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妖狐と亡国の皇太子は謎を解く  作者: 犬村汐里


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第11話




 向かい合った状態で睨んでいると、明櫻は言った。



「私があなたになにかしましたか? 我が当主はあなたになにかしましたか?」と。


「……嫌いなだけだ」



 そう、嫌いなだけなのだ。


 明紅は悪鬼王が嫌いだ。善良な鬼ではない。


 ただ、住まう妖鬼界においては絶対悪ではない。悪鬼王と呼ばれるのは、悪鬼を取り仕切っている存在だからという理由がある。悪鬼王は悪鬼の中でもだいぶ善良と呼ばれている。しかし、それは悪鬼のなかに限った話だった。



「では、仲良くしませんか? あなたが調べていることになにか助言ができるかも。我が当主が関わっているのでしょう?」



 明紅は小さくうなずく。その手を拒絶するほどではないからだ。



「なにを調べていたのですか?」


「裴一族は悪鬼王と契約しているのか?」


「しています」


「なぜ?」


「あなたのところは祈祷があれば『嫌です』と拒絶しますか?」



 その答えを聞いてたしかに、と頷いた。それならば悪鬼王の性格とも辻褄があう。

 


「ありがとう」


「いえ。とんでもない」



 そう言って「では」と言い立ち去る。すると、後ろから「ああ、紅陽殿」と声をかけられた。静かに振り返ると、彼は言った。



「あなたの父上はどんな人なのですか? 私に似ていますか?」


「……ああ、似ている」


「そうですか」



 明櫻は小さな笑みを浮かべ、そしてその場から消えた。


 父とよく似たこの男。


 何者なのか。似ているのはなぜなのか。


 母方の誰かの血縁者であれば似ていても頷ける。それとも──。



 明紅は受付まで戻ってくると、その近くで朱亮が待っていることに気が付いた。


 朱亮がにこにことした明るい懐っこい笑みで迎えてくれる。しかし、明紅の心はむず痒いものがうずいていた。



「兄さん、終わりました。あの一帯を守護している神に依頼しました」


「ありがとう」



 それだけを伝えたとき、朱亮は眉間を寄せる。



「どうかしたのですか?」


「いや……悪鬼王の手下と会った」


「悪鬼王の手下? こんなところに入れるのですか?」


「入れる。しかし……」



 言うか言うまいかで悩んだが、明紅は「月明櫻を知っているか」と聞いた。



「いいえ。そいつの名前が月明櫻だったのですか?」


「うん」


「少し調べてみましょうか」


「……いや、あれは多分……いや、これは戻ってから話そう」


「はい」



 そう言って二人で妖鬼界にある執務室へと戻った。


 執務室にある席に腰を下ろし、筆を取る。そして、清陽から始まる家系図を簡単に書き始めた。



「あの男は月明櫻という名前だった。月という名前は悪鬼王の配下になったものが持つ名前だ」


「明櫻という名前が名だとすると……明櫻……もしかして……ちょっと待ってください!」



 朱亮が突然執務室から出て行った。


 一瞬ぽかんとしていたが、なにかに気が付いたのだろうと思い、帰りを待つ。それほど待たぬうちに朱亮が戻ってきた。



「これ、これですよ」



 朱亮が持ってきたのは清陽を初代とし、清陽の第7子の直系子孫の家系図だ。この家には明の名字を持つ清陽をはじめとする一族の家系図がある。


 巻物を最後まで開くと、朱亮は一つの赤文字を指さした。赤文字は鬼籍に入ったものを指す。要するに、死んでしまったものである。



 その文字を読んだ瞬間、鳥肌が立った。



「明櫻……」



 その名を読み上げ、死んでしまった年を見る。まだ6歳という若さのときに亡くなったらしい。しかし、今鬼として明紅の目の前に現れた。



「なぜ死んだ? 父親は……」



 家系図の線をなぞっていけば、明紅の父親と繋がっていた。

 もし、この鬼籍に入った明櫻があの男であれば、あの鬼と明櫻は異母兄弟だ。



「……なぜうちの一族から鬼が出ているんだ」


「おそらく……」と朱亮が言ったとき「分かっている」と話を遮った。



 どうして鬼になったのかなど分かっている。死んだとき、ただならぬ恨み、悔しさ、府の感情があったのだ。そして鬼になった。


 明紅は家系図の書かれている巻物を持って清陽のところに向かった。




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