第三十七話 希望をまとって(後編)
会場へ一歩足を踏み入れると、優雅な弦楽器の音色が耳に届いた。
天井には幾重にも連なる大きなシャンデリアが輝き、陽光を受けた無数のガラス細工が、まるで星空のような光を床へ映し出している。
色鮮やかな花々で飾られた会場には、王都中の名だたる貴族たちが集い、穏やかに談笑を交わしていた。
「アルディス公爵閣下、ご夫人、本日はようこそお越しくださいました。」
王宮の侍従が恭しく一礼し、一家を会場の中央へと案内する。
リリアーナは周囲へ自然と視線を巡らせた。
(ゲームで見た景色と同じ……。)
豪華な装飾も、優雅な音楽も変わらない。
「リリアーナ。」
聞き慣れた穏やかな声に、リリアーナは振り返る。
そこには、微笑むエリアスが立っていた。
王族らしい正装に身を包み、その姿は会場の誰よりも気品に満ちている。
周囲の視線を感じながら、リリアーナは美しく一礼した。
「お招きいただき、ありがとうございます。エリアス殿下。」
「来てくれて嬉しいよ。」
その一言に、自然と肩の力が抜ける。
公の場ではあるが、エリアスの微笑みは学園で見せるものと変わらず温かかった。
ふと、エリアスの視線がリリアーナの胸元へ向けられる。
「そのブローチ……。」
リリアーナもそっと胸元へ手を添えた。
「はい。今日のドレスには、どうしても身に着けたいと思って。」
エリアスは少し驚いたように目を丸くしたあと、照れたように笑った。
「……ありがとう。大切にしてくれているんだね。」
「もちろんです。」
その短いやり取りだけで、二人の間には穏やかな空気が流れる。
そんな2人の空気を周囲は興味深く
見つめている
エリアスは困ったように笑い、小さく声を潜めた。
「リリアーナ、少し外行こうか」
「はい。」
二人は会場の窓際へと歩みを進める。
庭園を望む大きな窓からは、色とりどりの花々が風に揺れる様子が見えていた。
「今日はリリアーナに紹介したい人たちがいるんだ。」
エリアスがそう言って微笑む。
「僕にとって、大切な友人たちなんだ。」
その言葉に、リリアーナの鼓動がわずかに速くなる。
(いよいよ……。)
ゲームでは、このお茶会で初めて攻略対象たちと顔を合わせる。
けれど、ここはもうゲームの世界でありながら、ゲーム通りではない世界。
だからこそ、先入観を持たず、一人ひとりと向き合いたい。
そう思った、その時だった。
「エリアス。」
落ち着いた声が聞こえ、二人は同時に振り返る。
庭園の小道を歩いてくる二人の少年たち。
それぞれ纏う雰囲気は違うのに、不思議と並んでいる姿はよく似合っていた。
エリアスは柔らかく笑う。
「ちょうど来てくれた。」
そしてリリアーナへ視線を向ける。
「リリアーナ。紹介するよ。」
新しい出会いが、静かに始まろうとしていた。
落ち着いた青年の声が聞こえ、二人は同時に振り返る。
そこには、数人の少年たちがこちらへ歩いてきていた。




