表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/151

第三十六話 希望をまとって(前編)


 王宮のお茶会当日――。


 窓から差し込む柔らかな朝日が、リリアーナの部屋を優しく照らしていた。


「お嬢様、お目覚めのお時間でございます。」


 クララが静かにカーテンを開ける。


 爽やかな朝風が部屋を通り抜け、庭園の花々が陽の光を受けて輝いていた。


「おはよう。」


 ゆっくりと身を起こしたリリアーナは、小さく深呼吸をする。


(今日、なのね。)





 王宮のお茶会。


 前世では、ゲームの物語が大きく動き始める重要なイベント。


 けれど今は、あの頃と同じ未来ではない。


 オリヴィアとも出会い、エリアス殿下とも少しずつ言葉を交わし、自分自身も変わってきた。


 だからこそ――。




(運命は、変えられる。)


 昨夜、自分に言い聞かせた言葉を胸の中でそっと繰り返した。






 身支度を終えたリリアーナの前へ、クララが一着のドレスを運んでくる。


「お嬢様、お待たせいたしました。」


 丁寧に広げられたそのドレスに、リリアーナは思わず息を呑んだ。


 夜空を思わせる深い紫。


 裾へ向かうにつれて、朝焼けを映したような淡いラベンダーへと溶け込んでいく、美しいグラデーション。


 金糸で刺繍された繊細な花々は、朝日を浴びて優しく煌めいていた。


「……綺麗。」


 自然と零れたその一言に、クララが嬉しそうに微笑む。


「お嬢様がお選びになったドレスですもの。」


 リリアーナは静かに頷いた。


 夜から朝へ。


 絶望から希望へ。


 この色には、自分の願いが込められている。


 クララが胸元へそっとブローチを留める。


 


 幼い頃誕生日でエリアス殿下から贈られた、大切なブローチだった。


 鏡の中で小さく光るそれを見つめ、リリアーナは優しく微笑む。


「ありがとう、クララ。」


「とんでもございません。本当にお美しいです、お嬢様。」


 照れくさそうに笑うリリアーナを見て、クララも嬉しそうに笑みを浮かべた。




✳✳✳✳✳✳✳✳


 玄関では、公爵夫妻と兄のルシアンが待っていた。


「おはようございます。」


 姿を現したリリアーナを見た瞬間、その場の空気が静かに止まる。


「……まあ。」


 最初に声を漏らしたのは母だった。


「本当に素敵……。」


父も穏やかに目を細める。


「よく似合っている。」


「ありがとうございます、お父様、お母様。」


ルシアンは妹の姿を見つめ、ふっと笑った。


「これは会場が騒ぎそうだ。」


「お兄様まで……。」


頬を染める妹に、家族から自然と笑みがこぼれる。


その温かな空気に包まれながら、一行は馬車へ乗り込んだ。





王宮へ近づくにつれ、街並みは次第に華やかさを増していく。


やがて馬車は、大きな門の前でゆっくりと止まった。


白亜の王宮。


手入れの行き届いた広大な庭園。


噴水の水音が心地よく響き渡り、色とりどりの花々が来客を迎えている。


「アルディス公爵家、ご到着。」

従者が扉を開く。


リリアーナはゆっくりと馬車を降りた。






その瞬間――。


「あれがアルディス公爵家の令嬢……。」


「なんて綺麗なお嬢様……。」


周囲から小さなざわめきが聞こえてくる。


 視線が一斉に集まることに少しだけ緊張しながらも、リリアーナは背筋を伸ばし、落ち着いた足取りで歩き出した。





(大丈夫。)


(私はもう、一人じゃない。)


家族がいて。


友達がいて。


信じられる人たちがいる。


だから前を向いて歩ける。


王宮の大扉が静かに開かれる。


その先には、優雅な音楽と、華やかな社交の世界が広がっていた。


リリアーナは静かに息を吸い込み、その一歩を踏み出す。






新しい未来へ向かって――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ