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第四十一話 繋がる欠片

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王宮のお茶会から数日。


久しぶりの休日を迎えたリリアーナは、自室の机へ静かに向かっていた。


窓から差し込む陽射しが、机の上へ優しく降り注ぐ。


クララが淹れてくれた紅茶からは、ほのかに花の香りが漂っていた。





「少し、一人で考えてみよう……。」


小さく呟き、机の引き出しから一冊のノートを取り出す。


羽根ペンを手に取り、ゆっくりと文字を書き始めた。


『温室』


『ハンカチの刺繍』


『婚約』


『王宮のお茶会』


そして少し離れた場所へ、もう一つ書き加える。




『オリヴィアとの出会い』


リリアーナは羽根ペンを止めた。


「全部……ゲームとは違う出来事。」


最初はそう思っていた。


だからガラスへヒビが現れるのだと。


けれど――。


「違う……。」


静かな部屋に、自分の声だけが響く。


最初に思い返したのは、温室での出来事だった。





頭の中へ響いた、あの声。





それでも自分は、その声に抗い、オリヴィアへ言葉を掛けることができた。


その瞬間。


温室の窓へ、一筋のヒビが走った。



次に視線を落としたのは、『ハンカチの刺繍』という文字だった。


エリアスへ贈る、一枚のハンカチ。


ゲームの悪役令嬢リリアーナなら、自ら針を持つことはなかっただろう。


侍女へ任せれば済むことだった。


けれど私は違った。




(エリアス殿下に喜んでいただきたい。)



その想いだけで、一針一針、心を込めて刺繍をした。


そして、その時も――。


ガラスにヒビが入った。


「……そうだ。」


あれも、同じだった。




続いて思い浮かぶのは、婚約の日。


本来なら政略として結ばれるだけだった二人。


けれど今回は違った。


エリアスも。


自分も。


互いの意思で未来を選んだ。


だから、ガラス細工へヒビが入った。

 


そして王宮のお茶会。


ゲームイベントなら、エリアスが友人たちを紹介する相手はオリヴィアだった。


セドリック。


フィン。


ヴィンセント。


皆、本来はオリヴィアと出会い、少しずつ絆を育んでいく。


けれど今回は――。





「私だった……。」





あの日、馬車の中で見た手鏡のヒビが脳裏に浮かぶ。


リリアーナはノートへ視線を戻した。






残る一つ。





『オリヴィアとの出会い』


あの日も、ゲームとは違う出来事だった。


【来ないで。】と言ってしまった言葉



自分の意思ではない。


あの声に引きずられ、そう言ってしまった。






けれど――。


「あの日は……。」


ヒビは現れなかった。


リリアーナは静かに目を閉じる。


「どうして……?」


何が違ったのだろう。





温室。


ハンカチの刺繍。


婚約。


王宮のお茶会。


そして、オリヴィアとの出会い。


一つ一つを思い返しながら、ノートへ線を引いていく。


やがて、一つの答えが胸の中で形になり始めた。






「ゲームと違ったからじゃない……。」


小さく呟く。



「私が……。」





羽根ペンの先が止まる。






「私が、自分の意思で運命に抗えた時だけ……。」


その瞬間だけ。


ヒビが現れている。


逆に。


運命へ流されてしまった時は、何も起きなかった。




「そういうことだったの……?」





胸の鼓動が少し速くなる。


まだ確信ではない。


けれど、偶然とは思えなかった。


リリアーナは新しいページを開く。


そこへ大きく書く。





『次のゲームイベント』





「思い出さないと……。」


静かに目を閉じ、前世の記憶を辿る。


ズキッ――。


鋭い痛みが頭を走る。


思わず額へ手を当てる。


白く霞む視界。


遠くから聞こえる歓声。


青く広がる空。


学園の広い競技場。


そして、一人の少女。


笑顔のオリヴィア。


その隣には――。


「……!」


リリアーナは勢いよく目を開いた。





「次は……。」


かすかに思い出した記憶。


それは、散らばっていた欠片を繋ぐ、新たな記憶だった。




リリアーナはノートを胸へ抱き寄せ、小さく息を吐く。


「この仮説が正しいなら……。」


次のイベントで、確かめられる。


自分は本当に運命を変えられるのか。






それとも――。



まだ知らない真実が、この先に待っているのか。




散らばっていた記憶と出来事は、少しずつ一つの線となり始める。


運命へ抗う少女は今、その欠片を繋ぎ合わせながら、静かに真実への扉を開こうとしていた。

一日2話以上更新予定!

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