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第五十二話 大切なもの【前編】

フィンのお話



二年生になって最初の校外演習の日。


澄み渡る青空の下、私たちは学園から少し離れた森へとやって来ていた。


「それでは、班ごとに行動してください。指定された薬草を採取し、昼までにこちらへ戻るように。」


先生の説明が終わると、生徒たちはそれぞれ班ごとに森へ散っていく。


「よーし!」


真っ先に歩き出したのはフィン様だった。


「校外演習って、やっぱりわくわくするよな!」


「まだ始まったばかりですよ。」


セドリック様が苦笑する。


「それでもだよ! 教室にいるより気持ちいいじゃないか!」


「それには同意します。」


ヴィンセント様は周囲の植物を眺めながら静かに頷いた。


「この辺りは学園の庭園とは植生が違います。見たことのない草花もありますね。」


「もう観察始めてる……。」


フィン様が肩をすくめる。


「ヴィンセントは森へ来ると楽しそうだな。」


「ええ。興味深い場所です。」


その真面目な返答に、思わず笑みがこぼれた。


「リリアーナ。」


隣を歩くエリアス様が小さく声を掛ける。


「疲れたら無理はしないで。」


「ありがとうございます。でも大丈夫です。」




短いやり取りを交わしながら、私たちは先生から渡された地図を頼りに森の中を進んでいく。


鳥のさえずり。


木々の間を吹き抜ける風。


一年生の頃は周囲を見る余裕もなかったけれど、今年は少しだけ景色を楽しめる自分がいた。


「あっ、これじゃないか?」


フィンがしゃがみ込み、一株の草を指差す。


ヴィンセントがすぐに覗き込む。


「違いますね。」


「早い!」


「葉の形が異なります。」


「なるほど、分からん!」


「堂々と言わないでください。」


セドリックの呆れた声に、その場が和やかな笑いに包まれた。


そんなやり取りを繰り返しながら薬草を採取し、気付けば昼が近付いていた。


「ちょうどいい時間ですね。」


先生の集合場所へ戻ると、それぞれ木陰へ腰を下ろし、昼食を広げる。


「やっぱり外で食べると美味しい!」


フィンは嬉しそうにお弁当を頬張っていた。


「家で食べるのと同じなのに、不思議ですよね。」


オリヴィアがくすりと笑う。


「雰囲気でしょうか。」


セレナも穏やかに微笑んだ。


「そういえば。みんな知ってる?」



ランチをそれぞれ置きながらみんなフィンに注目した



「実はここの森にある池の伝説…」


「伝説ですか?」

「なんですか!?それはとても気になりますね!」


オリヴィアもヴィンセントも興味津々


「まあまあ、落ち着いて!

ここの池には、底がないところがあるんだよ。その底に足を入れたら…」




少し声を低めにして怖い雰囲気をだすフィン



「足をいれたらどうなるんだ?」


エリアスは冷静に質問するが

フィンの答えを楽しみにしている様子だ。



「そのまま、落ちて違う世界に行くんだって」




「つまり!異世界にいくってことですか?!」

「でも呼吸出来ないから異世界辿り着くまでに苦しくなりそうですね」



またしてもオリヴィアとヴィンセントのコンビネーションにリリアーナも思わず笑った


「池に入らない様に気を付けましょう」


リリアーナは持っていたサンドイッチを置いてハンカチで口をおさえた




「あ、でも僕にはこれがあるから大丈夫!池におちても大丈夫」




フィン様は首から下げていた小さなお守りを指先でつまむ。


「これ、妹にもらったんだ。」


淡い色の布で丁寧に作られた、小さなお守り。


少し不格好だけれど、心のこもった温かさが伝わってくる。


「初めてのお小遣いで買ってくれたらしくてさ。」


どこか照れくさそうに笑う。


「だから、これがあるから僕は大丈夫!」


「とても素敵ですね。」


リリアーナがそう言うと、フィンは少し照れたように頭をかいた。


「だろ?」


その笑顔は、どこか誇らしげだった。


昼食を終え、再び演習が始まる。


午後は森の奥へ進み、追加の課題に取り組むことになった。


木々の間を歩きながら、皆で地図を確認し、薬草を探していく。


そして、演習も終わりが見え始めた頃。


「……あれ?」


不意に、フィンが立ち止まった。


腰元やポケットを何度も探る。


その表情から笑顔が消えていく。


「どうかしましたか?」


「……ない。」


小さく漏れた声。





「お守りが……ない。」


その一言に、辺りの空気が静かに張りつめた。




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