第三十九話 好奇心の先に
和やかな笑い声が庭園に響く。
フィンの明るい話に、リリアーナも自然と笑みを浮かべていた。
そんな穏やかな時間の中、ふとフィンが辺りを見回した。
「あれ?」
「どうかした?」
周りを見渡しながらエリアスが尋ねると、フィンは首を傾げる。
「ヴィンセントがまだ来てないなって。」
その名前に、リリアーナは小さく首を傾げた。
「ヴィンセント様……?」
「僕たちのもう一人の友人なんだ。」
エリアスが優しく微笑む。
「勉学も剣術も優秀なんだけど……少し変わったところがあってね。」
セドリックが苦笑する。
「"少し"でしょうか。」
「いや、かなりだよ。」
フィンが肩をすくめた。
その時だった。
「……お待たせしました。」
落ち着いた声が聞こえ、一人の青年がゆっくりと歩いてくる。
艶のある黒に近い焦茶色の髪。
澄んだ青灰色の瞳。
穏やかな雰囲気を纏いながらも、不思議と人の目を引く存在感があった。
「ヴィンセント。」
エリアスが笑顔を向ける。
「待ってたよ。」
ヴィンセントは一礼する。
「申し訳ありません。父に呼び止められておりました。」
そして静かにリリアーナへ向き直った。
「初めまして。」
丁寧に一礼する。
「ヴィンセント・グランディアと申します。」
リリアーナも優雅に礼を返す。
「初めまして。リリアーナ・アルディスと申します。」
ヴィンセントはリリアーナをじっと見つめ、小さく頷いた。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」
突然の言葉にリリアーナは少し驚きながらも頷く。
「はい。」
「リリアーナ様は、本がお好きですか?」
「はい。読書は好きです。」
「歴史書ですか?」
「それも読みます。」
「植物図鑑は?」
「好きです。」
「薬草も?」
「少しですが。」
「温室で育てていらっしゃるのですか?」
「はい。」
「どのお花がお好きですか?」
「えっと……。」
「紅茶は何がお好きですか?」
「休日は何をされていますか?」
「刺繍は?」
「料理は?」
「乗馬は?」
「犬派ですか? 猫派ですか?」
「学園で一番好きな授業は?」
「え、えっと……。」
次から次へと質問が飛んでくる。
答えようと口を開くたび、新しい質問が続く。
リリアーナは目をぱちぱちと瞬かせた。
「ヴィ、ヴィンセント様……?」
その様子を見ていたフィンが、とうとう吹き出した。
「はははっ! また始まった!」
セドリックは額に手を当て、小さく息をつく。
「興味を持つと、止まらないんです。」
エリアスも苦笑した。
「ごめんね、リリアーナ。ヴィンセントは悪気があるわけじゃないんだ。」
その言葉に、ヴィンセントはようやく我に返ったように瞬きをした。
「あ……。」
少しだけ視線を伏せる。
「申し訳ありません。知りたいことが、たくさんありまして。」
あまりにも真剣な謝罪だった。
リリアーナはきょとんとしたままヴィンセントを見つめる。
そして――
「……ふふっ。」
思わず笑みがこぼれた。
「こんなにたくさん質問されたのは、初めてです。」
その笑顔に、その場の全員が思わず目を丸くする。
フィンは大笑いしながら言った。
「でしょ? 僕も初めて会った時、質問攻めにされたんだから!」
セドリックが静かに付け加える。
「フィンは質問の途中で逃げましたが。」
「だって終わらないんだもん!」
フィンが抗議すると、ヴィンセントが真顔で口を開いた。
「二十八問でした。」
その場が一瞬静まり返る。
「……数えてたの?」
フィンが呆然と尋ねると、ヴィンセントは当然のように頷いた。
「はい。」
その返事に、全員が思わず吹き出した。
庭園には楽しそうな笑い声が響き渡る。
その輪の中心で笑うリリアーナを見つめながら、エリアスはそっと胸を撫で下ろした。
(……よかった。)
学園では「悪役令嬢」という噂が広がり、どれほど気丈に振る舞っていても、リリアーナが心を痛めていることをエリアスは知っていた。
だからこそ、自分の大切な友人たちに会ってほしかった。
信頼できる仲間たちと笑い合う時間が、少しでも彼女の心を軽くしてくれたなら、それだけで十分だった。
楽しそうに笑うリリアーナの姿を見つめ、エリアスも優しく微笑む。
(その笑顔が見られて、本当によかった。)
最終回まで執筆完了!あとは届けるだけ!是非ご覧ください!




