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第五十七話 2つの亀裂
部屋へ戻り、制服から普段着へと着替えを済ませる。
窓の外は茜色に染まり、公爵家には穏やかな時間が流れていた。
「……少し、休みましょう。」
そう呟き、何気なく顔を上げた、その時だった。
「……。」
姿見に映る自分の姿。
その鏡には、細い亀裂が二本刻まれていた。
「……二つ。」
リリアーナは静かに鏡の前へ歩み寄る。
一本目の亀裂へ、そっと指先を添える。
すると、亀裂はゆっくりと溶けるように消えていった。
続けてもう一本にも触れる。
こちらも同じように、跡形もなく消えていく。
鏡には何事もなかったかのように、自分の姿だけが映っていた。
「……。」
本当は、オリヴィと攻略対象者が心を通わせるはずだった出来事。
それなのに。
私が、その役目を担ってしまった。
ゲームとは違う出来事。
ゲームとは違う結末。
けれど、あの時の選択を後悔はしていない。
誰かを守りたい。
その想いに従っただけなのだから。
鏡に映る自分をまっすぐ見つめ、リリアーナは静かに口を開く。
「私は、間違っていないわ。」
その言葉は誰に向けたものでもない。
自分自身へと、そっと言い聞かせるような小さな決意だった。




