表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/151

第四十六話 砕けぬ想い





「オリヴィア様!!」


リリアーナは地面を強く蹴った。


風を切る音が耳元を駆け抜ける。


ただ、その背中だけを見つめて。


「え……?」


オリヴィアはようやく異変に気付き、振り返る。


目の前には、巨大な魔法獣。


振り上げられた鋭い前脚が、容赦なく迫っていた。


恐怖で身体が動かない。


「……っ!」


間に合って──!


リリアーナはオリヴィアを力いっぱい抱き寄せる。


そのまま前へ滑り込むように身体を入れ替え、杖を高く掲げた。


「《クリスタル・シールド》!!」





淡い藤色の魔法陣が足元に広がる。





幾重にも重なる魔法陣は静かに回転し、澄み切った魔力が空気を満たしていく。


次の瞬間。


二人を包み込むように、透明な結界が現れた。


磨き上げられた水晶のように。


陽光を浴びて七色に煌めくその姿は、まるで硝子細工だった。


会場中が息を呑む。


恐怖の中だったが、その美しい結界に

心を奪われ息を呑んだあとため息さえでていた



誰かが思わず漏らした声さえ、静寂に溶けていく。


その刹那――。


ガキィィィンッ!!


凄まじい衝撃が結界を襲った。


魔法獣の鋭い爪が結界へ叩きつけられる。


衝撃で地面が揺れ、砂煙が舞い上がる。




「リリアーナ!!」


エリアスの叫びが響いた。


観覧席から悲鳴が上がる。


誰もが固唾を呑み、砂煙の向こうを見つめていた。


やがて風が砂煙を払う。


そこには――。


透明な結界に守られた二人の姿があった。


「助かった……!」


安堵の声があちこちから漏れる。


結界は、魔法獣の一撃を完全に防ぎ切っていた。


けれど。


(……やっぱり。)


リリアーナだけが、その違和感に気付く。


透明な結界の表面。


一本の細い線が、ゆっくりと伸びていく。


ピシッ。


硝子へ走るような、小さなヒビ。


誰にも見えていない。


リリアーナだけが、その音を聞いた。


(また……。)


(運命を変えたのね。)


ヒビは一瞬だけ光を反射すると、何事もなかったかのように静かに消えていった。


「リリアーナ!」


エリアスが駆け寄ってくる。


その後ろからフィン、セドリック、ヴィンセント、そして騎士たちも続いた。


「二人とも無事か!」


「はい……!」


リリアーナは結界を維持したまま頷く。


その額には細かな汗が滲んでいた。


エリアスは結界越しにリリアーナを見つめる。


「結界は維持できる?」


「まだ大丈夫です!」


「分かった!」


エリアスは力強く頷き、剣を抜いた。


「リリアーナ。」


「君が守ってくれた。」


「今度は僕たちが終わらせる。」


その言葉に、リリアーナは静かに微笑む。


「お願いします。」


「行くぞ!」


エリアスの号令とともに、騎士たちが一斉に動き出した。




左右から魔法獣を挟み込み、その動きを封じる。


フィンは風魔法で足を止める。


セドリックが土魔法で進路を制限する。


ヴィンセントは騎士たちへ的確に魔法支援を送る。


連携は見事だった。


魔法獣が咆哮を上げる。


しかし、もう誰も恐れてはいない。


エリアスは大きく踏み込み、剣へ魔力を込める。


黄金色の光が刃を包み込んだ。





「これで終わりだ!」


鋭い一閃。


光の軌跡が空を裂き、魔法獣を貫いた。





魔法獣は大きく身体を震わせると、低いうめき声を残して地面へ崩れ落ちる。


静寂。


先ほどまでの混乱が嘘のようだった。


やがて、一人の教師が大きく息を吐く。


「……終わった。」


その言葉をきっかけに、会場全体が安堵に包まれた。


結界が静かに消える。


膝をついたオリヴィアは、小さく肩を震わせていた。


「リリアーナ様……。」


震える声で名前を呼ぶ。


その瞳には涙が浮かんでいた。


「どうして……。」


「どうして私を助けてくださったんですか?」


リリアーナは少しだけ困ったように笑う。


そして、優しく答えた。






「……守りたいと思ったからです。」





その一言に、オリヴィアの瞳から涙がこぼれ落ちた。


「ありがとうございます……。」


リリアーナはそっとオリヴィアの手を握る。


「もう大丈夫ですよ。」


その温もりに、オリヴィアは何度も頷いた。


「リリアーナ。」


エリアスが歩み寄る。


その表情は安堵と心配が入り混じっていた。


「怪我は?」


「大丈夫です。」


そう答えた声は穏やかだった。


けれど、差し出した手は小さく震えていた。


エリアスはその震えに気付き、何も言わずそっと手を包み込む。


「よく頑張った。」


その優しい言葉に、張り詰めていた緊張が少しだけほどける。


リリアーナは小さく笑みを浮かべた。



リリアーナは誰にも気付かれないよう、結界へ視線を向けた。



透明な結界の表面。



そこには、一本の細いヒビが走っていた。

ピシッ……。



誰にも見えていない。



リリアーナだけが、そのヒビを見つめる。



やがてヒビは静かに消え、結界も光の粒となって空へ溶けていった。




(やっぱり……。)

(私はまた、未来を変えた…?)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ