第三十八話 絆
エリアスは穏やかな笑みを浮かべながら、二人の青年へ視線を向けた。
「リリアーナ、紹介するね。」
二人は揃って歩み寄る。
先に口を開いたのは、深い紺色の髪を持つ青年だった。
背筋を真っ直ぐに伸ばし、その立ち居振る舞いには気品が漂っている。
「初めまして。」
静かな声とともに、一礼する。
「セドリック・フォン・ローゼンと申します。エリアス殿下とは幼い頃より、勉学をご一緒しております。」
落ち着いた物腰に、リリアーナも優雅に一礼を返した。
「初めまして。リリアーナ・アルディスと申します。本日はお目にかかれて光栄です。」
セドリックは穏やかに微笑んだ。
「殿下からは、よくお話を伺っております。」
「え……?」
思わずエリアスを見ると、当の本人は少し照れたように頬をかいていた。
「そんなに驚かなくても……。」
「エリアスは、リリアーナ様のお話をされる時だけ表情が柔らかくなりますから。」
さらりと言われ、リリアーナの頬がほんのり赤く染まる。
「セドリック……。」
エリアスは困ったように笑う。
「本当のことですよ。」
そのやり取りに、もう一人の青年が堪えきれず吹き出した。
「ははっ! 相変わらず遠慮がないね、セドリック。」
明るい声とともに一歩前へ出る。
陽の光を受けて輝く金茶色の髪。
人懐っこい笑顔が印象的な青年だった。
「初めまして! 僕はフィン・アシュフォード!」
元気よく頭を下げる。
「殿下とは剣術の鍛錬でいつも一緒なんです。」
「初めまして、フィン様。」
「様なんていりませんよ。フィンって呼んでください!」
あまりに気さくな言葉に、リリアーナは少し驚き、それから自然と笑みがこぼれた。
「では……フィンさん。」
「はい!」
満面の笑みで返事をするフィンに、その場の空気が一気に和らぐ。
「そうだ。」
フィンはリリアーナのドレスへ目を向けた。
「そのドレス、とても綺麗ですね。夜空から朝焼けになる空みたいだ。
今日リリアーナ様が会場に来た時、会場にいた人たちが釘付けでしたよ。」
リリアーナは少し頬を赤らめながらドレスへ視線を落とす。
「あ、ありがとうございます。嬉しいいけど…少し恥ずかしい」
「まあ、一番釘付けになったのはエリアスだけどねー!」
にやりと笑ってエリアスの肩に手を回す
そんな行動にリリアーナも思わず頬が緩む。
散々からかわれてエリアスは苦笑する。
「からかうな。」
「いつもリリアーナ様のことばかり言ってるくせになぁ」
笑うフィンにつられ、リリアーナも小さく笑った。
その笑顔は、学園で見せるどこか無理をしたものではない。
心から自然にこぼれた笑顔だった。
その様子を見つめるエリアスは、静かに胸を撫で下ろす。
(……よかった。)
学園では「悪役令嬢」という噂が広がり、どれほど平静を装っていても、リリアーナが心を痛めていることをエリアスは知っていた。
だからこそ今日、自分の大切な友人たちを紹介したかった。
信頼できる友人たちと過ごす時間が、少しでも彼女の心を軽くしてくれたなら――。
そう願っていた。
楽しそうに笑い合う三人を見つめながら、エリアスは穏やかに微笑む。
(その笑顔が見られて、本当によかった。)




