はい。ありがとうございました」
明紅は朱亮と共に自分たちの住まう妖鬼界へと戻った。
そして、清陽の元へと報告にあがる。
「──と、いうことになりました」
「この件を継続して調査するかどうかは紅陽に任せるよ。どうする?」
「もしなにか動きがあれば調査します。それまでは特に」
「分かった」
「では」
頭を下げて拱手をしたとき、「紅陽」と突然呼び止められる。
「はい」
「君は殺しをした。少しの間修練に出かけなさい」
「……しかし」
「紅陽、命令だ。化け物だろうが悪鬼だろうが、殺しは殺し。殺すことに慣れてはいけない。しばらくの間俗世から離れるように」
「……承知しました」
清陽の言葉は絶対だ。
明紅は膝を床につけると拱手をし「明日、出発いたします」と伝えた。




