第七十三話 それぞれの冬〜ヴィンセント編
「なるほど……そういうことか。」
静かな部屋に、ヴィンセントの声だけが響く。
机の上には、積み重ねられた書物と書きかけの紙。
冬季休暇に入ってからというもの、気になっていた文献を読み返す時間が増えていた。
一冊を閉じると、すぐ隣の本へ手を伸ばす。
「この説とこちらの記録……年代は違うけれど、内容はよく似ている。」
思いつくまま羽根ペンを走らせ、余白へ次々と書き込んでいく。
しばらく夢中になっていると、控えめなノックが聞こえた。
「ヴィンセント様。」
執事が部屋へ顔を覗かせる。
「お茶をお持ちしました。」
「ああ、ありがとう。」
礼を言いながらも、視線は書物から離れない。
執事は苦笑しながらカップを置くと、小さく咳払いをした。
「……お茶が冷めてしまいますよ。」
「え?」
ようやく顔を上げたヴィンセントは、目の前の紅茶を見つめて瞬きをする。
「あれ……いつ持ってきてくれたんだい?」
その一言に、執事は思わず笑みをこぼした。
「たった今でございます。」
「そうか。それなら、温かいうちにいただこう。」
カップを手に取ったヴィンセントは、一口飲んでほっと息をつく。
「……やっぱり、考え事には紅茶が合うね。」
そう呟くと、再び机へ向き直った。
次に手に取る書物は、もう決まっている。
冬休み…
大好きな書物に囲まれて幸せなヴィンセントであった。
一口飲んだだけのお茶はすっかり冷めていた




