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第三話 生きる覚悟



あの日から、三日が過ぎた。


窓から差し込む朝日を見つめながら、私は静かに目を閉じる。


三日。




たった三日。




それなのに、私の世界はすっかり変わってしまった。


前世の記憶。


十八歳で迎える断罪。


そして、死。


夢ではない。


あれは確かに、私が見た未来だった。





「お嬢様?」


クララの優しい声に、私はゆっくりと振り返る。


「またお考え事ですか?」


「……少しだけ。」


そう答えると、クララはどこか寂しそうに微笑んだ。


「最近のお嬢様は、少し大人びてしまわれました。」


その言葉に胸が痛む。





私は変わってしまった。


五歳の私の中に、二十五歳だった私の記憶がある。


もう、何も知らずに笑っていた頃には戻れない。


だけど。


変わらなければ、生き残れない。


私は窓の外へ目を向けた。


庭には白いユリが静かに咲いている。


あの日から、少しずつ記憶が戻ってきている。


鏡。


ユリ。


何かをきっかけに、前世の記憶が断片となって蘇る。


私は知らなければならない。


未来を。


そして、この世界を。


生きるために。


「思い出さなきゃ……。」


私は小さく呟く。





怖い。


思い出すたびに胸が苦しくなる。


それでも。


思い出さなければ、未来は変えられない。


私は目を閉じ、静かに記憶をたぐり寄せた。





王立学園。


王子様。


一人の少女。


誰からも愛され、笑顔で周囲を照らす物語の主人公。


私はその物語を何度も遊んだ。


彼女は出会い、恋をして、幸せになっていく。


その途中で困難にぶつかりながらも、多くの人に支えられ、未来を切り開いていく物語だった。


そして。




その少女の前に立ちはだかる、一人の令嬢。


高慢で。


誇り高く。


誰よりも王子様を慕い。


嫉妬に心を支配され、主人公を傷つける存在。





「……あ。」


胸が締めつけられる。


喉が震える。


「私……。」


震える声が漏れる。






「あれは……私だ。」


ゲームの中で何度も見た悪役令嬢。


ヒロインを苦しめる存在。


断罪される存在。






その令嬢は――私だった。


私はぎゅっと胸元を押さえる。


苦しい。


悲しい。


怖い。


でも。


私はゆっくりと息を吸った。


「あんな未来には、なりたくない。」




あれは未来の私。


今の私は、まだ五歳。





何も始まっていない。


まだ、やり直せる。


まだ、変われる。


「死にたくない。」






違う。


私は小さく首を振る。


そうじゃない。


本当に言いたいことは、もっと違う。


私は静かに微笑んだ。





「……生きたい。」


その言葉は、朝の光の中へ静かに溶けていった。


胸の奥に、小さな灯火がともる。


まだ弱く、頼りない灯火。


それでも、その光は確かに私の中で揺れていた。


私は、その灯火を両手でそっと守るように胸に手を当てる。




生きるために。


私は、私を変えていく。


その小さな決意は、誰にも聞こえなかった。




けれど、それは確かに――リリアーナ・フォン・アルディスが、自分の意思で踏み出した最初の一歩だった。

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