第七十六話 幼馴染だから
昼休み。
リリアーナは中庭のベンチに腰掛け、穏やかな時間を過ごしていた。
「ここにいたんだ。」
聞き慣れた声に顔を上げると、エリアスが立っていた。
「エリアス様。」
「隣、いいかな。」
「もちろんです。」
エリアスは隣へ腰を下ろした。
二人の間には、沈黙さえ心地よく感じられる空気が流れる。
幼い頃から一緒に過ごしてきたからこその距離感だった。
「学園が始まって、少し落ち着いた?」
「はい。皆様とまたお会いできて、とても嬉しいです。」
「私もだ。」
柔らかな笑みを浮かべながら、エリアスは続けた。
「社交界デビューの準備は順調?」
「少しずつですが……。覚えることがたくさんあります。」
「焦る必要はないよ。」
穏やかな口調は昔と変わらない。
「私もこの冬は外交の仕事が続いていてね。最初は慣れないことばかりだった。」
(……私。)
リリアーナは小さく目を見開く。
以前のエリアスなら、「僕」と話していた。
けれど今は、ごく自然に「私」と口にしている。
それだけ多くの経験を積み、王太子として歩み続けてきたのだろう。
「どうした?」
優しい声に、リリアーナははっと我に返る。
「いえ。」
ふっと微笑み、口を開いた。
「本当に、素敵な王太子殿下になられましたね。」
エリアスは少し照れたように笑う。
「ありがとう。」
そして肩の力を抜くように続けた。
「でも、リリアーナは私の小さいころを知っているからな。あまり格好つけられないな。」
その一言に、リリアーナは思わず笑みをこぼした。
「ふふ。なんだか幼いころのエリアス様は、返事に『うん』と言ってしまって
慌てていらしたことを思い出してしまいました。」
エリアスは苦笑する。
「そんなこともあったね。」
「ございました。」
「忘れていてくれてもよかったんだけど。」
「無理です。」
即答すると、二人で顔を見合わせて笑った。
あの頃と変わらず笑い合える私たち。
リリアーナは、そのことが何よりもうれしかった。




