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第八話 小さな約束【後編】



王妃様は、嬉しそうに微笑まれた。


「せっかくですもの。今日もお庭を歩いていらっしゃい。」


「はい。」


私たちは揃って返事をした。


王宮の庭園は、前回訪れた時よりも、少しだけ緑が濃くなっていた。


春風が木々の葉を揺らし、小鳥たちのさえずりが心地よく響いている。


「今日はね。」


歩き始めると、エリアス殿下が嬉しそうに口を開いた。


「リリアーナに見せたい場所があるんだ。」


「私に……ですか?」


「うん!」


「こっちだよ。」


そう言って歩き出したエリアス殿下の後を、私はゆっくりとついて行く。


しばらく歩くと、小さな噴水のある広場へたどり着いた。


澄んだ水が陽の光を受けてきらきらと輝いている。


その周りには色とりどりの花々が咲き、優しい風に揺れていた。


「きれい……。」


思わず声がこぼれる。


「でしょう?」


エリアス殿下は、どこか誇らしげに笑った。


「僕、この場所が大好きなんだ。」


「だから、リリアーナにも見てもらいたくて。」


その言葉が、とても嬉しかった。


「ありがとうございます。」


「私も、この場所が好きになりました。」


エリアス殿下は照れくさそうに笑う。


二人で噴水を眺めながら歩いていると、不意に一羽の小鳥が近くの柵へと舞い降りた。


「こんにちは。」


私が小さく挨拶をすると、小鳥は返事をするように可愛らしく鳴いた。


思わず二人で笑い合う。


穏やかな時間が、ゆっくりと流れていった。


やがて大きな木の下のベンチへ腰を下ろす。


優しい木漏れ日が降り注ぎ、春風が頬をなでていく。


しばらく沈黙が続いたあと、エリアス殿下がぽつりと口を開いた。


「リリアーナ。」


「はい。」


「今度は……リリアーナのお家にも行ってみたい。」


思いがけない言葉に、私は目を丸くする。


「私の家へ……ですか?」


「うん。」


「リリアーナが暮らしているお家も、お庭も見てみたい。」


その真っ直ぐな言葉に、自然と笑みがこぼれる。


「もちろんです。」


「ぜひ、お越しください。」


「本当?」


「はい。」


「お父様もお母様も、きっと喜ばれると思います。」


エリアス殿下はぱっと顔を輝かせた。


「やった!」


その無邪気な笑顔に、私もつられて笑ってしまう。


「約束だよ。」


そう言って、小さな指を差し出してくる。


私は少し驚いたあと、優しく微笑んだ。


「はい。」


「約束です。」


そっと小指を重ねる。


幼い二人だけの、小さな約束。








✳✳✳✳✳




「エリアス。」


優しい声が聞こえ、振り返ると王妃様とお母様が歩いて来られていた。


「そろそろお別れの時間よ。」


「はい、母上。」


少しだけ名残惜しそうに返事をするエリアス殿下。


私も立ち上がり、静かに一礼した。


「本日もありがとうございました。」


「こちらこそ、ありがとう。」


エリアス殿下はにっこりと笑う。





「今度は僕が遊びに行くね。」


「はい。」


「楽しみにお待ちしております。」


馬車へ乗り込む前、私たちはもう一度だけ振り返った。


エリアス殿下は、大きく手を振っている。


私も笑顔で手を振り返した。






馬車がゆっくりと王宮を後にする。


私は窓の外を眺めながら、小さく微笑んだ。


(次は、私がお迎えする番ですね。)


あたたかな風は今日も優しく吹き抜け、幼い二人の小さな約束を、そっと未来へ運んでいくのだった。

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