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第五十九話 16歳の秋



馬車がゆっくりと学園の正門前で止まる。


窓の外では、木々の葉が淡く色づき始め、秋風が静かに吹き抜けていた。


「すっかり秋ですね。」


リリアーナがそう呟くと、隣のエリアスも窓の外へ視線を向ける。


「ああ。ついこの前まで暑かったのに、季節が変わるのは早いものだね。」


「ええ。」


馬車を降りると、澄んだ空気が心地良く頬を撫でた。


登校してくる生徒たちも、どこか穏やかな表情を浮かべている。


「おはようございます!」


明るい声が響き、セレナが手を振りながら駆け寄ってきた。


「おはようございます、セレナ様。」


「おはよう。」


続いてオリヴィアも小走りでやって来る。


「お、おはようございます!」


「おはようございます、オリヴィア様。」


自然と四人で並んで歩き始める。


そこへフィンが眠たそうな表情で現れた。






「……おはよう。」


「おはようございます、フィン様。」


少し遅れてセドリックも姿を見せる。


「皆さん、お揃いでしたか。」


「セドリック様、おはようございます。」


いつの間にか六人が並んで校舎へ向かっていた。


ほんの少し前まで、それぞれ別々に過ごしていたはずなのに。


今ではこうして顔を合わせることが、当たり前の日常になっている。


「秋になると、お庭も綺麗になりますわね。」


セレナが嬉しそうに花壇へ目を向ける。


「来月には紅葉も始まるでしょうね。」


オリヴィアも微笑む。


その時だった。


「そういえば。」


セレナが何かを思い出したように声を上げる。




「私たちも十六歳になりましたし、そろそろ社交界デビューのお話が本格的になりますわね。」




「えっ……。」


オリヴィアの肩がぴくりと震えた。


「わ、私……ちゃんとご挨拶とかできるでしょうか。」


「今から心配しても仕方ないだろ。」


フィンが苦笑する。


「でも、不安になる気持ちは分かる。」


セドリックも静かに頷いた。


リリアーナはオリヴィアへ視線を向ける。






「きっと皆様も同じお気持ちです。」


「リリアーナ様……。」


「私もドキドキしていますよ」



リリアーナは少しお茶目にウインクをして微笑む。


その言葉と表情に、オリヴィアの表情が和らいだ。


「はい。ありがとうございます。」


穏やかな返事を聞き、リリアーナも微笑んだ。





皆となら大丈夫。


そんな気持ちが、自然と胸に浮かんでいた。


教室へ入ると、ほどなくして教師が姿を見せる。


教室内が静まり返る。


「皆さん、おはようございます。」


穏やかな声が教室に響く。


「さて、本日の授業ですが――。」


教師は教壇へ立つと、生徒たちをゆっくりと見渡した。






「皆さんも十六歳となり、社交界へ足を踏み入れる者も多くなるでしょう。」


教室の空気が少しだけ引き締まる。


「本日は、貴族として必要となる礼節について学びます。」


学園での日々は続いていく。


けれど、その先には。


新たな世界が、静かに待っていた。



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