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第四十七話 守り抜いた先に



騒然としていた競技場は、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。


教師たちは負傷者の手当てに奔走し、騎士団は周囲の警戒を続けている。


魔法獣は討伐されたものの、誰一人として安堵しきった表情ではなかった。


学園を守るはずの結界が破られた。


その事実は、誰の胸にも重くのしかかっていた。





「競技大会は本日ここまでとします。」


学園長の落ち着いた声が会場へ響く。


「詳細については後日説明します。皆さんは教師の指示に従い、落ち着いて行動してください。」


その声を聞き、生徒たちは少しずつ競技場を後にしていった。







リリアーナとオリヴィアは念のため保健室へ運ばれていた。


「異常はありませんね。」


治癒魔法を終えた保健教諭が微笑む。


「念のため今日は無理をしないようにしてください。」


「ありがとうございます。」


二人は揃って頭を下げた。


保健教諭が部屋を出ると、静かな空気が流れる。




窓から差し込む午後の日差しだけが、部屋を優しく照らしていた。







「……リリアーナ様。」


オリヴィアが静かに口を開く。







「改めて、お礼を言わせてください。」


ベッドから降りると、深く頭を下げた。


「本当にありがとうございました。」




震える声だった。


あの時の恐怖を思い出したのだろう。


リリアーナは慌てて立ち上がる。


「あ、頭を上げてください。」


「でも……。」





「無事でいてくださって、本当によかったです。」


オリヴィアは静かに息を整えた。

  

「リリアーナ様。」


「はい。」


「私……あの時、本当に怖かったんです。魔法獣が見えた瞬間、頭が真っ白になってしまって……。何もできませんでした。」



リリアーナは何も言わず、ただ耳を傾ける。




「でも。」



オリヴィアはゆっくりと顔を上げた。



「あの時、聞こえたんです。私の名前を呼ぶ声が。」



その一言を思い出しただけで、表情が柔らかくなる。


「私の名前を呼んで、真っ先に駆けつけてくださった。それが……とても嬉しかったんです。」



ぽろり、と涙がこぼれる。



「助けていただけたことももちろん嬉しかったんです。でも、それ以上に……。」






「私を助けたいと思ってくださる人がいたことが、嬉しくて……。」





オリヴィアは涙を拭くのも忘れてリリアーナの手をそっと取り頭を下げた



「オリヴィア様、泣かないで。

私もあなたを守れてよかったわ」



リリアーナはオリヴィアの手を握り返していた




リリアーナにあった小さな戸惑いはもう何処にもなかった










✳✳✳✳✳✳


コンコン。


扉がノックされる。


「入ってもいいかな?」


聞き慣れた優しい声だった。


「エリアス様。」


扉を開けたエリアスは、リリアーナの姿を確認すると、小さく安堵の息をついた。


「怪我はない?」


「はい、大丈夫です。」





リリアーナの返事をきいて、

エリアスのその表情からは張り詰めていた緊張が伝わってくる。


「無茶をしたね。」


「……ごめんなさい。」


リリアーナは少し俯く。


けれどエリアスは静かに首を振った。


「謝ってほしいわけじゃない。」







ゆっくりと歩み寄る。


「君が無事で、本当によかった。」


その一言に、リリアーナの胸がじんわりと温かくなる。


「ご心配をおかけしました。」






「本当に心配した。」


そう言って微笑むエリアスに、リリアーナも自然と笑みを返した。






✳✳✳


その後、フィンたちも保健室へやって来た。


「リリアーナ! 本当に無事でよかった!僕、心臓止まるかと思ったよ!」


大げさに胸を押さえるフィンに、思わず笑みがこぼれる。


「見事な判断でした。」


セドリックは静かに称賛した。


「あの場で防御魔法を選択したことが、多くの命を救いました。」


「ありがとうございます。」


すると、その横から勢いよくヴィンセントが身を乗り出す。


「ところで、あの結界なんだけど!」


「魔力構成はどうなってるの!? 透明なのにあれだけの強度があるなんて——」


「ヴィンセント。」


セドリックが肩を掴む。


「今日は休ませてあげなさい。」


「あっ……そうだった。」


ヴィンセントは気まずそうに頭をかいた。


「ご、ごめん!」


その様子がおかしくて、部屋には穏やかな笑い声が広がった。


事件の恐怖はまだ消えていない。


それでも、大切な人たちが笑っている。


その光景を見て、リリアーナは心から思う。


(守れて……よかった。)


その笑顔を見つめながら、そっと胸元に手を当てた。

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