第七十四話 春の足音
冬の厳しい寒さも和らぎ、街には少しずつ春の気配が漂い始めていた。
道端に積もっていた雪は日差しを受けて溶け始め、屋敷の庭では木々の枝先に小さな芽が顔を覗かせている。
長かった冬季休暇も終わりを迎え、今日は学園の新学期初日。
リリアーナは鏡の前で身だしなみを整えると、小さく微笑んだ。
「……久しぶりですわね。」
学園へ向かえば、また皆に会える。
そんなことを思うだけで、不思議と胸が弾んだ。
クララが制服の襟元を整えながら微笑む。
「お嬢様、お支度が整いました。」
「ありがとう、クララ。」
リリアーナは軽く頷くと、机の上に置いてあった鞄を手に取った。
「皆様も、お元気でいらっしゃるでしょうか。」
冬季休暇の間、それぞれがどのように過ごしていたのか気になる。
オリヴィアは家族との時間を楽しんでいただろうか。
セレナは相変わらず明るく過ごしていたに違いない。
フィンとセドリックは、きっと鍛錬に励んでいたことだろう。
ヴィンセントは書物に囲まれ、夢中で研究を続けていたかもしれない。
そして――。
ふと、一人の姿が思い浮かぶ。
エリアス様。
あの日、冬季休暇を迎える前に交わした何気ない挨拶。
また新学期に。
ただそれだけの約束だったはずなのに、不思議とその日を待ち遠しく感じていた。
「行ってまいります。」
「いってらっしゃいませ、お嬢様。」
クララに見送られ、リリアーナは屋敷を後にした。
馬車の窓から見慣れた街並みを眺めながら、王立学園へと向かう。




