第六十五話 寄り添う色
土日はたっぷり更新します!宜しくお願い致します。
王宮の執務室。
机に積まれた書類へ目を通し終えたエリアスは、小さく息をついた。
「殿下。」
扉の外から侍従の声が聞こえる。
「礼装職人がお見えになりました。」
「ありがとう。」
エリアスは立ち上がると、応接室へ向かった。
「お待たせしました。」
部屋へ入ると、礼装職人たちが一斉に頭を下げる。
「本日はよろしくお願いいたします。」
机の上には数枚のデザイン画と、美しい生地が並べられていた。
「王太子殿下の礼装でございますので、基本の礼装は決まっております。」
「本日は刺繍や装飾など、細部をご相談できればと。」
「よろしく頼むよ。」
エリアスは椅子へ腰掛け、一枚ずつデザイン画へ目を通していく。
どれも見事な出来栄えだった。
王太子として申し分ない礼装ばかりである。
「ご要望などございましたら、何なりと。」
職人の言葉に、エリアスは少しだけ考えた。
「……一つだけ。」
その一言に、職人たちは静かに耳を傾ける。
「リリアーナのドレスは、もう決まっているかな。」
侍従が少し驚いたように目を瞬かせた。
「確認いたしましょうか。」
「お願いできるかな。」
「畏まりました。」
侍従は一礼し、静かに部屋を後にする。
待つ間も、エリアスはデザイン画を眺めていた。
どの礼装も立派だった。
けれど、今日気になるのは、自分の礼装ではない。
しばらくして、侍従が戻ってくる。
「殿下。」
「アルディス公爵家へ確認いたしました。」
「リリアーナ様のドレスは、白を基調とし、紫をあしらったデザインとのことでございます。」
その報告を聞いたエリアスは、小さく微笑んだ。
「そうなんだ。」
その表情を見た職人が口を開く。
「でしたら、礼装にも紫を少し添えてはいかがでしょう。」
「胸元の刺繍を一部紫糸へ。」
「それから、ポケットチーフにも同系色を取り入れれば、並ばれた際に統一感が生まれます。」
差し出された新しいデザイン画。
白を基調とした王太子の礼装。
そこへ、ごく控えめに添えられた紫。
決して目立ちはしない。
けれど、その色は不思議なほど自然に礼装へ溶け込んでいた。
「……素敵ですね。」
職人は柔らかく微笑む。
「さりげない彩りでございます。お気に召していただけましたでしょうか。」
エリアスはデザイン画を見つめたまま、小さく頷く。
「うん。これでお願いするよ。」
その返事に、職人たちは安堵したように一礼した。
「ありがとうございます。」
「春までに、心を込めてお仕立ていたします。」
職人たちが退室したあと。
侍従がふっと微笑む。
「殿下らしいご希望でございました。」
「そうかな。」
「ええ。きっと、リリアーナ様もお喜びになることでしょう。」
その言葉に、エリアスは少し照れたように笑う。
「そうだと嬉しいな。」
窓の外では、穏やかな陽射しが王宮の庭を照らしていた。
来年の春。
リリアーナと並んで歩く、その日のために。
エリアスはもう一度デザイン画へ目を向け、静かに微笑んだ。
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